著者の所属・活動拠点の国は、中国です。
掲載誌:npj Science of Food
ライセンス: CC BY-NC-ND 対象: 公開論文 確認元: OpenAlex
東南アジアなどでは、エビを塩とともに発酵させた「シュリンプペースト」が古くから調味料として使われています。地域によっては、エビだけでなく穀物や唐辛子といった植物性の材料を一緒に発酵させる「サワーシュリンプペースト」という作り方もあり、独特の酸味と香りを持つことが知られています。動物性の材料と植物性の材料をともに発酵させるという工程自体は、アジアの発酵食品に広く見られる伝統的な手法ですが、材料の組み合わせが香りの成り立ちにどう影響するのかは、これまで詳しく分かっていませんでした。中国・北京工商大学の研究グループは、この材料の配合(基質組成)に着目し、香り成分の分析と微生物群集の遺伝子解析(メタゲノム解析)を組み合わせて、サワーシュリンプペーストの香りがどのように形づくられるのかを調べました。
材料の配合を変えると何が起きたか
研究チームは、エビペーストのみのものから、エビペーストに穀物や唐辛子を加えて発酵させたものまで、複数の配合パターンを比較しました。まず分かったのは、植物性材料を加えることで発酵物の酸性度が大きく変化した点です。エビペーストのみの場合はpH7.8とほぼ中性でしたが、植物性材料を加えるとpH4.7〜5.9まで下がり、明確な酸味を持つようになりました。
香り成分の傾向にも違いが見られました。エビの含有量が多い配合では、硫黄を含む化合物や窒素を含む化合物が増える傾向が示されました。一方で、穀物や唐辛子を加えた配合では、エステル類、アルコール類、酸類、アルデヒド類、テルペノイド類、ノルイソプレノイド類といった、より幅広い種類の香り成分が増加したと報告されています。さらに、エビペーストと植物性材料をともに発酵させた場合には、分岐鎖を持つ揮発性成分や、2,3-ジメチルブタノール、4-ビニルグアイアコール、メチルトリスルフィドといった特定の香り成分が増える傾向も確認されました。研究チームはこれらの結果について、動物性の材料と植物性の材料のあいだで、微生物による代謝物のやり取りが活発に行われていることを示すものだと解釈しています。
香りを支えていた微生物たち
メタゲノム解析からは、配合によって微生物群集の構成にも違いがあることが分かりました。穀物とエビペーストを組み合わせた発酵では、微生物群集の構成がエビペーストのみの場合と似ており、乳酸菌や、塩分の高い環境を好む好塩性の微生物(例としてTetragenococcus属やStaphylococcus属)が優勢だったとされています。これに対し、唐辛子を加えた配合では、Pichia属、Levilactobacillus属、Lactiplantibacillus属や、Aspergillus属などのカビ類が増える傾向が見られました。特に、Levilactobacillus brevisとLactiplantibacillus plantarumという2種の乳酸菌は、主要な香り成分と相関する「香りの主な担い手」として位置づけられています。
この研究の位置づけと読むうえでの注意
この研究は、特定の配合で作られたサワーシュリンプペーストを対象に、香り成分と微生物群集を分析したものであり、あくまで一つの研究として位置づけられるものです。ここで示された傾向が、他の製法や産地の発酵食品にそのまま当てはまるとは限りません。また、この記事では研究で明らかになった相関関係や傾向を紹介していますが、これらは健康効果や安全性を評価したものではなく、風味形成の仕組みを理解するための基礎的な知見として報告されている点にご留意ください。
今回の要旨には日本の食品や生産、著者の所属機関に関する記載は含まれていませんでした。
まとめ
この研究では、エビペーストに穀物や唐辛子といった植物性材料を組み合わせて発酵させることで、酸性度や香り成分の種類、さらには関与する微生物の種類まで変化することが示されました。動物性・植物性の材料が発酵の過程で互いに影響を及ぼし合い、独特の風味を生み出している可能性がうかがえる結果であり、研究チームは、こうした基質の組み合わせを調整することが、発酵食品の香りづくりを考えるうえでの一つの手がかりになるとしています。
原著論文の著者・所属:Weixi Yang(School of Food and Health, Beijing Technology and Business University, Beijing, China)、Kangli Guo(School of Food and Health, Beijing Technology and Business University, Beijing, China)、Jiahui Shi(School of Food and Health, Beijing Technology and Business University, Beijing, China)、Huangqing Yang(School of Food and Health, Beijing Technology and Business University, Beijing, China)、Yuxiang Gu(School of Food and Health, Beijing Technology and Business University, Beijing, China)、Wenlu Li(School of Food and Health, Beijing Technology and Business University, Beijing, China)、Yanbo Wang(School of Food and Health, Beijing Technology and Business University, Beijing, China)
※本記事は原著論文の翻訳ではなく、研究内容を独自に解説したものです。出典(原著論文):Weixi Yang, Kangli Guo, Jiahui Shi, et al. Substrate composition shapes microbial communities and aroma profiles of co-fermented sour shrimp paste. npjサイエンス・オブ・フード (2026). DOI: 10.1038/s41538-026-01051-8. 原著ライセンス: cc-by-nc-nd.