著者の所属・活動拠点の国は、中国です。
掲載誌:Foods
ライセンス: CC BY 対象: 公開論文 確認元: OpenAlex
食物繊維を強化したパンや麺を作るために、小麦粉にジャガイモやトウモロコシの粉を混ぜる方法は、食品業界で広く行われています。ところが、こうした製品はしばしば食感や品質の面で課題を抱えることが知られています。その背景には、ジャガイモやトウモロコシに含まれるでんぷん粒が、小麦のグルテンタンパク質の構造形成にどう影響するのかが、これまで十分に解明されていなかった事情があります。中国・天津商業大学の研究チームは、この仕組みを詳しく調べるため、尿素で可溶化したグルテニン(USG、小麦グルテンを構成するタンパク質の一種)と、ジャガイモ・トウモロコシ・コムギの3種類から精製したでんぷん粒を混ぜ合わせ、タンパク質どうしを結びつける「ジスルフィド結合(S-S結合)」の量がどう変化するかを測定しました。
実験では、USGとでんぷん粒の混合比率、温度、反応時間を組み合わせを変えながら検討し、それぞれの素材でジスルフィド結合量が最も増える条件が特定されました。ジャガイモでんぷんではUSGとでんぷん粒の比率3対1、温度45度・30分の条件で結合量が0.2162から0.5319マイクロモル毎グラムに増加し、トウモロコシでんぷんでは同じ比率3対1、温度35度・120分の条件で0.3502マイクロモル毎グラムに、コムギでんぷんでは比率1対2、温度25度・60分の条件で0.9488マイクロモル毎グラムに達したと報告されています。
でんぷん粒の量によって働き方が変わる
興味深いのは、でんぷん粒の量が少ない場合と多い場合とで、グルテニンへの影響の仕方が異なるとみられる点です。でんぷん粒の量が少ない条件では、でんぷんの成分のうちアミロペクチンが主に溶け出し(ヨウ素液をつけても青く発色しない性質で確認されました)、これがグルテニンのジスルフィド結合形成を助けている可能性が示されています。一方、でんぷん粒の量が多い条件では、でんぷん由来のタンパク質との相互作用が過剰になり、アミロース(ヨウ素液で濃い青色に発色する成分)が沈殿するような状態になると考察されています。この状態では水分子をめぐる競合が起こり、かえってジスルフィド結合の量が減ってしまう可能性があるとされました。
さらに、核磁気共鳴(NMR)や構造解析の手法を使った検討では、でんぷんのアミロペクチン・アミロースが持つ水酸基と、グルテニンのペプチド結合との間で水素結合を介した物理的な絡み合いが起きていることを示す信号の変化が確認されています。また、USGがジャガイモやトウモロコシのでんぷん粒と反応した後には、X線回折で見られていたグルテニン特有のパターンが消失し、タンパク質の立体構造の一つであるβシート構造が大きく減少したことも報告されています。
この研究の位置づけ
この論文は精製したでんぷん粒とグルテニンを用いた実験系による基礎研究であり、実際のパンや麺などの食品そのものを対象にした官能評価や食感の検証を行ったものではない点には注意が必要です。研究チームは、今回得られた知見が食物繊維を強化しつつ品質も保った穀物加工食品を設計するための、仕組みの面での土台になり得るとしています。あくまで一つの研究段階の成果であり、実際の製品づくりへの応用効果が確立したわけではありません。
まとめ
ジャガイモやトウモロコシの粉を使って食物繊維を強化した小麦製品は身近になっていますが、その裏側では、でんぷん粒の種類や配合量、温度や時間といった条件によって、グルテンタンパク質の結合状態が細かく変化している可能性があることが、今回の基礎研究から示唆されました。今後、こうした仕組みの理解が、食感や品質を保ちながら食物繊維を増やす製品開発に役立てられていくのか、注目されます。
原著論文の著者・所属:Mi Tian(Tianjin Key Laboratory of Food Biotechnology, College of Biotechnology and Food Science, Tianjin University of Commerce, Tianjin 300134, China)、Wenhui Jing(Tianjin Key Laboratory of Food Biotechnology, College of Biotechnology and Food Science, Tianjin University of Commerce, Tianjin 300134, China)、Jiankang Min(Tianjin Key Laboratory of Food Biotechnology, College of Biotechnology and Food Science, Tianjin University of Commerce, Tianjin 300134, China)、Rui Li(Tianjin Key Laboratory of Food Biotechnology, College of Biotechnology and Food Science, Tianjin University of Commerce, Tianjin 300134, China)、Chunrui Wang(Tianjin Key Laboratory of Food Biotechnology, College of Biotechnology and Food Science, Tianjin University of Commerce, Tianjin 300134, China)、Xijun Lian(Tianjin Key Laboratory of Food Biotechnology, College of Biotechnology and Food Science, Tianjin University of Commerce, Tianjin 300134, China)
※本記事は原著論文の翻訳ではなく、研究内容を独自に解説したものです。出典(原著論文):Mi Tian, Wenhui Jing, Jiankang Min, et al. The Impact of Purified Granules Sourced from Potato, Maize and Wheat on Disulfide Bond Formation in Urea-Solubilized Glutenin. フーズ (2026). DOI: 10.3390/foods15152732. 原著ライセンス: cc-by.