著者の所属・活動拠点の国は、ポーランド、イギリス、アメリカ、イタリア、スペインです。

掲載誌:Nutrients

ライセンス: CC BY 対象: 公開論文 確認元: OpenAlex

なぜ「心不全とフレイル」の栄養ケアを整理するのか

心不全は、心臓の働きの低下だけでなく、栄養状態、骨格筋、身体機能、体の予備力の低下を伴う全身的な病態として捉えられるようになっています。フレイルは、加齢や病気によって心身の予備力が落ち、ストレスに弱くなった状態を指します。著者らが引用したメタ解析では、慢性心不全患者のフレイルの有病率は約39%と推定されています。ただし、研究間のばらつきは大きいと報告されています。

心不全でフレイルを伴う患者では、低栄養、サルコペニア(筋肉量や筋力の低下)、悪液質(病気に伴う消耗)、肥満が重なることも少なくありません。そのため、栄養状態の評価や食事管理が難しくなります。たとえば、治療上の優先事項が互いにぶつかることがあります。塩分や水分の制限と十分な栄養摂取の確保、たんぱく質の必要量と腎機能の低下、肥満での減量と筋肉の維持などです。

このレビューで研究チームは、心不全とフレイルを併せ持つ患者の栄養ケアに関する現在の知見を批判的にまとめることを目的としました。主な対象は、栄養評価、エネルギーとたんぱく質の必要量、栄養介入がフレイル関連の結果に与える影響です。特に、両方の状態を持つ患者から直接得られた根拠と、高齢者・腎臓病・低栄養などの関連集団から当てはめた知見を区別することを重視しています。

どのように文献を整理したか

著者らは2026年7月から9月にかけて、医学文献データベースのMEDLINE、EMBASE、Cochrane CENTRALで文献を検索しました。対象には原著研究、システマティックレビュー、メタ解析、診療ガイドライン、専門家の合意声明が含まれます。心不全とフレイルの両方を持つ患者についての直接の根拠が限られる場合は、関連する集団の知見も取り上げました。

このレビューは「ナラティブレビュー」と呼ばれる形式です。決められた手順で網羅的に研究を選び、偏りを形式的に評価するシステマティックレビューとは異なります。著者ら自身も、本論文は網羅的なレビューではなく、批判的な叙述的統合として読むべきだと述べています。

主な指摘:似ているが別物の状態を見分け、多面的に評価する

著者らはまず、低栄養、サルコペニア、悪液質、フレイルは重なり合うものの、生物学的にも臨床的にも異なる状態だと整理しています。これらは一本の消耗の流れの段階ではありません。低栄養は栄養素の不足や利用の障害、サルコペニアは筋肉の不全、悪液質は病気が引き起こす異化(体の組織が分解される方向への代謝)、フレイルは多くの臓器にわたる予備力の喪失として位置づけられています。これらを区別することで、それぞれに異なる栄養上の優先事項が見えてくると論文は説明しています。

評価の難しさも詳しく論じられています。心不全ではむくみ(うっ血)によって体重やBMIがゆがみ、筋肉の減少が隠れる場合があります。BMIが高くても低栄養や筋肉量の低下は否定できません。引用されたメタ解析では心不全患者の44.6%に低栄養がみられたとされます。ただし結果は使う診断ツールに大きく左右され、根拠の確実性は非常に低いと評価されています。また、複数の栄養スクリーニング指標を同じ患者に用いた研究では、指標どうしの一致はわずかか、まったくみられませんでした。

血液検査値を使う栄養指標も、炎症や心不全の重症度の影響を受けます。著者らは、こうした指標は予後との関連はあっても、純粋に栄養状態を表しているとは限らないと指摘しています。高齢の心不全入院患者200人の研究では、65%にフレイルがみられました。しかし、フレイルとBMIや腕・ふくらはぎの周囲長との間に有意な関連はありませんでした。こうした知見から、論文は単一の指標に頼らない評価を求めています。うっ血の状態と体重の推移、栄養リスクのスクリーニング、必要に応じた詳しい評価、筋肉量・筋力・身体機能の測定を組み合わせる多面的な評価です。

エネルギーとたんぱく質の目安、そして残る不確実性

エネルギーとたんぱく質の必要量について、著者らは、心不全とフレイルを併せ持つ患者向けに検証された目標値はまだ存在しないと述べています。現在の推奨は、高齢者、多疾患併存、腎臓病、一般的な心不全患者などから当てはめたものがほとんどです。たとえば、心不全の学会指針の一部は、1日あたり体重1kgにつき少なくとも1.1gのたんぱく質を妥当としています。日本の学会指針は高齢患者で1.2〜1.5gを推奨しており、病気や低栄養のときには1.2〜1.5gという範囲を使う指針もあります。一方、腎臓病の国際指針は、透析を受けていない安定した慢性腎臓病のステージG3〜G5でおよそ0.8gを示しています。同時に、フレイルやサルコペニアのある高齢者ではより高い目標も認めています。著者らは、これらは腎臓病の推奨であり、心不全で検証された目標ではないと注意しています。また、高めの値はあくまで当てはめであり、腎機能、エネルギーの充足、本人の耐えられる程度に応じて調整すべきだとしています。必要量の計算にどの体重を使うかも、むくみの影響を踏まえて明確にすべき点として挙げられています。

栄養介入の効果について、論文の要旨は次のようにまとめています。個別化した栄養サポートは栄養状態や一部の機能面の結果を改善する可能性がありますが、フレイルという症候群全体への効果はまだ不確かです。また著者らは、食事摂取の少なさと予後の悪さとの関連は観察研究で示されているものの、因果関係を示すものではないと注意を促しています。食欲不振や炎症、病気の重さが両方に関わっている可能性があるためです。

全体として著者らは、心不全とフレイルを併せ持つ患者の栄養ケアには一律の方針ではなく、患者ごとにどの状態が重なっているかを見極めるアプローチが必要だと結論づけています。そのうえで、栄養、身体活動、リハビリテーション、継続的な評価を組み合わせた多職種による取り組みが求められるとしています。さらに、今後の臨床試験ではフレイルの定義、臨床的に意味のある評価項目、栄養目標をそろえる必要があると提言しています。このレビューは、確かな根拠がある部分と、まだ答えの出ていない部分の境界を明らかにした整理といえます。

原著論文の著者・所属:Adrian Kwaśny(Institute of Dietetics, The Academy of Business and Health Science, 90-361 Lodz, Poland)、Małgorzata Słoma-Krześlak(Department Human Nutrition, Department of Dietetics, Faculty of Public Health in Bytom, Medical University of Silesia in Katowice, ul. Jordana 19, 41-808 Zabrze, Poland)、Izabella Uchmanowicz(Centre for Cardiovascular Health, Edinburgh Napier University, Sighthill Campus, Edinburgh EH14 1DJ, UK; Department of Nursing, Faculty of Nursing and Midwifery, Wroclaw Medical University, 51-618 Wroclaw, Poland)、Christopher S. Lee(Boston College William F. Connell School of Nursing, Chestnut Hill, MA 02467, USA)、Ercole Vellone(Department of Biomedicine and Prevention, Tor Vergata University of Rome, 00133 Rome, Italy; Department of Nursing, Faculty of Nursing and Midwifery, Wroclaw Medical University, 51-618 Wroclaw, Poland)、Raúl Juárez-Vela(Group of Research in Care (GRUPAC), Faculty of Health Science, University of La Rioja, 26006 Logroño, Spain; Institute of Neurosciences of Castile and León (INCYL), University of Salamanca, Biomedical Research Institute of Salamanca (IBSAL), 37007 Salamanca, Spain)、Stanisław Surma(Department of Internal Medicine and Clinical Pharmacology, Medical University of Silesia, 40-055 Katowice, Poland)、Mateusz Labudda(Department of Biochemistry and Microbiology, Faculty of Biology and Biotechnology, Warsaw University of Life Sciences-SGGW, Nowoursynowska 159, 02-776 Warsaw, Poland)、Michał Czapla(Division of Scientific Research and Innovation in Emergency Medical Service, Department of Emergency Medical Service, Faculty of Nursing and Midwifery, Wroclaw Medical University, 51-618 Wroclaw, Poland; Group of Research in Care (GRUPAC), Faculty of Health Science, University of La Rioja, 26006 Logroño, Spain; Nursing Care and Education Research Group (GRIECE), Department of Nursing, University of Valencia, 46010 Valencia, Spain)

※本記事は原著論文をもとに、日本語で要約・説明を加えた研究紹介です。 出典(原著論文):Adrian Kwaśny, Małgorzata Słoma-Krześlak, Izabella Uchmanowicz, et al. Nutritional Care of the Frail Patient with Heart Failure: Evidence, Uncertainties and Research Priorities. Nutrients 2026-10-26. DOI: 10.3390/nu18213527. 原著ライセンス:CC BY.