著者の所属・活動拠点の国は、インドネシアです。
掲載誌:International Journal of Management Science and Information Technology
ライセンス: CC BY 対象: 公開論文 確認元: OpenAlex
研究の目的
インドネシアの零細・中小規模の食品事業者には、製造中の温度や湿度などの条件を記録し、どの製造ロット(同じ条件でまとめて作られた一回分の製品)がどのような環境で作られたかを後からたどれる、手軽な仕組みが求められています。研究チームは、こうした事業者向けに、センサーで測った製造環境のデータと、QRコードで識別するロットの記録を、一つのスマートフォン画面で確認できる試作システムを設計しました。
著者らは、この試作の位置づけについて慎重な姿勢を示しています。温度や湿度の測定値は役に立つ運用上の情報ですが、微生物による汚染や衛生状態そのものを直接測るものではありません。そのため論文では、このシステムを、危害分析、衛生管理の手順、微生物検査の代わりになるものではなく、選んだ環境指標を記録するための道具として位置づけています。同様に、QRコードはロットとデジタル記録を結びつける目印であり、それ自体が食品の安全性や本物であることを保証するものではないと説明しています。
どのような仕組みを設計したか
試作システムは四つの層で構成されています。まず、センサーが揚げ工程の油の温度、製造室の湿度、冷蔵庫や冷凍庫の温度を測ります。次に、マイコン(小型の制御用コンピューター)がそのデータを現場で簡単に整え、無線通信でクラウド上のデータベースへ送ります。最後に、スマートフォンのアプリが、現在の測定値、過去の推移を示すグラフ、製造時間のタイマー、異常時の記録などを表示します。論文の部品表には複数の候補部品が挙げられていますが、著者らは、これらを同時に試験した部品として受け取らないよう注記しています。
アプリには、ロットごとにQRコードを割り当て、製造日時、温度や湿度の記録、製造時間などを読み取れるようにする機能も組み込まれる設計です。さらに、温度・湿度・製造時間をもとに、作業中の状態を「低リスク」「中リスク」「高リスク」と表示する指標も盛り込まれています。
報告された結果と限界
論文が示す結果は、一部の測定データとアプリ画面のスクリーンショットから確認できる範囲の、初期的な動作の観察です。著者らは、センサーを基準となる測定器と比べる校正、通信の信頼性、データが画面に届くまでの遅れ、QRコードの読み取り成功率、複数ロットにわたる現場での評価は、まだ実施・記録されていないと明記しています。したがって、今回の結果は、システムの構想と画面上の作業の流れを示すものであり、食品の安全性や記録の正確さが改善したことを示すものではないとしています。
リスク指標についても、著者らは当初の考え方を見直しています。温度、湿度、時間は単位も意味も異なるため、そのまま足し合わせることはできません。論文では、この指標を検証済みの「衛生スコア」ではなく暫定的な運用上のリスク表示と位置づけ、三段階の区分も仮の表示ラベルにとどめるべきだとしています。各項目を共通の尺度にそろえて重みづけする計算方法も示されていますが、これは今回の研究で計算した結果ではなく、提案された枠組みとして示されています。また冷蔵保管の温度は、すべての食品に共通の範囲で判断するのではなく、保管する食品に応じた基準で評価する必要があると述べています。
この研究が示すこと
この研究は、食品の製造環境の記録とロットの追跡を、小規模な事業者でも扱いやすい形で一つの画面にまとめるという設計の方向性を示しています。同時に、実際の製造現場で使う前に、どのような検証が必要かを具体的に整理している点も特徴です。著者らは、この試作を検証済みの食品安全評価システムとしてではなく、さらなる実証が必要な初期段階の統合設計として報告しています。
原著論文の著者・所属:Muhammad Jufri(Institut Teknologi Batam)、Hendra Maulana(Universitas Pembangunan Nasional Veteran Jawa Timur)、Sriwanti Belani(Universitas Muhammadiyah Luwuk Banggai)、Iim Al Imron(Universitas Bhakti Husada Indonesia)、Graceilla Kristia Sheraphim Budiono(Universitas Sugeng Hartono)、Deosa Putra Caniago(Institut Teknologi Batam)、Putri Desmitha Natasya(Institut Teknologi Batam)
※本記事は原著論文をもとに、日本語で要約・説明を加えた研究紹介です。 出典(原著論文):Muhammad Jufri, Hendra Maulana, Sriwanti Belani, et al. IoT-Based Monitoring Prototype for Food Production Conditions and Batch Traceability in Indonesian SMEs. International Journal of Management Science and Information Technology 2026-11-01. DOI: 10.35870/ijmsit.v6i2.8669. 原著ライセンス:CC BY.