牛乳や山羊乳には、消化の過程でたんぱく質が分解されてできる『生理活性ペプチド』と呼ばれる小さな断片が含まれていることが知られています。その中には、血圧に関わる酵素の働きを妨げる『ACE阻害活性』を持つものがあり、食品分野での研究対象になってきました。今回紹介する研究では、ヤギに水素を溶かし込んだ水(水素水)を飲ませることで、乳の中のペプチドやアミノ酸の組成がどう変化するかを調べています。
研究チームには、トルコのイノニュ大学食品工学科やカフカス大学獣医学部、イーディル大学の研究者らが名を連ねています。
どのように調べたのか
研究では、水素水を与えたヤギから採取した初乳(出産直後の乳)と常乳(その後の通常の乳)を対象に、LC-MS-MS(液体クロマトグラフィー質量分析計)という手法でたんぱく質分解産物を分析しました。乳中のκ-カゼイン、αs2-カゼイン、β-カゼイン、α-ラクトアルブミン、β-ラクトグロブリンといったたんぱく質の断片を調べたところ、合計31種類の、生理活性を持つ可能性があるペプチド配列が同定されたと報告されています。
特に注目されるのは、β-カゼイン由来の断片(f127-134、配列PKYPVEPF)、α-ラクトアルブミン由来の断片(f43-50、配列PEWVCTAF)、β-ラクトグロブリン由来の断片(f58-64、配列RVYVEEL)の3つで、これらは水素水を与えたヤギの乳でのみ検出されたとされています。また、遊離アミノ酸の生成量も水素水を与えた乳のサンプルで最も高く、グルタミン酸・アスパラギン・セリン・グリシン・アルギニンといった親水性アミノ酸や、アラニン・プロリンといった疎水性アミノ酸の一部が増加していたことが示されています。
ACE阻害活性はどうだったか
すべてのサンプルでACE阻害活性が確認され、その範囲は79.30〜83.05%だったと報告されています。さらに、酵素の働きを半分に抑えるのに必要な濃度を示す指標(IC50値)が最も低かった、つまり少量でも効果的だったのは、水素水を与えたヤギの14日目の乳で、値は51.68マイクログラム毎ミリリットル(このときのACE阻害活性は81.21%)だったとされています。
この研究の位置づけと読むうえでの注意
これらの結果から、研究チームは水素水がヤギ乳の遊離アミノ酸組成に良い影響を及ぼし、それに伴ってACE阻害活性を持つ可能性のあるペプチドの生成にも変化をもたらすと考察しています。ただしこれは一つの研究で得られた知見であり、ヒトの健康への効果を直接示したものではありません。ACE阻害活性はあくまで実験室内での酵素反応を指標としたものであり、実際に摂取した場合の作用や安全性を保証するものではない点に留意する必要があります。
まとめ
今回の研究では、水素水を与えたヤギの乳において、特定のペプチド断片が新たに検出されたことや、遊離アミノ酸の組成に変化がみられたこと、ACE阻害活性の指標に違いが観察されたことが報告されました。乳たんぱく質由来の生理活性ペプチドは今後も研究が続けられる分野であり、今回の知見もそうした基礎研究の一つとして位置づけられます。
※本記事は原著論文の翻訳ではなく、研究内容を独自に解説したものです。参考文献:Didem Şahingil, Hilal Kanmaz, Ali Adnan Hayaloğlu, et al. Supplementation of hydrogen-rich water to goats modifies the ACE inhibitory activity and bioactive peptide profile detected by LC–MS–MS of colostrum and mature milk. サイエンティフィック・リポーツ (2026). DOI: 10.1038/s41598-026-63331-3. 原著ライセンス: cc-by-nc-nd.