著者の所属・活動拠点の国は、中国です。
掲載誌:Foods
ライセンス: CC BY 対象: 公開論文 確認元: OpenAlex
中国貴州省のミャオ族に伝わる「紅酸湯(ホンスワンタン)」は、トマトや唐辛子、もち米を自然発酵させてつくる酸味の強い調味料で、乳酸などの有機酸や、リコピン、ポリフェノール、カロテノイドといった成分を含むとされています。この紅酸湯を肉餡に混ぜた餃子の具材は貴州の名物食品ですが、酸味のある調味料と肉を組み合わせた食品は保存中に風味が落ちやすいという課題があります。研究グループの予備的な官能評価では、作りたての紅酸湯餡が持つ特徴的な風味が、保存7日間で7割以上も弱まってしまったといいます。今回紹介する研究は、この餡の保存性と賞味期限を、食品添加物の組み合わせによってどこまで延ばせるかを調べたものです。
研究チームは中国・貴州大学食品科学工程学部などに所属する研究者で構成されており、原料となる紅酸湯餃子餡は貴州の食品会社(貴州築糧生態科技食品有限公司)が保有する配合をもとに調製されました。
D-イソアスコルビン酸ナトリウム、リン脂質、乳酸ナトリウムを組み合わせて配合を最適化
研究では、酸化を抑える働きが報告されているD-イソアスコルビン酸ナトリウム、微生物の抑制や保水に関わるとされる乳酸ナトリウム、そして脂質の分散や界面の安定化に関わるとされるリン脂質という3つの添加物を組み合わせた「複合保存システム」を検討しました。それぞれの添加量を変えながら実験計画法(Box-Behnken法という統計的な手法)を用い、過酸化物価(油脂の酸化の進み具合を示す指標)、官能評価の総合点、生菌数(APC)という3つの指標をもとに配合を最適化しています。その結果、D-イソアスコルビン酸ナトリウム0.27%、リン脂質0.11%、乳酸ナトリウム0.05%という配合が、酸化を抑えつつ官能評価も保ち、生菌数も抑えるバランスの良い組み合わせとして選ばれました。
この最適配合を加えた餡(TG群)と、何も加えない餡(CK群)を、冷蔵条件を想定した5℃と、氷点下の流通を想定した−5℃で保存し、色、脂質の酸化(過酸化物価とTBARS=チオバルビツール酸反応性物質)、総揮発性塩基窒素(TVB-N、肉の鮮度の指標)、食感、官能評価、生菌数、大腸菌群数を経時的に測定しました。
脂質酸化の抑制と、温度によって異なる劣化の様子
結果として、複合保存システムを加えたTG群は、5℃保存では過酸化物価を対照群に比べておよそ70〜80%、TBARSを44〜57%抑えたと報告されています。−5℃保存では過酸化物価をおよそ75〜85%、TBARSを48〜73%抑えたとされ、脂質の酸化を強く抑制する効果が示されました。色に関しても、赤み(a*値)の低下がTG群でより緩やかだったことが確認されています。食感については、保存にともなう硬さや噛みごたえの増加をTG群が抑えた一方、弾力性(springiness)への効果は温度によって異なる傾向を示したとされています。
官能評価の総合点は、5℃保存の終了時点でTG群が対照群よりおよそ30%高く、−5℃保存では24日目の時点でおよそ70%高かったと報告されています。また、生菌数についても5℃保存でTG群が一貫して低く、大腸菌群数は5℃保存の4〜8日目でおよそ51〜73%減少したとされています。−5℃保存では対照群で24日目に大腸菌群が検出された一方、TG群では検出されなかったとのことです。
賞味期限の予測モデルからみえてきたこと
この研究では、官能評価による「受け入れ可否」のデータと、統計的な生存時間分析の手法(対数ロジスティック分布を用いた加速故障時間モデル)を組み合わせて、官能的な賞味期限(半数の人が受け入れられなくなる時点、SSL50)を推定しています。5℃、−5℃に加えて、−18℃での長期保存実験(最長125日間、複数回のサンプリング)のデータも使われました。その結果、SSL50は5℃で対照群4.44日からTG群6.49日へ、−5℃で16.70日から22.90日へ、−18℃で108.99日から136.76日へと、それぞれ延長したと報告されています。
一方、過酸化物価を基準にした化学的な賞味期限の延長幅は、5℃で11.0日から14.5日、−5℃で15.8日から18.8日、−18℃では124.3日から224.3日と、低温になるほど延長幅が大きくなる傾向が見られました。これは官能的な賞味期限の延長率が低温になるほど小さくなる傾向とは逆の動きで、冷凍状態では脂質の酸化の進み方と食感などの官能的な劣化が別々の速度で進む(両者が「切り離される」)ことを示していると著者らは指摘しています。この観察をふまえ、著者らは、餃子餡のような食品の賞味期限を決める際には、単純な相対的な延長率だけに頼るのではなく、官能評価と対応づけた絶対的な化学指標のしきい値を設定する必要があると論じています。
この研究を読むうえでの注意点
この研究は、貴州の紅酸湯餃子餡という特定の食品を対象にした一つの研究であり、今回示された配合や数値がそのまま他の食品や他の保存条件に当てはまるとは限りません。また、賞味期限の推定値は統計モデルによる予測であり、実際の製品すべてに同じ結果が保証されるものではない点にも留意が必要です。
著者:Jiqing Lei(Department of Food Science and Engineering, Guiyang University, 103 Jianlongdong Road, Guiyang 550005, China)、Menglin Huang(Department of Food Science and Engineering, Guiyang University, 103 Jianlongdong Road, Guiyang 550005, China)、Tian Jianzhi(Department of Food Science and Engineering, Guiyang University, 103 Jianlongdong Road, Guiyang 550005, China)、Jinyong Deng(Department of Food Science and Engineering, Guiyang University, 103 Jianlongdong Road, Guiyang 550005, China)、Xueqin Wang(Guizhou Zhuliang Ecological Technology Food Company Limited, Guiyang Agricultural Products Logistics Park, Guiyang 550200, China)、Rui Wang(Guizhou Key Laboratory of New Quality Processing and Storage of Ecological Specialty Food, 103 Jianlongdong Road, Guiyang 550005, China)
※本記事は原著論文の翻訳ではなく、研究内容を独自に解説したものです。出典(原著論文):Jiqing Lei, Menglin Huang, Tian Jianzhi, et al. Combined Effects of Sodium D-Isoascorbate, Phospholipids and Sodium Lactate on Storage Stability and Shelf Life of Red Sour Soup (Hong Suan Tang) Meat Filling. フーズ (2026). DOI: 10.3390/foods15152743. 原著ライセンス: cc-by.