インドをはじめアジアやアフリカの一部で古くから栽培されてきた雑穀のひとつに、リトルミレット(Panicum sumatrense)がある。乾燥にも過湿にも強く、少ない水と資材で育てられる短期収穫の作物で、地域によってはサーマイ、サマル、クトキといった呼び名でも知られる。小粒でつやのあるクリーム白色の粒には、ビタミンB群やミネラルに加えて、フェノール化合物、フラボノイド、フィトステロール、生理活性ペプチドなども含まれているという。栄養面で注目される一方、フィチン酸やタンニン、酵素阻害物質といった抗栄養因子も含むため、栄養素の消化吸収を妨げる可能性があり、これが世界的な消費量の少なさの一因になっていると考えられている。こうした背景から、インドの大学の研究グループが、リトルミレットを発酵させることで加工しやすく栄養価の高い即席食品(レディ・トゥ・ユース、RTU)に変えられないかを検証した研究を報告した。
発酵させた粒はどう変わったか
研究ではまず、リトルミレットの粒を100gあたり500mLの水に浸し、種菌を加えずに常温で6〜48時間の各時間発酵させ、粒の性質がどう変化するかを比較した。12時間発酵させた粒は、未発酵の粒に比べて吸水量(0.23gから0.28gへ)や膨潤容積(0.25mLから0.31mLへ)、粒の容積(1,000粒あたり2.95mLから3.10mLへ)、多孔性(0.65%から0.74%へ)、滴定酸度が増加し、逆にpH(6.99から5.32へ)、1,000粒重(2.68gから2.56gへ)、糊化温度(78.99℃から75.51℃へ)、炊飯(調理)時間(17.90分から12.73分へ)は低下した。研究チームはこれらの変化を、発酵によって加工特性と消化性が改善したことを示すものと位置づけている。
比較対照として使われた米と黒豆(ブラックグラム)の発酵ドーサ(南インドの発酵クレープ状の食品)についても、6〜42時間の各発酵時間で作った生地を15名の準訓練パネリストが9段階の嗜好尺度で評価したところ、見た目・食感・風味・味・総合評価のいずれも12時間発酵で最も好まれる結果となり、以降のリトルミレット配合の検討でも12時間が発酵時間として採用された。
配合の最適化と、できあがった即席ミックスの中身
リトルミレット、米、黒豆、緑豆(グリーングラム)を組み合わせた4種類の配合(例えば米を使わずリトルミレット70%・黒豆30%とする配合など)を作り、同じ12時間発酵・常温条件で焼いたドーサの官能評価を行ったところ、リトルミレット・米・黒豆を5:2:3の比率で混ぜた配合が、見た目・色・香り・食感・味・総合評価のすべてで最も高い評価を得た。この配合が最適なRTUドーサミックスとして選ばれ、以降の分析対象になっている。
この最適配合のミックスは、対照(米70%+黒豆30%の配合)と比べて、水溶解性指数、油保持力、分散性、流動性、凝集性がいずれも高い値を示した一方、水吸収指数や泡立ち性は対照より低かった。栄養成分の分析では、たんぱく質16.80%、粗繊維7.53%、食物繊維11.48%、灰分2.77%と対照より増加し、脂質2.80%、炭水化物66.56%、エネルギー366.19kcal/100gは対照より低下した。また総糖・還元糖・非還元糖は増加し、逆にでんぷん・アミロース・アミロペクチンは減少しており、研究チームはこれを発酵による炭水化物の変化(分解や再構成)を反映したものと説明している。実際、対照に対して、たんぱく質のin vitro消化性は77.36%から86.91%へ約12.3%向上した一方、炭水化物のin vitro消化性は75.84%から66.28%へ約12.6%低下したことも報告されている。常温で45日間保存した試験では、pHや酸度、可溶性固形分(TSS)に統計的な変化が見られたことも記録されている。
この研究をどう読むか
本研究は、地域の市場から入手した特定品種を指定しないリトルミレットのプールサンプルを対象に、研究室規模で発酵・配合・保存条件を検討したものであり、産地や品種の違いによる結果への影響までは扱われていない。得られた数値は今回設定した条件(発酵時間、配合比率、保存温度など)のもとでのものであり、家庭や実際の商品化の場面でそのまま再現される保証があるわけではない。また、たんぱく質や食物繊維の増加、消化性の変化といった結果は、あくまでこの研究で観察された値であって、健康上の効果を証明するものではない点にも注意したい。
研究チームは、この成果を、リトルミレットのような気候変動に強い雑穀(気候変動耐性作物)の利用を広げ、精製穀物に偏りがちな食生活の多様化や、地域の未利用穀物の価値向上につなげる一例として位置づけている。
※本記事は原著論文の翻訳ではなく、研究内容を独自に解説したものです。参考文献:W. Jessie Suneetha, K. B. Nirmala, G. Swarupa Rani, et al. Ready-to-use fermented little millet dosa mix as a sustainable functional food for nutrition security and climate-resilient food systems. フロンティアーズ・イン・サステイナブル・フード・システムズ (2026). DOI: 10.3389/fsufs.2026.1927171.