日本主導:この研究は、筆頭著者・責任著者、または著者の主要所属が日本の研究機関である研究です。

掲載誌:Molecules

ライセンス: CC BY 対象: 公開論文 確認元: OpenAlex

「同じ緑茶」でも成分の割合は大きく違う

緑茶はどれもチャノキという同じ植物の葉から作られます。それでも、栽培の仕方や収穫時期、加工、いれ方によって、含まれる成分の量や割合は大きく変わります。この論文は、日本の代表的な緑茶である抹茶・煎茶・玉露について、カテキン、カフェイン、アミノ酸といった主要成分の分析データをまとめ、それらの違いが品質や働きにどう関わるかを論じた総説(既存の研究を整理して論じる論文)です。

著者らが特に重視しているのは、成分どうしの「相互作用」です。たとえば、うま味成分のアミノ酸であるテアニンにはストレスを和らげる働きが報告されていますが、カフェインや、緑茶の代表的なカテキンであるEGCG(エピガロカテキンガレート)はその働きを打ち消す方向に作用しうるとされます。一方、日本の緑茶でテアニンに次いで多いアミノ酸の一つであるアルギニンは、テアニンと似た働きを示すと紹介されています。著者らは、個々の成分だけでなくその「バランス」が重要だと述べています。なお、著者らは、緑茶と抹茶の成分差を包括的に測った研究はまだ少なく、結論の一部は自分たちの過去の研究に基づいていることも明記しています。

抹茶・煎茶・玉露の成分の違い

抹茶と玉露は、収穫前に20日ほど以上、茶の木を覆って日光を遮る「被覆栽培」で作られます。直射日光の下ではテアニンが分解され、その一部がカテキンの材料になりますが、日光を遮るとこの流れが抑えられます。その結果、テアニンが多くカテキンが少ない、うま味が強く渋みの少ないお茶になります。一方、煎茶は日光を十分に浴びた葉から作られます。

論文では、日本で販売されている抹茶のうち、テアニンが特に多い3製品と特に少ない3製品の平均値が比べられています。テアニンは多い側で茶葉1グラムあたり41ミリグラム、少ない側では約2割の8.5ミリグラムでした。テアニンの少ない抹茶はカフェインが約8割にとどまる一方、EGCGは1.4倍多く含まれていました。著者らは、二番茶や秋の葉、被覆が不十分な葉が加工用抹茶の原料として使われることが、こうした違いにつながると説明しています。また、日本国外で販売されていた67銘柄の抹茶を調べた研究では、テアニンの多い製品はごくまれで、中程度の製品でも日本のテアニンの少ない抹茶と同程度だったと報告されています。

煎茶でも、収穫時期によって成分が変わります。一番茶に比べ、秋に摘む秋番茶はテアニンがかなり少なく、カテキンが多いとされます。いれ方の影響も調べられており、一番茶をいれた実験では、成分の溶け出す量は1.5分ほどまで急速に増え、その後はほぼ横ばいでした。1.5分の時点で、カフェイン・テアニン・アルギニンは葉に含まれる量の50%以上が溶け出していたのに対し、EGCGは約30%でした。同じ葉で何杯もいれると、5杯目までにテアニンやカフェインなどはほぼすべて出たのに対し、EGCGは約7割にとどまりました。硬水ではカテキンやカフェインが溶け出しにくくなるという過去の報告も紹介されています。

玉露は低めの温度でいれるのが一般的です。湯の温度を40〜80℃で変えた分析では、温度が上がるほど全成分が増え、特にカフェインの増え方が大きい一方、テアニンとアルギニンは温度の影響を比較的受けにくいことが示されました。著者らは、冷水でいれた玉露はうま味が強く、苦みや渋みが少ない飲み物になると述べています。

成分の組み合わせが働きを左右する

ストレスへの影響については、著者らの過去の研究を中心に紹介されています。原著では、テアニンとアルギニンがストレスを和らげる働きを示し、カフェインとEGCGはその働きを打ち消す(拮抗する)とされています。マウスでは、ストレスの目安として副腎の肥大が使われました。著者らが成分のバランスを表す指標として用いている「CE/TA比」が2以下の抹茶を混ぜた餌では、ストレス下でも副腎の肥大が有意に抑えられました。一方、この比が3.2以上の抹茶では効果が見られませんでした。人を対象にした研究では、ストレスの指標として唾液中の酵素(アミラーゼ)の活性が測られました。CE/TA比が1.79の抹茶3グラムを飲むと活性が有意に下がりましたが、10.64の抹茶では有意な低下は見られなかったと報告されています。煎茶では、玉露や一番茶でこの比が3未満、アミノ酸が少なくカテキンが多い二番茶や秋番茶では3を超えていました。

このほか論文は、成分どうしの組み合わせに関するさまざまな研究を整理しています。テアニンとEGCGについては、神経細胞の保護や肝臓の保護、でんぷんの消化を抑える働きなどが、細胞や動物の実験で報告されています。テアニンとカフェインについては、人での試験で、カフェイン75ミリグラムとテアニン50ミリグラムの組み合わせが、それぞれ単独よりも注意力を要する課題の成績や気分を高めたという報告が紹介されています。カフェインとEGCGについては、組み合わせることで体内に取り込まれるEGCGが増えたという人での報告がある一方、肥満を抑える効果は人の研究では控えめで、研究によるばらつきが大きいとまとめられています。

ただし著者らは、ここで紹介した研究の一部が、精製した成分や緑茶抽出物、日本以外の緑茶を使って行われたものであることを注意点として挙げています。そのため、実際の日本の緑茶の働きをそのまま反映しているとは限りません。多くの組み合わせについて、研究がまだ少ないことや、最適な比率は分かっていないことも繰り返し述べられています。

この研究が伝えること

この総説が示しているのは、同じ成分を含む緑茶でも、その量や割合の違いによって働きが変わりうるということです。「抹茶」という名前が同じでもテアニンの量には大きな差があり、テアニンの少ない抹茶ではストレスを和らげる働きが得られない可能性があると著者らは指摘しています。市販の抹茶にはテアニン量の表示がほとんどなく、消費者が包装から違いを見分けるのは難しいのが現状です。抹茶の需要が世界的に高まるなかで、品質による成分の違いについて正確な情報を伝えることが大切だと、この論文は訴えています。

原著論文の著者・所属:Keiko Unno(Tea Science Center, University of Shizuoka, 52-1 Yada, Suruga-ku, Shizuoka 422-8526, Japan)、Yoko Kameoka(Tea Science Center, University of Shizuoka, 52-1 Yada, Suruga-ku, Shizuoka 422-8526, Japan)、Yoriyuki Nakamura(Tea Science Center, University of Shizuoka, 52-1 Yada, Suruga-ku, Shizuoka 422-8526, Japan)

※本記事は原著論文をもとに、日本語で要約・説明を加えた研究紹介です。 出典(原著論文):Keiko Unno, Yoko Kameoka, Yoriyuki Nakamura. Compositional Diversity and Functional Interactions of Bioactive Compounds in Japanese Green Tea: Focus on Matcha, Sencha, and Gyokuro. Molecules 2026-08-21. DOI: 10.3390/molecules31162934. 原著ライセンス:CC BY.