エチオピアをはじめとするアフリカの角(ホーン・オブ・アフリカ)地域では、「テフ」という穀物を発酵させて作るフラットブレッド「インジェラ」が主食として親しまれています。しかしインジェラは常温保存中にカビや微生物による品質劣化が起こりやすく、収穫後の食品ロスの一因になっているとされています。今回紹介する研究は、身近な香辛料であるニンニクとローズマリーの粉末を使って、この保存性の課題に取り組んだものです。
研究チームは、ニンニク(Allium sativum)とローズマリー(Rosmarinus officinalis)の粉末を1%または2%(重量比)の割合でテフ・インジェラに加え、25±2℃、湿度65±5%という環境で5日間保存した際の変化を調べました。評価した項目は、水分量、水分活性(食品中で微生物が利用できる水の量を示す指標)、総好気性菌数(一般的な細菌の数)、そして酵母・カビの量です。あわせて、事前に同意を得た50名の準訓練パネリストによる7段階評価(ヘドニックスケール)を用いた官能評価も行われました。
研究でわかったこと
結果として、ニンニク粉末とローズマリー粉末はいずれも、無添加のインジェラと比べて微生物の増殖を遅らせ、品質の劣化を抑える傾向が見られたと報告されています。中でも2%のローズマリー粉末が最も高い保存効果を示し、水分活性を0.92前後またはそれ以下に保ち、酵母・カビの量を無添加のものと比べて約1.0 log10 CFU/g(対数目盛りでの菌数の差)減少させたとされています。
一方、2%のニンニク粉末も微生物の増殖抑制効果を示したものの、ニンニク特有の強い香りや風味の影響で、味や香りに関する官能評価のスコアはやや低くなったと報告されています。これに対し、2%ローズマリー粉末を添加したインジェラは、5日間の保存期間を通じて良好な官能特性を保っていたとされています。
研究チームは、こうした保存効果はローズマリーやニンニクについてこれまで報告されてきた抗菌作用と一致する内容だとしつつも、今回の研究ではどの成分がその効果を担っているのかまでは特定していない、としています。
この研究の位置づけ・読むうえでの注意
この研究は、25℃前後・湿度65%前後という特定の保存条件のもとで、5日間という限られた期間に行われたものです。一部の条件では5日目の時点でもまだ品質が許容範囲内にあったため、インジェラが最終的にどこまで保存できるのか(最大の保存期間)は今回の研究では確定しておらず、著者らはより長期の保存試験が必要だとしています。
また、この研究は特定の実験条件下での結果であり、ニンニクやローズマリーの粉末が病気や食中毒を防ぐと結論づけるものではありません。あくまで一つの研究成果として捉え、今後さらなる検証が積み重ねられていく可能性がある段階と理解しておくとよいでしょう。
まとめ
今回の研究では、ニンニクとローズマリーの粉末、特に2%濃度のローズマリー粉末が、テフ・インジェラの微生物増殖を抑え、保存中の品質と官能的な受容性を維持するのに役立つ可能性が示唆されました。ローズマリー粉末は安価で入手しやすい天然由来の材料であることから、著者らは伝統的な発酵食品の保存性を高める一つの選択肢になりうるとしています。今後、より長期の保存条件での検証が期待されます。
※本記事は下記の原著論文を紹介するものです。参考文献:ニンニクとローズマリー粉末のテフ・インジェラにおける微生物増殖抑制と保存期間延長効果(アプライド・フードリサーチ・2026年12月掲載予定)