著者の所属・活動拠点の国は、中国です。

掲載誌:Beverages

ライセンス: CC BY 対象: 公開論文 確認元: OpenAlex

研究の目的

緑茶の味の良し悪しを語るとき、中国では「濃厚でまろやか」という表現が重視されます。この味わいは、緑茶の品質等級や市場価値を判断する中心的な官能指標とされています。官能指標とは、人が実際に見て、嗅いで、味わって評価する品質の目安のことです。一方で、この味わいが具体的にどのような特徴を持ち、どの成分がどう関わって生まれるのかについては、研究者のあいだで統一された見解がまだありません。

この論文は、新たな実験の報告ではなく、これまでの研究を整理した総説です。著者らは、2000年から2026年の文献を対象に、緑茶の濃厚でまろやかな味わいについて、人が感じる仕組み、評価の方法、味を形づくる化学成分、成分どうしの相互作用をまとめています。

著者らによると、中国の国家規格(GB/T 14487-2017)では、「濃厚」は成分が多く渋みが強い状態、「まろやか」は濃さがほどよく口当たりがなめらかな状態とされています。ただし、こうした定義は実際の評価に使うには曖昧で、粘りやなめらかさといった口の中の触感が果たす独自の役割が見落とされがちだと指摘しています。また、カテキン、カフェイン、テアニンが基本的な成分であることは広く認められているものの、これらの量とこの味わいとの具体的な関係については合意がないことも、課題として挙げています。

味覚・嗅覚・触覚が組み合わさって生まれる味わい

著者らは、濃厚でまろやかな味わいは舌で感じる味だけで決まるのではなく、味覚、嗅覚、口の中の触覚から届く信号を脳が統合して生まれる、と整理しています。

味覚では、甘みとうま味がこの味わいと深く結びついており、なかでも甘みが土台とされています。甘みは舌の甘味受容体で感知され、ほかの味と組み合わさることで、互いを強めたり弱めたりします。嗅覚では、飲み物に含まれる香り成分が鼻の奥から嗅覚受容体に届き、味の情報と合わさって、より完成された風味の感覚になるとされます。さらに、とろみ(粘度)やなめらかさといった口の中の触感も、「濃さ」の感覚に直接影響すると紹介されています。

どのように評価するか

評価方法として著者らがまず挙げるのは、訓練を受けた評価者による官能評価です。味や香りを表す用語を階層的に整理した「フレーバーホイール」という図や、決められた用語と尺度で各特性の強さを点数化する「定量的記述分析」は、評価のばらつきを抑え、わずかな違いを捉えるために使われています。ただし、人による評価は個人差や体調の影響を受けやすく、再現性を高めるためには抽出条件の統一や評価者の訓練が欠かせないと述べられています。

これを補うのが機器分析です。液体クロマトグラフィー質量分析などで味に関わる成分を定量したり、ガスクロマトグラフィー質量分析で香り成分を調べたりする方法、そして多数の代謝物を一度に網羅的に測るメタボロミクスが紹介されています。ある緑茶の研究では、茶液から104種類の不揮発性成分が定量され、その中でカテキン類を含むフラバン-3-オール類の濃度が最も高かったと報告されています。また、人の味覚をまねたセンサーである「電子舌」は、産地や等級の違う茶を見分けることができ、その結果は官能評価とよく対応するとされています。

さらに近年は、電子舌、香りを測る電子鼻、成分データなどを機械学習で統合し、味の分類や予測を行う試みも進んでいます。ただし、著者らはこの分野をまだ初期段階と位置づけています。電子舌では「濃さ」のような口の触感まで再現できないこと、AIモデルは別の条件への当てはまりが弱く判断の根拠が分かりにくいことなど、それぞれの方法に限界があることも併せて指摘しています。

味わいを支える成分とその相互作用

著者らは、この味わいの化学的な基盤を、茶ポリフェノール、アミノ酸、カフェイン、可溶性糖類といった不揮発性成分と、香り成分との協調的な働きとしてまとめています。

茶ポリフェノールは茶葉の乾燥重量の約18〜36%を占め、その60〜80%がカテキン類です。なかでもEGCGなどのエステル型カテキンは苦みや渋みが強く、緑茶の「濃さ」を左右する主な成分とされます。一方、アミノ酸の中心となるのは茶に特有のテアニンで、遊離アミノ酸全体の半分以上を占めることが多いとされます。テアニンはうま味を与えるとともに、カテキンやカフェインの苦みや渋みを和らげ、まろやかさやなめらかさを高めると紹介されています。

成分どうしの相互作用も重要です。総説によれば、カフェインはカテキン類、特にエステル型カテキンと水素結合で複合体をつくります。その結果、カフェインの苦みとカテキンの渋みがほどよく抑えられ、刺激の少ない、奥行きのある味になるとされています。苦みの強さがカフェインの量と単純に比例しないのは、このためだと説明されています。

著者らは、茶ポリフェノールと遊離アミノ酸の比率(フェノール・アミノ酸比)を、味の品質を評価する重要な指標として紹介しています。比率がおよそ6のときに濃厚でまろやかな味わいが優れ、渋みが目立たなかったとする研究や、高品質な緑茶ではこの比が4〜6.85程度であるとの報告が挙げられています。ただし著者らは、この範囲がすべての緑茶に当てはまる普遍的な値ではないことも断っています。

この総説が示すこと

この総説から見えてくるのは、緑茶の濃厚でまろやかな味わいは特定の一つの成分で決まるものではない、ということです。多くの成分のバランスと相互作用、そして味覚・嗅覚・触覚の統合によって生まれる、複雑な感覚だと考えられます。著者らは、人による官能評価と機器分析、データ解析を組み合わせることが、この味わいを客観的に捉え、緑茶の品質管理を標準化するうえで重要だと結論づけています。

原著論文の著者・所属:Haowei Sun(College of Horticulture, Qingdao Agricultural University, Qingdao 266109, China; State Key Laboratory of Tea Plant Germplasm Innovation and Resource Utilization, Tea Research Institute, Chinese Academy of Agricultural Science, Hangzhou 310008, China)、Jianyong Zhang(State Key Laboratory of Tea Plant Germplasm Innovation and Resource Utilization, Tea Research Institute, Chinese Academy of Agricultural Science, Hangzhou 310008, China)、Yue Shi(State Key Laboratory of Tea Plant Germplasm Innovation and Resource Utilization, Tea Research Institute, Chinese Academy of Agricultural Science, Hangzhou 310008, China)、Hongchun Cui(Tea Research Institute, Hangzhou Academy of Agricultural Science, Hangzhou 310024, China)、Weiwei Wang(State Key Laboratory of Tea Plant Germplasm Innovation and Resource Utilization, Tea Research Institute, Chinese Academy of Agricultural Science, Hangzhou 310008, China)、Jianxin Chen(State Key Laboratory of Tea Plant Germplasm Innovation and Resource Utilization, Tea Research Institute, Chinese Academy of Agricultural Science, Hangzhou 310008, China)、Fang Wang(State Key Laboratory of Tea Plant Germplasm Innovation and Resource Utilization, Tea Research Institute, Chinese Academy of Agricultural Science, Hangzhou 310008, China)、Hongbing Gao(State Key Laboratory of Tea Plant Germplasm Innovation and Resource Utilization, Tea Research Institute, Chinese Academy of Agricultural Science, Hangzhou 310008, China)、Jindan Wang(School of Urban Construction, Hangzhou Polytechnic, Hangzhou 311402, China)、Lei Zhao(College of Horticulture, Qingdao Agricultural University, Qingdao 266109, China)、Junfeng Yin(State Key Laboratory of Tea Plant Germplasm Innovation and Resource Utilization, Tea Research Institute, Chinese Academy of Agricultural Science, Hangzhou 310008, China)

※本記事は原著論文をもとに、日本語で要約・説明を加えた研究紹介です。 出典(原著論文):Haowei Sun, Jianyong Zhang, Yue Shi, et al. Research Progress on Evaluation Methods, Chemical Composition, and Interaction Effects Regarding the Thick and Mellow Flavor of Green Tea. Beverages 2026-07-28. DOI: 10.3390/beverages12080085. 原著ライセンス:CC BY.