著者の所属・活動拠点の国は、デンマーク、ウズベキスタンです。

掲載誌:Foods

ライセンス: CC BY 対象: 公開論文 確認元: OpenAlex

油だけを加熱する実験では分からないこと

食用油は、加熱すると酸化や分解などの化学変化を起こします。これまでの研究の多くは、油だけを加熱するか、一種類の食材を揚げ続ける条件で行われてきました。実際の料理では、油は水分、たんぱく質、でんぷん、食材由来の脂質などと触れ合います。そのため、こうした実験で見える変化がそのまま当てはまるとは限りません。

研究チームが取り上げたのは、ウズベキスタンで最も広く作られ食べられている伝統料理「プロフ(パロフ)」です。プロフは油に玉ねぎ、肉、にんじん、水、米を順に加えて作る料理で、ユネスコの無形文化遺産にも登録されています。著者らは、食材と油の相互作用が、熱だけでは再現できない分子レベルの変化を油にもたらすという仮説を立てました。そして、実際の調理と、ほぼ同じ温度の経過をたどらせた油だけの加熱とを比べました。

調理の段階ごとに油を採取して分析

実験には、ウズベキスタンのスーパーで購入した精製ヒマワリ油と精製綿実油を使いました。プロフ調理と、食材を入れない加熱(対照実験)を、それぞれの油について2回ずつ独立に行いました。油は6つの段階で採取しました。加熱前の新しい油、予熱後、玉ねぎを炒めた後、肉を加えた後、にんじんを加えた後、そして水と米を加えて盛り付ける直前です。採取した油は遠心分離にかけ、水分や食材のかけらを除いてから分析しました。

分析には、赤外線の吸収から分子の構造変化をとらえる赤外分光法(FTIR)と、原子核の磁気的な性質を利用して成分を見分ける核磁気共鳴(NMR)分光法を組み合わせて使いました。NMRは卓上型と高磁場型の2種類です。これにより、脂肪酸の組成、トランス脂肪酸、植物ステロール、油の分解で生じる部分グリセリド(ジグリセリド)、酸化生成物などを同時に追跡しました。食品を個々の指標ではなく、互いにつながった分子のシステムとしてとらえる「フードミクス」の考え方に基づく手法です。

食材が加わると油の変化は続き、方向も変わった

赤外分光のデータを統計的に整理すると、油だけの加熱では、変化の大部分が最初の予熱の段階で起こりました。その後の段階では大きな変化はほとんど見られませんでした。これに対してプロフ調理では、段階が進むごとに元の油の状態から離れ続けました。この傾向は綿実油でより顕著でした。

脂肪酸の組成にもはっきりした違いが出ました。ヒマワリ油を調理に使うと、多価不飽和脂肪酸の割合は約57モル%から約47モル%に下がりました。一価不飽和脂肪酸は約19モル%から約26モル%に、飽和脂肪酸は約24モル%から約27モル%に上がりました。油だけの加熱では、多価不飽和脂肪酸は約54モル%までしか下がらず、一価不飽和脂肪酸は約19モル%のままでした。綿実油では、調理によって多価不飽和脂肪酸が約44モル%から約32モル%に下がりました。加熱だけの場合は約39〜40モル%でした。どちらの油でも、肉を加えた後から調理と加熱の差が大きくなりました。著者らは、酸化されやすい多価不飽和脂肪酸が選択的に減ったことに加えて、油と肉などの食材との間で脂質が双方向にやりとりされたことも影響した可能性があると考察しています。

トランス脂肪酸の量も違いました。ヒマワリ油では、最終段階で調理の場合が約1.1%、加熱だけの場合が約0.3%でした。綿実油では、調理中、特に肉を加えた後に段階的に増えて最終的に約2.0%に達しました。加熱だけの場合は約0.4〜0.6%にとどまりました。肉に含まれる成分がこの反応を促した可能性も挙げられています。ただし論文は、その仕組みを直接測定したわけではなく、化学的にありうる解釈にとどまると述べています。

酸化の初期にできる物質(共役ジエンや過酸化物)は、むしろ油だけを加熱した方が多く蓄積しました。特に綿実油でその傾向が強く見られました。著者らは、これを調理中の酸化が少なかったという意味には解釈していません。過酸化物は分解しやすく、食材の側へ移ったり、別の物質に変わったりしうるためです。このほか、植物ステロールやジグリセリドも、段階によって増えたり減ったりする複雑な動きを示しました。調理中には水分が出ることで、油の加水分解が進んだと考えられています。成分どうしの相関を調べると、加熱だけでは多くの成分がそろって変化していました。一方、調理中はその連動が弱まり、正と負の関係が入り混じっていました。

熱が変化を起こし、食材がその行方を決める

著者らは、熱は油の変化を始動させる原動力だが、どのような分子変化に行き着くかは食材との相互作用が決めると結論づけています。現実の調理で起こる油の化学変化は、油だけを加熱するモデル実験では十分に説明できないということです。

なお論文は、肉などの食材そのものの脂質組成は測定していないと明記しています。そのため、食材から油に移った脂質の寄与を数量的に示すことはできていません。それでもこの研究は、身近な伝統料理を対象に、調理中の油の変化を食材との関係の中でとらえる枠組みを示したものといえます。

原著論文の著者・所属:Umrbek Mavlanov(Department of Food Science, University of Copenhagen, Rolighedsvej 26, 1958 Frederiksberg C, Denmark)、Sharofiddin Nuriddinov(Center for Advanced Technologies, Talabalar Shaharchasi 3A, Tashkent 100174, Uzbekistan)、Soyibjon Bozorov(Center for Advanced Technologies, Talabalar Shaharchasi 3A, Tashkent 100174, Uzbekistan)、Ergashev Oybek(Department of Food Technology, Namangan State Technical University, I. Karimov Street 12, Namangan City 160103, Uzbekistan)、Kodirov Olimjon(Department of Food Technology, Namangan State Technical University, I. Karimov Street 12, Namangan City 160103, Uzbekistan)、Meliboyev Mirazam(Department of Food Technology, Namangan State Technical University, I. Karimov Street 12, Namangan City 160103, Uzbekistan)、Kakharova Mukharram(Department of Food Technology, Namangan State Technical University, I. Karimov Street 12, Namangan City 160103, Uzbekistan)、Sardorbek Rahimovich(Department of Physical Chemistry, National University of Uzbekistan Named After Mirzo Ulugbek, University Str. 4, Tashkent 100174, Uzbekistan)、Sardorjon Shukurov Salimovich(Center for Advanced Technologies, Talabalar Shaharchasi 3A, Tashkent 100174, Uzbekistan)、Suvanqul Ravshanov(Department of Biotechnology, Tashkent Institute of Chemical Technology, Navoiy Street 32, Tashkent 100011, Uzbekistan)、Sherzod Kurambayev(Department of Food Technology, Urgench State University Named After Abu Rayhan Biruni, Kh. Alimjon 14, Urgench City 220100, Uzbekistan)、Sarvar A. Kakhkhorov(Department of Food Science, University of Copenhagen, Rolighedsvej 26, 1958 Frederiksberg C, Denmark)、Tomasz Paweł Czaja(Department of Food Science, University of Copenhagen, Rolighedsvej 26, 1958 Frederiksberg C, Denmark)、Dilbar Dalimova(Center for Advanced Technologies, Talabalar Shaharchasi 3A, Tashkent 100174, Uzbekistan)、Bekzod Khakimov(Department of Food Science, University of Copenhagen, Rolighedsvej 26, 1958 Frederiksberg C, Denmark)

※本記事は原著論文をもとに、日本語で要約・説明を加えた研究紹介です。 出典(原著論文):Umrbek Mavlanov, Sharofiddin Nuriddinov, Soyibjon Bozorov, et al. Molecular Evolution of Sunflower and Cottonseed Oils During Preparation of Uzbek Palov. Foods 2026-09-11. DOI: 10.3390/foods15183222. 原著ライセンス:CC BY.