著者の所属・活動拠点の国は、中国です。
掲載誌:Frontiers in Nutrition
ライセンス: CC BY 対象: 公開論文 確認元: OpenAlex
研究の目的
調理済み食品は、手早く食事を用意でき、品質をそろえやすく、食品ロスも減らせることから、利便性の高い食品として市場が広がっています。しかし伝統料理の場合、便利さだけでは受け入れられません。その料理らしさを形づくる味や香りを、どこまで保てるかが問われます。
研究チームが取り上げたのは、四川料理の代表的な一品「魚香肉絲」です。豚肉の細切りを炒めた料理で、辛味、酸味、うま味、甘味が組み合わさった味わいが特徴です。この風味は、強い火力で短時間に炒め、絶えずかき混ぜることで生まれます。水分が急速に飛び、加熱による反応が進み、香辛料やネギ・ショウガ・ニンニク由来の香りが一気に立ち上るためです。こうした一瞬の調理条件を、冷凍・流通・再加熱を経て食べる「温めるだけ」の市販製品で再現するのは容易ではありません。
これまで調理済み肉製品の研究は、再加熱で生じる特有の異臭(ウォームドオーバーフレーバー)に注目するものが中心でした。しかし、肉の香りに香辛料や薬味の香り、味の成分が重なり合う複雑な料理では、それだけでは風味の変化を捉えきれません。そこで著者らは、作りたての料理の味と香りをどれだけ再現できているかを「風味の忠実度」と位置づけました。市販の温めるだけ製品では、作りたての特徴のうちどれが保たれ、どれが弱まり、どれが強まっているのかを多面的に調べることが目的です。
何をどのように調べたか
基準として、地方標準の手順に従って作りたての魚香肉絲を用意しました。比較対象は、異なるブランドの冷凍の温めるだけ製品5種類です。市販製品はすべて同じ調理器具で、中心温度が75℃に達してから1分間保つ条件で温め直しました。
評価は複数の角度から行いました。食品科学を学ぶ訓練を受けた10人が、見た目、料理らしい香り、ネギやニンニクなどの薬味の香り、味、食感を採点しました。あわせて、においや味をセンサーの応答パターンとして捉える「電子鼻」と「電子舌」で全体の傾向を比べました。さらに、うま味や苦味に関わる遊離アミノ酸を測定し、香り成分は2種類のガスクロマトグラフィー系の手法で分析しました。
香り成分については、においの強さへの寄与の目安として「におい活性値」も算出しました。これは成分の量を、その成分を人が感じ取れる最小濃度で割った値です。1を超える成分は香りに影響する可能性があるとみなされます。ただし著者らは、感じ取れる濃度は食品の状態によって変わるため、この値はあくまでおおよその指標だと断っています。
主な結果
官能評価では、作りたての料理がすべての項目で最も高い点数を得ました。市販製品のなかでは1製品が作りたてに最も近く、別の1製品はほとんどの項目で最も低い評価でした。作りたてとの差が特に大きかったのは、料理らしい香りと薬味の香りで、見た目と味がそれに続きました。電子舌の分析でも、作りたての料理と市販製品は明確に分かれ、市販製品どうしの間にもブランドによる違いがみられました。
遊離アミノ酸は17種類が検出されました。合計量は作りたてが100gあたり36.84mgで、市販製品は21.42〜39.17mgと幅がありました。うま味に関わるアミノ酸は市販製品でやや少ない傾向にありました。苦味に関わるアルギニンは、作りたての4.07mgに対し、市販製品では0.87〜2.05mgと大きく下回りました。
香り成分では、作りたての料理は、香辛料に由来する柑橘様やハーブ様の香りの成分群(テルペン類)と、ネギやニンニクなどネギ属の野菜に由来する硫黄を含む成分が豊富でした。これらは多くの市販製品で弱まっていました。一方、一部の市販製品では、脂質の酸化や加熱反応に関連するアルデヒド類、フラン類、ケトン類、ピラジン類などの信号が強く出ていました。
ただし、市販製品の香りが一様に弱かったわけではありません。香り成分の総量が作りたてを上回る製品もあり、ある製品はクローブ様やユーカリ様の調味料の香りが目立つなど、製品ごとに香りの構成が大きく異なっていました。におい活性値が1を超えた成分のうち、作りたてと市販製品群の間で差があったものは30種類で、うち20種類が作りたてで、10種類が市販製品群で高い値を示しました。
この研究が示すこと
著者らは、市販の温めるだけの魚香肉絲にみられる風味の違いを次のようにまとめています。作りたてで立ち上る香辛料や薬味の香りが弱まり、一部の製品では酸化や加熱に関連する香りの寄与が増える、という変化です。あわせて、ブランドごとの違いも大きいことが示されました。
一方で、著者らは限界も明記しています。今回の比較は、配合も製造工程も異なる市販品を比べたものです。そのため、違いが再加熱や保存によるものか、各ブランドの配合によるものかは切り分けられません。各製品は同一製造ロットの包装を分析したもので、成分どうしの相関も因果関係を示すものではありません。見いだされた成分は、検証済みの指標ではなく候補として位置づけられています。
それでも、作りたてを基準に市販製品の風味を味・香り・成分の各面から比べた今回の結果は、伝統料理を温めるだけの製品にする際の風味の目安づくりや、品質改善の手がかりとなる候補成分を示したものといえます。
原著論文の著者・所属:Jia Chen(College of Food Science and Technology, Southwest Minzu University; Culinary Science Key Laboratory of Sichuan Province, Sichuan Tourism University; Sichuan Cuisine Industrialization Engineering Research Center of Sichuan Higher Education Institutions, Sichuan Tourism University)、Juping Du(Culinary Science Key Laboratory of Sichuan Province, Sichuan Tourism University)、Lili Duan(Culinary Science Key Laboratory of Sichuan Province, Sichuan Tourism University; Sichuan Cuisine Industrialization Engineering Research Center of Sichuan Higher Education Institutions, Sichuan Tourism University)、Liqiang Yan(Zhejiang Tourism Vocational College)、Yu Fu(College of Food Science and Technology, Southwest Minzu University)、Ping Dong(Sichuan Cuisine Industrialization Engineering Research Center of Sichuan Higher Education Institutions, Sichuan Tourism University)、Xuemei Cai(Culinary Science Key Laboratory of Sichuan Province, Sichuan Tourism University; Sichuan Cuisine Industrialization Engineering Research Center of Sichuan Higher Education Institutions, Sichuan Tourism University)、Mingfeng Qiao(Culinary Science Key Laboratory of Sichuan Province, Sichuan Tourism University; Sichuan Cuisine Industrialization Engineering Research Center of Sichuan Higher Education Institutions, Sichuan Tourism University)
※本記事は原著論文をもとに、日本語で要約・説明を加えた研究紹介です。 出典(原著論文):Jia Chen, Juping Du, Lili Duan, et al. Flavor fidelity and variation of freshly stir-fried and commercial ready-to-heat Yuxiang shredded pork using integrated sensory and volatile profiling. Frontiers in Nutrition 2026-09-14. DOI: 10.3389/fnut.2026.1936328. 原著ライセンス:CC BY.