著者の所属・活動拠点の国は、ヨルダンです。
掲載誌:International Journal of Agriculture and Biosciences
ライセンス: CC BY-NC-ND 4.0 対象: 公開論文 確認元: 論文PDF
ハーブとして人気の高いバジルは、土を使わずに育てる「無土壌栽培」でも生産されている。無土壌栽培では、植物を支え、水・空気・養分の環境を整える「培地」に、ヤシ殻を粉砕したココピートや、パーライトといった素材がよく使われる。しかし、これらの多くは輸入に頼っており、コストや品質のばらつきが課題になっている。乾燥・半乾燥地域では特に、地元で手に入る代替素材への関心が高まっている。
今回紹介する研究では、ヨルダンで産出する火山凝灰岩(粒径0〜8ミリ)を無土壌栽培の培地として使えるかどうかを、スイートバジルの一品種『ジェノベーゼ』で検証した。ヨルダン北部アンマン近郊にある国立農業研究センターの無加温温室で、2024年12月から2025年3月にかけての冬季に実施された実験で、比較対象には標準的な培地であるココピートとパーライトを体積比3対1で混ぜたものが用いられた。両区とも同じ養液(pH約6.0、EC1.3デシジーメンス毎センチメートル)を1日3回、1回あたり約200ミリリットル与える同一の施肥かん水管理のもとで、それぞれ3反復(1反復10株)を無作為に配置して栽培された。定植から45日後と、その39日後の計2回収穫し、収量に加えて葉の色素、抗酸化力、ビタミンCなどの品質指標を比較している。
収量は同等、品質指標には差
2回の収穫を通じた地上部の生重量や総収量は、両培地でほぼ同じだった。1株あたりの総収量はココピート・パーライト区で250.41グラム、凝灰岩区で246.56グラムとなり、統計的な差は見られなかった。一方、根に関しては傾向が分かれた。根の生重量はココピート・パーライト区でやや多い傾向(有意水準には届かない程度の差)が見られ、逆に根の乾物率(水分を除いた重さの割合)は凝灰岩区の方が明確に高かった。論文では、この違いについて、ココピートの方が水持ちがよい一方、凝灰岩は粗い粒であるほど保水力が低く空気を含む隙間(通気性)が多いという、両素材の物理的な性質の違いが関係している可能性が考察されている。
品質面では差がはっきり出た項目がある。葉に含まれるカロテノイド総量は、ココピート・パーライト区が凝灰岩区より約101%多く、抗酸化力の指標であるDPPH法による値も、ココピート・パーライト区の1666(マイクログラム トロロックス当量/グラム乾燥重量)に対し凝灰岩区は720と、約131%の差があった。ただし、抗酸化力を別の方法(FRAP法)で測った場合や、総フェノール含量、ビタミンC含量には、両培地の間で違いが見られなかった。論文では、DPPH法とFRAP法は異なる化学反応の仕組みで抗酸化力を測定するため、それぞれ異なる種類の抗酸化物質に反応した結果、フェノール類全体の量ではなく、カロテノイドなど特定の成分の組成が変化したことを反映している可能性がある、と述べられている。また、葉緑素の量やSPAD値(葉の緑の濃さを示す簡易指標)には培地による違いはなかった。これらの結果を統合する主成分分析でも、ココピート・パーライト区はカロテノイドや抗酸化力の高さと結びつく一方、凝灰岩区は収量の安定と結びつくという傾向が確認されている。
この研究の位置づけと読むうえでの注意
著者らは、施肥かん水がきちんと管理されていれば、火山性・鉱物性の培地でも収量を保てるとする過去の知見と、今回の結果は一致すると述べている。同時に、凝灰岩そのものの化学的な養分保持特性(アンモニウムなどを保持・放出する性質)は本研究では直接測定しておらず、収量が保たれた背景として推測にとどまる点も明記されている。また、主成分分析に用いた反復数が少なく、データのばらつきが大きい点も著者らが言及する限界である。この研究は1回の冬季栽培・1品種・1つのかん水条件で行われたものであり、季節や品種、施肥条件が変われば結果が変わる可能性がある。著者らは、凝灰岩の粒径をより細かく調整したり、ココピートなど有機素材と混合して保水力を高めたりすることで、品質面の課題を改善できる可能性があるとし、今後の検証課題として挙げている。
まとめ
この研究では、ヨルダン産の火山凝灰岩を無土壌栽培の培地として使った場合、冬季温室でのバジルの収量は輸入由来のココピート・パーライト培地と同程度に保たれる一方、カロテノイドや抗酸化力といった品質指標はココピート・パーライトの方が高くなることが示された。地元で採れる資源を使うことで輸入培地への依存を減らせる可能性がある一方、機能性成分を重視する場合には培地の物理的な性質をさらに調整する必要があることが示唆されている。今回は一つの研究であり、栽培条件や品種を変えた追試が今後の課題として挙げられている。
著者:Muad Kiyyam(Department of Agricultural Sciences, Shoubak University College, Al-Balqa Applied University, Salt 19117, Jordan)、Imad Mohammed AlShnaikat(National Agricultural Research Center (NARC), Jordan)、Taher Assaf(Department of Plant Production and Protection, Faculty of Agriculture, Jerash University)、Muayyad Bany Hani(Department of Plant Production and Protection, Faculty of Agriculture, Jerash University)、Tareq Hidmi(Department of Plant Production and Protection, Faculty of Agriculture, Jerash University)、Baker Omar Kafaween(Agricultural Biotechnology and Genetic Engineering, Faculty of Agricultural Technology, Al-Ahliyya Amman University, Jordan)、Abdelrahman Mohammad Fayiz Alfawaz(Department of Plant Production, Smart and Sustainable Agriculture, Faculty of Agriculture, Ajloun National University, Ajloun, Jordan)、Manar Niazi Al Talhouni(National Agricultural Research Center (NARC), Jordan)
※本記事は原著論文の翻訳ではなく、研究内容を独自に解説したものです。出典(原著論文):Performance of Jordanian Volcanic Tuff as a Soilless Substrate for Winter Greenhouse Basil Production: Yield and Quality Responses. 国際農業・生物科学ジャーナル (2026). DOI: 10.47278/journal.ijab/2026.189.