著者の所属・活動拠点の国は、インドネシアです。

掲載誌:LANGUAGE Jurnal Inovasi Pendidikan Bahasa dan Sastra

ライセンス: CC BY-SA 対象: 公開論文 確認元: OpenAlex

料理の名前に込められたものを探る

インドネシア・南スラウェシ州のボネ県に暮らすブギスの人々にとって、伝統料理は人生の節目の儀礼や慣習にもとづく話し合いの場で大切な役割を担ってきました。研究チームは、こうした料理の名前がどのような言葉の形で作られ、何に由来し、地域の知恵や価値観とどう結びついているのかを明らかにしようとしました。

この研究では「トポニミー(地名学)」の考え方を料理名に広げて用いています。トポニミーは本来、土地や地形の名前がどこから来たかを調べる分野です。著者らは、言語と文化の関係を扱う「人類言語学」の立場から、名付けの動機を探る手法を料理の名前に当てはめました。背景として著者らは、若い世代が伝統料理の名前を単なる商品名として知るだけで、名前に込められた意味を理解しなくなっていると指摘しています。また、ボネの料理名を言語の構造と地域の知恵の両面から体系的に調べた研究はまだ少ないと述べています。

15の料理名を現地で調査

対象は、現在も作られ、慣習の儀式で出され、伝統市場に出回っている15の基本的な料理名と、その呼び方の地域差です。バロンコ、ブラサ、ソッコ、ラワ・バレ、ベッパ・ジャンダなどが含まれます。

2026年2月から6月までの5か月間、ボネ県内の伝統料理づくりの拠点で現地調査が行われました。話を聞いたのは、口承や地域文化に詳しい12人です。内訳は、世代の異なる伝統料理の事業者4人、慣習の長老3人、伝統菓子を作る女性3人、地元の研究者・文化人2人でした。半構造化インタビュー(質問の枠組みを決めつつ自由に話してもらう聞き取り)、調理の様子の参与観察、伝統レシピの記録を組み合わせました。作り手の話を長老の話や文献と照らし合わせ、内容を確かめています。

言葉の形、名前の由来、五つの働き

言葉の形の面では、料理名は三つの型に分かれると報告されています。一つ目は、それ以上分けられない一語の「単純語」で、バロンコ、ブラサ、ソッコ、タラッジュなどです。二つ目は、中心となる語に説明の語が付く句で、カップを型にした蒸し菓子「プトゥ・チャンキリ」などがあります。三つ目は、二つの語が合わさって新しい意味を持つ「複合語」で、ラワ・バレやベッパ・ジャンダが該当します。

個々の名前の由来も示されています。著者らによると、バロンコはバナナの葉で「包む」という意味の語にさかのぼります。ソッコは「満ちた、完全な」を意味する語に由来します。タラッジュは「搗(つ)く」という動作を表す語が、そのまま料理の名前になったものです。また、内陸部では「ナス・ポッポ」が「ポッポ・マヌ」と呼ばれるなど、呼び方の地域差も記録されました。

名付けの動機は三つの側面に整理されました。材料・色・形・調理法といった見た目や作り方にかかわる側面、身分や男女の役割分担、共同の儀礼にかかわる社会的な側面、そして道徳や人生観、結婚の教えにかかわる文化的な側面です。たとえばラワ・バレは、生の魚を酸味のある汁で調理する方法が名前の由来とされています。

さらに著者らは、料理名が地域の知恵として五つの働きを持つと結論づけています。一つ目は文化的な自己認識や身分の目印で、かつて貴族への敬意を示す料理だったバロンコやソッコが例に挙げられています。二つ目は人と人の結びつきを育てる働きで、祝祭日の前に皆でブラサを作る習慣などに表れています。三つ目は調理技術や価値観を次の世代へ伝える働き、四つ目は謙虚さや心の清らかさといった道徳の指針です。五つ目は時代に合わせた文化の変化を促す働きで、自立して暮らす女性の作る菓子を意味するベッパ・ジャンダなどに見られるとされます。一方で著者らは、「七色の粥」を意味するベラ・ピトゥンルパの「七」については慎重に解釈すべきだとしています。この数字は規範的な教えというより、人生の節目の儀礼の伝統として理解するのが適切だという立場です。

料理の名前は文化の記録

この研究が示すのは、ボネの伝統料理の名前が偶然に付けられたものではないということです。材料や調理法、社会のしくみや人生観を映し出す「文化の記録」として機能していると著者らは考えています。ただし調査対象はボネ県の15の料理名に限られており、著者らも地方の方言の差をすべて網羅できていないことを限界として挙げています。そのうえで著者らは、こうした名前を保存し記録していくことが、地域の文化的な自己認識を守るうえで大切だと述べています。

原著論文の著者・所属:Jasnita Jasnita(Program Studi Pendidikan Bahasa Indonesia, Fakultas Keguruan dan Ilmu Pendidikan, Universitas Muhammadiyah Bone)、Andi Srimularahmah(Program Studi Pendidikan Bahasa Indonesia, Fakultas Keguruan dan Ilmu Pendidikan, Universitas Muhammadiyah Bone)、Irna Fitriana(Program Studi Pendidikan Bahasa Indonesia, Fakultas Keguruan dan Ilmu Pendidikan, Universitas Muhammadiyah Bone)

※本記事は原著論文をもとに、日本語で要約・説明を加えた研究紹介です。 出典(原著論文):Jasnita Jasnita, Andi Srimularahmah, Irna Fitriana TOPONIMI NAMA-NAMA MAKANAN KHAS BUGIS BONE: KAJIAN ANTROPOLINGUISTIK. LANGUAGE Jurnal Inovasi Pendidikan Bahasa dan Sastra 2026-11-03. DOI: 10.51878/language.v6i4.16437. 原著ライセンス:CC BY-SA 4.0.

本紹介記事の文章(題名・見出しを含む)は、CC BY-SA 4.0で提供します。原著論文をもとにNutriMap Japanが日本語で要約・説明を加えています。対象は本紹介記事の文章に限り、ヒーロー画像・サイトのロゴ・画面デザイン・他の記事・データベース全体は含みません。