唐辛子を発酵させて作るペーストは、辛味だけでなく複雑な風味が魅力の発酵食品です。発酵の過程では微生物のはたらきによって味や香りが少しずつ形づくられていきますが、どのような発酵の組み合わせがより豊かな風味につながるのかは、まだ研究が続けられているテーマです。今回紹介する研究では、発酵唐辛子ペーストの風味形成を高めるために、8種類の発酵戦略を比較し、微生物の組み合わせや酵素の添加が味や香りにどのような違いをもたらすのかが調べられました。
研究でわかったこと
この研究では、乳酸菌(Lactiplantibacillus plantarum LP06)と酵母(Zygosaccharomyces rouxii ZR26)を組み合わせて発酵させる「共発酵」が試されました。その結果、共発酵を行った区では、全体の酸度やアミノ酸態窒素(うま味やコクに関わる成分の目安とされる指標)が増加し、残った糖分やカプサイシノイド(辛味成分)は減少したと報告されています。あわせて、酸味が強まり苦味が弱まる傾向も見られたとされています。
さらに、セルラーゼやフラボザイムといった酵素を加えることで、原料の分解が進み、味の感じ方にも変化が生じたことが示されました。網羅的な代謝物解析(メタボロミクス)では、酵素を使わない共発酵(LZ区)はアミノ酸や硫黄関連の代謝物と関連が深く、酵素を併用した共発酵(ELZ区)では脂質由来や植物由来の香気関連成分に変化が見られたとされています。
香りの成分については、GC-MS(ガスクロマトグラフィー質量分析)という手法により166種類の揮発性化合物が同定され、そのうち19種類は香りへの寄与が大きいと考えられる指標(相対的オーダー活性値が1超)を示したと報告されています。LZ区は揮発性成分の総量が最も多く、香りに寄与しうる成分の数も最多だった一方、ELZ区では一部のアルデヒド類、アルコール類、含硫化合物、テルペノイド類でその指標がより高い値を示したとされています。実際に人が評価する官能評価においても、LZ区とELZ区が最も高い総合評価を得たと報告されています。
この研究の位置づけ・読むうえでの注意
この研究は、乳酸菌と酵母による共発酵が発酵唐辛子ペーストの味の形成を後押しし、酵素の添加がさらに代謝物や香りのプロファイルを調整する可能性を示唆するものです。ただし、これは一つの研究で得られた結果であり、特定の発酵条件下での観察に基づくものです。ここで報告された変化が、実際の商品や他の発酵条件でも同様に再現されるかどうかは、今後のさらなる検証が必要と考えられます。また、本記事で紹介した内容はあくまで風味形成に関する報告であり、健康への効果を示すものではない点にもご留意ください。
まとめ
今回の研究では、乳酸菌と酵母による共発酵が発酵唐辛子ペーストの酸味や苦味、香り成分の形成に関わり、酵素の併用がその特性をさらに調整しうることが示されました。発酵食品の風味がどのように生まれるのかを理解する上で、興味深い知見を提供する研究といえそうです。
※本記事は下記の原著論文を紹介するものです。参考文献:微生物共発酵と酵素加水分解による発酵唐辛子ペーストの風味形成の相乗的改善(フード・ケミストリー:エックス・2026年08月)