唐揚げや中華料理の食材として知られるウシガエル(学名 Rana catesbeiana)の肉。中国では2019年時点で年間約50万トンが生産されているとされ、その多くはもも肉を冷凍した状態で流通しています。ところが冷凍・解凍を経ると水分が大量に流れ出てしまい、食感や歩留まり(実際に食べられる量)が落ちてしまうことが知られています。この問題を防ぐために食品加工の現場で広く使われてきたのがリン酸塩ですが、健康面への懸念から「クリーンラベル」(人工的な添加物表示を避けた製品)への需要が高まっており、代わりとなる素材探しが課題となっていました。今回、江南大学(中国・無錫)などの研究者らが、リン酸塩に代わる候補として、うま味成分の前駆体としても知られる塩基性アミノ酸「L-アルギニン」と「L-リジン」に着目した研究を発表しました。
ウシガエルのもも肉で何を比べたのか
この研究では、体重140〜160gの冷凍ウシガエルのもも肉を用い、精製水のみの対照群のほか、複合リン酸塩+食塩、あるいは重曹などを含む酸度調整剤+食塩を「陽性対照」として比較しました。そのうえで、L-アルギニン単独、L-リジン単独、両者を半量ずつ組み合わせたもの(アルギニン0.5%+リジン0.5%)を、食塩(塩化ナトリウム2%)を加えた場合と加えない場合とで用意し、12時間漬け込む実験を行っています。なお、すべての漬け込み液はクエン酸を使ってpH8.5前後にそろえられており、これはアミノ酸の効果が単なる「アルカリ性による効果」なのか、アミノ酸自体の構造による特有の効果なのかを切り分けるための工夫だと説明されています。効果は、加熱時や解凍時にどれだけ重さが保たれるか(歩留まり)、静置による水分の滴り(ドリップロス)、遠心分離による水分の絞り出され方(遠心損失)などから評価されました。
アミノ酸と食塩の組み合わせで何がわかったか
結果として、L-アルギニン0.5%とL-リジン0.5%に食塩2%を加えた組み合わせが、最も高い効果を示したと報告されています。対照群と比べて加熱時・解凍時の歩留まりが有意に高まり、遠心損失は40.77%から29.22%まで減少しました。この数値はリン酸塩処理の結果に近づいたものの、上回るまでには至らなかったとされています。また肉の表面の色を測定したところ、黄色みを示す数値(b値)が下がっており、これは表面の遊離水(自由に動ける水分)が減ったことと関係していると考察されています。顕微鏡による組織観察でも、食塩を加えたアミノ酸処理群では筋線維の間のすき間が狭まり、より密な組織構造になっていたことが確認されました。さらに低磁場核磁気共鳴(LF-NMR)という手法で水分子の動きやすさを調べたところ、動きにくい「不動水」の割合が増える方向に水分布が変化していたといいます。この背景には、筋原線維たんぱく質の立体構造(αヘリックス構造の一部がほどける)や表面の疎水性の低下、そして溶解度が51.54%から78%以上へと大きく高まったことが関わっており、これらがたんぱく質どうしの電気的な反発を強め、水を抱え込む網目構造を作りやすくしたと説明されています。一方、食塩を加えずアミノ酸だけを使った場合は、対照群よりは改善するものの、筋線維の間隔が広く残り、水分保持の効果は限定的だったとされています。
この研究をどう読むか
著者らは、L-アルギニン(側鎖のpKaが約12.5)やL-リジン(側鎖のpKaが約10.5)を単独で使うと溶液が強いアルカリ性になってしまうこと、また温度・時間・pHなど工業的な処理条件による影響がまだ十分にわかっていないことを、今後の課題として挙げています。さらに、これらのアミノ酸はコストが比較的高く、大規模な工業利用の妨げになりうる点も指摘されています。今回得られた効果はあくまでリン酸塩に近づいたものであり、上回るものではなかったこと、そして今回の実験は特定の条件下での検証である点にも留意が必要です。著者らは今後、配合コストや保存中の安定性について検討していく必要があるとしています。
まとめ
この研究は、冷凍ウシガエルのもも肉が抱える水分保持の課題に対し、L-アルギニンとL-リジンという塩基性アミノ酸を食塩と組み合わせることで、リン酸塩に近い保水効果が得られる可能性を示したものです。ただし、あくまで一つの研究であり、実際の商品化に向けてはコストや保存安定性など検討すべき点が残されていると著者らは述べています。
※本記事は原著論文の翻訳ではなく、研究内容を独自に解説したものです。参考文献:Ji Li, Shuangxi Guo, Bo Wei, et al. Water retention improvement in frozen bullfrog meat: evaluating basic amino acids as clean-label phosphate alternatives. フード・プロダクション・プロセッシング・アンド・ニュートリション (2026). DOI: 10.1186/s43014-026-00405-9. 原著ライセンス: cc-by.