著者の所属・活動拠点の国は、ブラジルです。

掲載誌:Revista Brasileira de Engenharia de Pesca

ライセンス: CC BY 対象: 公開論文 確認元: OpenAlex

グリコサミノグリカン(GAG)と呼ばれる糖鎖の仲間は、動物の細胞の表面や組織のすき間(細胞外マトリックス)に存在し、成長因子や酵素、サイトカインといったタンパク質と結びついて、体のさまざまな働きを支えていると考えられています。ヘパリンやコンドロイチン硫酸、ヒアルロン酸などはその代表例で、これまでは牛や豚由来の原料から作られることが多かった一方、ウイルスなどの安全性リスクが指摘されることもあり、魚介類など水生生物由来のGAGへの関心が高まっているとされます。ただし、魚の筋肉に含まれるGAGの組成についてはこれまで報告があるものの、エビの筋肉についてはほとんど調べられてきませんでした。今回紹介する研究は、養殖されているバナメイエビ(Litopenaeus vannamei)の筋肉に着目し、その中に含まれるGAGを取り出して、どのような性質を持つのかを調べたものです。

廃棄される幼エビの筋肉からGAGを取り出す

研究チームが用いたのは、ブラジル・セアラ州ジャグアルアナの加工施設で品質管理の過程で廃棄された、健康な幼齢のバナメイエビ34個体です。これらのエビは塩分濃度1‰・pH8.3という汽水(半塩水)の池で養殖されており、体長は平均8.81±0.79cm、体重は平均3.66±0.99gでした。エビは頭胸部と殻を取り除いて筋肉部分だけを取り出し、45℃・24時間かけて乾燥させてから細かく砕き、これをタンパク質分解酵素パパインで60℃・一晩かけて消化するという方法でGAGを抽出しています。得られた抽出液は塩化セチルピリジニウムという薬剤で沈殿させ、エタノールで洗浄・乾燥させることで、最終的な粗GAG抽出物(LvGAGsと名付けられています)を得ています。

収量は魚の筋肉より多かったが、正体の特定は難航

乾燥筋肉重量に対するGAGの収量は平均0.07±0.02%(乾燥組織1gあたり約700マイクログラム)で、これは論文中で比較対象とされたタラ(Gadus morhua)の骨格筋(1gあたり325±58マイクログラム)や、ノルウェー産の牛(ノルウェー・レッド種)の筋肉(同510±42マイクログラム)よりも多い値でした。一方、コウイカ(Sepia officinalis)の筋肉では8.6%という、さらに高い収量が報告されているとのことです。研究チームは、この比較的高い収量について、生の組織ではなく乾燥させた組織を使ったことや、エビに含まれるカロテノイド色素がGAGの産生に関わっている可能性を、他の魚の研究を引きながら考察しています。

次に、DMB(ジメチルメチレンブルー)という色素を使った呈色反応で、抽出物が硫酸化された糖鎖に特徴的な紫色を示すことを確認しました。さらに、寒天ゲル電気泳動という手法で、コンドロイチン-6-硫酸、コンドロイチン-4-硫酸、デルマタン硫酸、ヘパリンといった哺乳類由来の標準物質と移動度を比べたところ、トルイジンブルーという色素で染めた場合には単一のバンドが現れ、デルマタン硫酸やヘパリンに近い移動度を示しました。ところが、より感度の高いstains-allという色素を使うと、青色・黄色・明赤色など複数の色が混在する複雑な像が現れ、単純にGAGの種類を特定することはできませんでした。研究チームはこれを、筋肉組織に由来するタンパク質の混入(パパイン処理で生じたペプチドやDNAの残留物など)が影響しているためと考察しています。実際、バナメイエビの筋肉はもともとタンパク質含量が高い食材として知られていることも、この論文では触れられています。

赤外分光法(FT-IR)による構造解析でも、同様に明確な結論には至りませんでした。スペクトルにはタンパク質由来のアミド結合(アミドI・II・III)に対応する吸収や、多糖類に特徴的なC-H伸縮、ウロン酸を示唆する吸収帯が確認され、1236cm⁻¹付近には硫酸基(S=O)に由来するとみられる吸収も認められました。これはコウイカの筋肉多糖で報告された結果と似ているとされています。また941cm⁻¹付近の弱いシグナルから、3,6-アンヒドロガラクトースという構造の存在、ひいてはケラタン硫酸が含まれている可能性も議論されていますが、著者らはこの点について「FT-IR解析からは不明瞭であり、追加の構造研究が強く推奨される」と述べています。

この研究をどう読むか

著者らは、電気泳動と赤外分光という2つの生化学的手法を組み合わせることで、バナメイエビの筋肉細胞外マトリックスに存在する硫酸化GAGに迫ること自体は有効だったとまとめています。ただし、タンパク質など天然の混入物の影響が大きく、どの種類のGAGがどれだけ含まれているかを明確に特定するには至らなかった点は、著者ら自身が繰り返し強調している限界です。この研究は、汽水環境で養殖された健康なエビ1ロット・34個体を対象にした基礎的な調査であり、GAGの組成や量が個体の生理状態や飼育環境(塩分濃度など)によって変わる可能性も示唆されています。特定の健康効果を裏づけるものではなく、今後さらなる分離・精製や構造解析が必要な、あくまで一つの基礎研究として捉えるのが妥当です。

まとめ

今回の研究は、これまで魚では報告があってもエビでは調べられていなかった筋肉由来のGAGについて、廃棄されるはずだった幼エビの筋肉から抽出・部分的な性質評価を行ったものです。収量は魚の筋肉より多い一方、硫酸化GAGの種類を明確に特定するには至らず、著者らは今後の追加研究の必要性を指摘しています。水産加工の副産物・廃棄物を有効活用する研究の一例として、今後の展開が注目されます。

原著論文の著者・所属:Giancarlo Lavor Cordeiro(Universidade Federal do Ceará)、José Ariévilo Gurgel Rodrigues、José Gabriel De Sousa Cândido(Universidade Federal do Ceará)、Kelma Maria dos Santos Pires‐Cavalcante(Universidade Federal do Ceará)、Johnny Peter Macedo Feitosa(Universidade Federal do Ceará)、Sandra de Aguiar Soares(Universidade Federal do Ceará)、Ianna Wivianne Fernandes de Araújo(Universidade Federal do Ceará)

※本記事は原著論文の翻訳ではなく、研究内容を独自に解説したものです。出典(原著論文):Giancarlo Lavor Cordeiro, José Ariévilo Gurgel Rodrigues, José Gabriel De Sousa Cândido, et al. EXTRACTION AND PARTIAL CHARACTERIZATION OF GLYCOSAMINOGLYCANS FROM Litopenaeus vannamei MUSCLE. ヘヴィスタ・ブラジレイラ・デ・エンジェニャリア・デ・ペスカ (2026). DOI: 10.18817/repesca.v17i1.4648. 原著ライセンス: cc-by.