この研究は、デンマークの研究機関の研究論文です。
掲載誌:Journal of Human Nutrition and Dietetics
ライセンス: CC BY 対象: 公開論文 確認元: OpenAlex
研究の目的:栄養ケアを誰が担うべきか
入院患者の低栄養は、入院期間の長期化、予後の悪化、生活の質の低下、死亡率の上昇と関連することが知られています。そのため、入院時に栄養面のリスクがある患者を早く見つけ、適切に対応することが重要とされ、国際的な指針でも栄養リスクスクリーニング(入院患者が低栄養の危険を抱えているかを点数で判定する手順)が以前から推奨されてきました。しかし実際の病院では、スクリーニングが十分に行われない、その後の対応が続かない、患者の摂取量が足りないといった問題が繰り返し報告されています。
デンマークを含む多くの医療制度では、日々の栄養ケアは看護師が担っています。ところが看護師は多くの業務を抱えており、より急を要する仕事が優先されて栄養が後回しになりがちだと指摘されてきました。一方、栄養評価や栄養療法の専門知識を持つ臨床栄養士は、通常は医師や看護師からの依頼があったときにだけ関わります。スクリーニングが行われなかったり、栄養介入の必要性が見落とされたりすると、栄養士の専門的な支援が患者に届かない可能性があります。
研究チームは、日常の栄養ケアの業務を看護師から臨床栄養士へ移し、栄養士を病棟の日常業務に組み込むことでどのような変化が生じるかを調べました。具体的には、栄養リスクスクリーニングの実施状況、患者の栄養摂取量、そして看護師と臨床栄養士がこの変更をどう受け止めたかの三点に注目しています。
何を行い、どう調べたか
研究の舞台は、デンマークの病院にある27床の呼吸器内科病棟です。2022年3月から2023年7月までの介入期間中、栄養リスクスクリーニング、栄養ケア計画の作成、栄養ケアの開始といった責任が看護師から臨床栄養士へ移されました。看護師は患者ケア全体と食事介助を引き続き担当しました。臨床栄養士は週末や祝日も含めて毎日、朝7時から午後2時30分まで病棟に常駐し、スクリーニングやケア計画の作成に加え、看護カンファレンスへの参加や、栄養リスクの有無にかかわらず患者の食事注文の手伝いも行いました。この病院では、患者がタブレット端末で自分の食事を選んで注文する仕組みが導入されており、その記録から1日のエネルギーとたんぱく質の摂取量が計算されます。
評価は三つの小研究から成ります。第一に、電子カルテのデータを振り返って、栄養士主導の介入期間と、その後に看護師主導へ戻った期間とで、スクリーニングの実施率を比べました。第二に、介入期間中に栄養リスクがあると判定された入院患者32人の入院後3日間の摂取量を、同じ病棟で以前に行われた研究の患者68人(看護師主導の従来体制)と比較しました。第三に、看護師9人と臨床栄養士5人に個別の聞き取り調査を行い、経験や考えを分析しました。
主な結果
スクリーニングについては、合計1678件の入院が分析されました。栄養士主導の期間には、入院から24時間以内にスクリーニングを受けた患者の割合(月ごとの値の中央値)は55%、最終的にスクリーニングを受けた割合は76%でした。看護師主導に戻った後は、それぞれ29%と43%に下がりました。研究チームは、月ごとの推移の分析から、この変化は偶然の変動ではないと報告しています。
栄養摂取量については、必要エネルギーの75%以上を摂取できた患者の割合が、介入群で79%、従来体制の比較群で57%であり、介入群のほうが統計的に有意に高い結果でした。たんぱく質で必要量の75%以上を満たした割合も介入群50%、比較群35%と介入群が上回りましたが、この差は統計的に有意ではありませんでした。
聞き取り調査では、看護師と栄養士の双方が、栄養ケアの質が向上したと感じていました。看護師からは、経管栄養などの栄養ケアがより早く始まり、栄養が一貫して優先されるようになったという声が聞かれました。栄養士は、同じ患者を数日続けて見られるため、経過を追いやすく、患者の好みに合わせた対応がしやすくなったと述べています。また双方とも、栄養士が「たまに来る人」ではなく病棟の同僚になったことで、気軽に相談し合える協力関係が生まれたと語りました。
一方で課題も挙がりました。看護師にとって栄養士の支援は大きな負担軽減でしたが、患者が実際に何を食べているかの感覚が薄れ、栄養への意識や技能、当事者意識が弱まったと感じる人もいました。たとえば、水分制限を知らずに食事が注文されたり、食事の時間が看護業務の流れと合わなかったりする場面があり、看護師はより良い連携と話し合いが必要だと指摘しています。栄養士は新しい業務にやりがいを感じる一方、専門知識そのものよりも、患者と接する新しい役割に慣れるという面で難しさを感じていました。
この研究が示すこと
著者らは、栄養ケアの業務を看護師から臨床栄養士へ移すことが、栄養リスクスクリーニングの改善、エネルギー摂取の充足度の向上、職種間の協力の強化と関連していたと結論づけています。ただしこれは、病棟全体で体制を変えた比較であり、別の時期の患者や期間との比較にもとづく結果です。
同時に、看護師が患者の栄養から距離を感じるようになるといった副作用も見えてきました。研究チームは、栄養士と看護スタッフが密に連携し、話し合いを続けることが、こうした体制変更をうまく機能させるうえで特に重要だと強調しています。栄養ケアを「誰が担うか」という役割分担の見直しが、患者の栄養と現場の働き方の両方に影響しうることを示した研究といえます。
著者:Marianne Boll Kristensen(Department of Nutrition Gødstrup Hospital Herning Denmark)、Ingeborg Krarup Rask(Department of Nutrition Gødstrup Hospital Herning Denmark)、Lene Nissen Møller Schmidt(Department of Medicine Gødstrup Hospital Herning Denmark)、Kirstine Guld Frederiksen(Department of Nutrition Gødstrup Hospital Herning Denmark)、Alexander Erichsen(Department of Nutrition Gødstrup Hospital Herning Denmark)、Lone Viggers
※本記事は原著論文をもとに、日本語で要約・説明を加えた研究紹介です。 出典(原著論文):Marianne Boll Kristensen, Ingeborg Krarup Rask, Lene Nissen Møller Schmidt, et al. From Nurse‐Led to Clinical Dietitian‐Led Nutritional Care in Hospital Practice: Changes in Nutritional Risk Screening Rates, Patient Nutritional Intake and Professional Perspectives. Journal of Human Nutrition and Dietetics 2026-10-01. DOI: 10.1111/jhn.70363. 原著ライセンス:CC BY.