植物工場やスマート温室での栽培が広がるなか、化学肥料や合成農薬に頼らずに作物の生育を後押しする「バイオスティミュラント(生物刺激剤)」への関心が高まっています。今回紹介する研究は、麻(ヘンプ)の種子から油を搾った後に残る「搾油粕」を原料に作ったタンパク質加水分解物を、イチゴの葉に散布するとどのような変化が起きるのかを調べたものです。研究はタイのタマサート大学理工学部農業技術学科の研究チームによって行われました。
何を、どのように調べたのか
実験ではイチゴの品種「Pharachatan 80」がスマート温室内で栽培されました。麻の実搾油粕由来のタンパク質加水分解物(HPH)を水で7.5%と10.0%(重量/容量比)に希釈した2種類の濃度区が用意され、比較対象として水のみを与えた対照区と、市販のバイオスティミュラント製剤を与えた区が設けられました。葉面散布は定植から25日後に開始し、その後1週間おきに計5回繰り返されたと報告されています。研究チームは、株の生育量やミネラル(無機養分)の蓄積量、花や果実のつき方といった繁殖関連の特性、収量、そして果実の品質や抗酸化に関わる成分までを幅広く測定しました。
研究でわかったこと
結果として、HPHの散布は濃度によって効果の現れ方が異なる、はっきりとした違いを示したと報告されています。7.5%濃度区(HPH7.5)では、株の生育とカリウム(K)・マグネシウム(Mg)の蓄積が特に促進され、それに伴って果実がきちんと実る割合(着果率)や果実の数、重さ、大きさ、総収量といった収量に関わる要素の多くが向上したとされています。あわせて、糖度の指標となる可溶性固形物量、総フェノール含量、フラボノイド含量、アスコルビン酸(ビタミンC)含量、そしてABTSラジカル消去活性という抗酸化力の指標も高まったと報告されています。
一方、10.0%濃度区(HPH10.0)は異なる特徴を示し、窒素(N)、リン(P)、カルシウム(Ca)、鉄(Fe)、亜鉛(Zn)、マンガン(Mn)といった、より幅広いミネラルの蓄積との関連が強く見られたとされています。また果実の硬さ(果実硬度)や総アントシアニン含量、DPPHラジカル消去活性という別の抗酸化指標もこの濃度でより強く関連していたと報告されています。研究チームは主成分分析という統計手法を用いて、この2つの濃度が異なる反応パターンを示すことを確認したとしています。総合すると、作物全体としての生産性や品質向上という観点では、7.5%濃度(HPH7.5)が最も効果的な処理であったと結論づけられています。
この研究の位置づけと読むうえでの注意
この研究は、特定の品種のイチゴを対象に、特定の温室環境・散布スケジュールのもとで行われた一つの研究です。ここで得られた結果が、他の品種や露地栽培、異なる気候条件でも同様に再現されるかどうかは、この要旨の情報だけでは判断できません。また、ここで報告されているのはあくまで植物の生育・収量・果実成分に関する測定結果であり、これらの果実を食べた際の人の健康への効果を直接示すものではない点にも注意が必要です。
まとめ
麻の実を搾油した後に残る副産物からタンパク質加水分解物を作り、イチゴの葉に散布することで、生育や収量、果実の抗酸化関連成分に違いが生じることが今回の研究で示されました。特に7.5%という濃度が、収量と品質の両面でバランスよく良い結果につながったと報告されています。今後、他の品種や栽培環境での検証が進むことで、この副産物由来の資材の活用可能性がさらに明らかになっていくと考えられます。
※本記事は原著論文の翻訳ではなく、研究内容を独自に解説したものです。参考文献:Bhornchai Harakotr, Tipsuda Teanthong, Lalita Charoensup, et al. Foliar Application of Hempseed Press Cake-Derived Protein Hydrolysate Enhances Yield, Fruit Quality, and Antioxidant Properties of Strawberry (Fragaria × ananassa Duch.) Grown Under Smart Greenhouse Conditions. ホルティカルチュラエ (2026). DOI: 10.3390/horticulturae12080958. 原著ライセンス: cc-by.