著者の所属・活動拠点の国は、中国です。
掲載誌:Food Chemistry X
ライセンス: CC BY-NC-ND 対象: 公開論文 確認元: OpenAlex
ゼリーやグミ、カプセル、化粧品など、私たちの身近にある「ゲル状の食品・製品」の多くはゼラチンから作られています。ゼラチンは冷やすと固まる性質を持ちますが、その固まりやすさや強度、食感は、加工の際の条件によって変化することが知られています。近年、食品加工の分野では「プラズマ活性化水(PAW)」と呼ばれる、電気的なプラズマ処理によって活性酸素・窒素種などの反応性物質を含ませた水が、殺菌や食品改質の手段として注目されています。今回、江蘇大学食品科学工程学院と陝西理工大学生物科学工程学院の研究者らが、このプラズマ活性化水がゼラチンのゲル形成にどのような影響を与えるのか、その仕組みを分子レベルで検証した研究をフード・ケミストリー・エックス誌に発表しました。
酸性化と酸化、二つの作用を切り分けて調べる
プラズマ活性化水は水を酸性化させる働きと、過酸化水素(H2O2)などによる酸化作用の両方を併せ持つとされています。この研究では、どちらの作用がゼラチンの性質変化に関わっているのかを見分けるため、ゼラチンを「pH調整のみ」「過酸化水素処理のみ」「pH調整と過酸化水素処理の組み合わせ」「プラズマ活性化水処理」という4つの条件で個別に処理し、冷却過程でのゲル化の進み方を、物理化学的な性質や分子構造の変化、分子同士の結びつき方(分子間相互作用)、ゲルとしての機能特性という観点から比較しています。
それぞれの処理でゼラチンに何が起きたか
pHを調整した条件では、ゼラチン分子の表面電荷の分布が変わり、分子同士が反発し合う力(静電反発)が保たれることで、より小さな凝集体が形成されやすくなったと報告されています。その結果、らせん状に折れ曲がった構造の一種であるβターンの含有量が38.90%に、イオン結合の割合が15.23%まで増加したとされています。
一方、過酸化水素処理では酸化による分子の変化が起こり、硫黄を含むアミノ酸残基(スルフヒドリル基)が酸化されるとともに、疎水性相互作用(水になじみにくい部分同士が引き合う力)が強まり、ゲル化温度が低下したことが示されています。ただしこの処理では、ゼラチンの三重らせん構造にもとづく架橋の一部が壊れてしまうことも確認されたとのことです。
これに対しプラズマ活性化水で処理した場合には、pH調整と酸化作用が単純に足し合わされるのではなく、相乗的な効果が生じ、水素結合が強まるとともに共融点(凍結・融解に関わる温度の目安)が低下し、ゲル形成の特性が有意に高まったことが報告されています。さらに分子ドッキングという計算手法を用いた解析でも、プラズマ活性化水に由来する反応性物質がゼラチンとの間で水素結合や疎水性相互作用を促進することが確認されたとされています。
この研究の位置づけと読むうえでの注意
この研究は、プラズマ活性化水によるゼラチンの構造変化とゲル形成の仕組みを分子レベルで明らかにした基礎研究であり、食品用途への応用に向けた理論的な裏付けを示すものと位置づけられています。ここで示された知見は実験条件下で得られたものであり、この一つの研究結果をもって、実際の食品加工におけるプラズマ活性化水の効果や安全性が確定したわけではない点には留意が必要です。なお、本研究の著者らは中国・江蘇大学と陝西理工大学に所属しており、日本の研究機関や日本の食品・食習慣への言及は、提供された資料の範囲では見当たりませんでした。
まとめ
今回の研究では、プラズマ活性化水がゼラチンに与える影響を、酸性化と酸化という二つの作用に分けて検証し、それぞれが分子構造やゲルの性質にどう関わるかが整理されました。特にプラズマ活性化水では、水素結合の強化などを通じて単独の処理よりも高いゲル形成効果が見られたことが示されています。今後、こうした知見が食品加工技術の改良にどうつながっていくのか、さらなる研究の展開が注目されます。
著者:Mengzhe Li(School of Food Science and Engineering, Jiangsu University, Zhenjiang 212013, China)、Ruichang Gao(Bio-resources Key Laboratory of Shaanxi Province, School of Biological Science and Engineering, Shaanxi University of Technology, Hanzhong 723001, China)、Xin Wang(School of Food Science and Engineering, Jiangsu University, Zhenjiang 212013, China)、Wengang Jin(Bio-resources Key Laboratory of Shaanxi Province, School of Biological Science and Engineering, Shaanxi University of Technology, Hanzhong 723001, China)、Xiaoli Zhang(School of Food Science and Engineering, Jiangsu University, Zhenjiang 212013, China)、Li Yuan(School of Food Science and Engineering, Jiangsu University, Zhenjiang 212013, China)、Tong Shi(School of Food Science and Engineering, Jiangsu University, Zhenjiang 212013, China)
※本記事は原著論文の翻訳ではなく、研究内容を独自に解説したものです。出典(原著論文):Mengzhe Li, Ruichang Gao, Xin Wang, et al. Mechanistic insight into the regulation of gelatin hydrogels structure and gel-forming properties by reactive species in plasma-activated water. フード・ケミストリー・エックス (2026). DOI: 10.1016/j.fochx.2026.104312. 原著ライセンス: cc-by-nc-nd.