ガラクトオリゴ糖(GOS)は、腸内の善玉菌を選択的に増やすプレバイオティクス成分として広く知られ、育児用ミルクや乳製品、パン類などにも使われています。しかし今回紹介する研究は、GOSの『腸によい』という栄養面の働きではなく、乾燥した食品や医薬品の中で脂質の酸化を防ぐという、あまり注目されてこなかった技術的な役割に焦点を当てています。研究は、アルゼンチンのCIDCA(CCT-CONICET La Plata)とキルメス国立大学の研究者らによって行われました。

脂質は酸素に触れると酸化が進み、風味の劣化や機能低下につながります。とくに凍結乾燥(フリーズドライ)した脂質膜は乾燥・保存の過程で酸素にさらされやすく、酸化が進みやすいことが課題とされています。研究チームは、この脂質酸化をGOSが抑えられるかどうかを、大豆レシチンで作った『リポソーム』というモデル膜を使って調べました。

どうやって調べたのか

まず、乳糖(ラクトース)にAspergillus oryzae由来のβ-ガラクトシダーゼという酵素を反応させ、GOSを合成しました。8時間反応させた時点の混合物(GOS Rと呼びます)は、ブドウ糖とガラクトースなどの単糖が40%、残った乳糖が36.9%、目的のGOSが22.8%という組成でした。GOSの大半は重合度3(DP3、63.9%)で、重合度4(DP4、25.9%)、重合度5以上(DP5+、10.2%)が続きました。

次に、このGOS Rを96%エタノールに混ぜて一晩置き、分子量の大きい糖を沈殿させる『エタノール沈殿』という精製処理を行いました。この処理により、沈殿として回収された画分(GOS Pと呼びます)ではGOSの割合が22.8%から50.7%まで増え、逆に単糖の割合は40%から15.5%まで減りました。乳糖は36.9%から33%へとわずかしか減らず、単糖に比べて乳糖は除去されにくいことも確認されています。一方、エタノールに溶けた上清側には単糖(59%)と乳糖(34%)が多く残り、GOSはわずか6.6%にとどまりました。

こうして組成の異なる2種類のGOS(精製度の低いGOS R、精製度の高いGOS P)を用意し、大豆レシチンのリポソームを凍結乾燥する際の保護剤として、それぞれ20%の濃度で加えました。比較対象として、代表的な保護糖であるショ糖(スクロース)と、糖を加えないリン酸緩衝生理食塩水(PBS)も用意されました。凍結乾燥した試料は、湿度11%・33%・75%、温度4℃または37℃の条件で最長28日間保存し、途中で水に戻して脂質の酸化度合いを紫外線(UV)吸収スペクトルで測定しました。234nmでの吸光度は、脂質酸化の初期段階でできる『共役ジエン』という物質の生成量を反映する指標です。

わかったこと

糖の性質を理解するうえで重要なのが『ガラス転移温度(Tg)』です。これは、糖でできた乾燥マトリックス(基質)が、分子がほとんど動けない硬い『ガラス状態』から、分子が動きやすい柔らかい『ゴム状態』へと変わる境目の温度です。測定の結果、GOS PはGOS Rよりも一貫して高いTgを示し、その差はおよそ20℃にもなりました。低湿度条件では、GOS PのTgは31〜44℃だったのに対し、GOS Rは14〜18℃にとどまりました。これは、GOS Rに多く含まれる単糖が可塑剤のように働き、マトリックスを柔らかくしてしまうためと説明されています。

肝心の脂質酸化については、保存14日の時点で、GOS P・GOS R・ショ糖のいずれを加えた試料も、糖を加えないPBS対照より共役ジエンの生成量(酸化の指標)が明らかに少なく抑えられていました。特に湿度11%という低湿度条件では、GOS Pを加えた試料が14日・28日のどちらの時点でも最も酸化が抑えられていました。一方、湿度75%の高湿度条件では14日以降に酸化指標が上昇しており、これは糖マトリックスのTgが保存温度の4℃を下回りゴム状態に転移したことと対応していました。また、37℃で保存した試料は乾燥構造が崩れて褐変が起こり、酸化がかなり進んだ結果としてかえって234nmの吸光度が下がる現象(酸化生成物がさらに分解される段階に入るため)が見られ、比較には適さないと判断されています。

この研究の位置づけと注意点

これらの結果から著者らは、GOSが脂質の酸化を抑える働きは、GOS自体に抗酸化作用があるからではなく、糖マトリックスがガラス状態を保つことで分子の動きを制限し、酸素の拡散や過酸化反応の進行を遅らせるためではないかと考察しています。ただし、この仕組み自体は今回の実験で直接確かめられたものではなく、これまでの関連研究と整合する『説明として妥当な仮説』にとどまる点は著者ら自身も明記しています。また、UV吸収による測定は酸化の初期産物である共役ジエンの検出にとどまり、その先に進んだ二次酸化生成物までは評価できていないことも限界として挙げられています。今回の実験はリポソームというモデル膜を用いたものであり、実際の食品や医薬品での効果を直接示したものではない点にも注意が必要です。

この研究はGOSの新しい可能性を示す一つの成果ですが、単独の研究であり、結論が確定したわけではありません。

まとめ

今回の研究では、乳糖からβ-ガラクトシダーゼの働きで合成し、エタノール処理で重合度の高い成分を濃縮したGOSが、凍結乾燥した脂質膜モデル(リポソーム)の保存中の酸化を、ショ糖と同程度に抑える可能性が示されました。その効果は、糖マトリックスが低湿度・低温下でガラス状態を保てるかどうかと関連していると報告されています。著者らは、GOSがプレバイオティクスとしての栄養的価値に加え、乾燥した脂質含有製品を安定化させる技術的な機能ももちうる、多機能な食品素材として位置づけられる可能性を示唆しています。

※本記事は原著論文の翻訳ではなく、研究内容を独自に解説したものです。参考文献:Juan Manuel Faroux, María Micaela Ureta, Andrea Gómez‐Zavaglia, et al. Effect of Galacto-oligosaccharides with Different Degrees of Polymerization on the Storage Stability of Freeze-Dried Lecithin Liposomes. フーズ (2026). DOI: 10.3390/foods15152734. 原著ライセンス: cc-by.