植物由来のステロール(フィトステロール)は、LDLコレステロールを下げる働きが報告されている成分として、健康志向の食品にしばしば添加されます。しかし弱点があります。熱や酸素にさらされると分解してしまい、保存や調理の過程で効果が失われやすいのです。ポーランドのポズナン生命科学大学食品科学栄養学部の研究グループは、この弱点を「リポソーム」というごく小さなカプセル状の構造に植物ステロールを包み込むことで克服できないか検討しました。今回の研究は、その工夫をマヨネーズという実際の食品に応用し、加熱条件下での安定性を調べたものです。
どのように調べたのか
研究チームは、ステロールの一種であるスチグマステロールをオレイン酸と結合させたエステル(スチグマステロールオレイン酸エステル)をリポソームに封入し、これを2%、4%、6%、8%という異なる割合でマヨネーズに添加して試料を作成しました。この試料を2種類の条件で加熱しています。ひとつは60℃で8時間という、保存時の温度上昇を想定した緩やかな加熱、もうひとつは180℃で30分・60分・90分・120分という、揚げ物調理を想定した高温の加熱です。加熱後のマヨネーズについて、脂肪含量、脂肪酸の組成割合、そしてオレイン酸とスチグマステロールそれぞれの残存量を測定しました。
加熱でステロールはどうなったか
60℃で8時間加熱した場合、リポソームを加えたマヨネーズの脂肪含量は97〜98%を維持していました。180℃での加熱では、60分の時点では脂肪含量がほぼ100%まで達したものの、120分まで加熱を続けると75%まで低下したと報告されています。脂肪酸の中でもオレイン酸の含有量は、リポソームを添加したマヨネーズでは加熱を通じて安定していました。
最も注目すべき結果はスチグマステロールの挙動です。リポソームを含まない対照試料(ステロールを直接添加したもの)では、加熱によってステロール含量が79%も減少しました。一方、リポソームに封入したステロールを含むマヨネーズでは、60℃・8時間の加熱後の減少幅は3〜25%にとどまり、リポソームによる保護効果がうかがえる結果となりました。ただし180℃という高温での加熱を90分・120分と長く続けた場合には、減少幅は90〜100%に達し、リポソームによる保護効果はほとんど失われたと report されています。
この研究をどう読むか
この結果は、リポソームによる封入が植物ステロールの熱・酸化に対する安定性を、短時間の加熱条件においては効果的に高めうることを示唆しています。一方で、著者らは、180℃での長時間・高強度の加熱に対してはこの保護効果が十分ではなく、ステロールの損失を防ぎきれないと結論づけています。つまり、リポソーム封入という手法にも適用できる条件とできない条件があるということです。この研究は特定の添加割合・加熱条件のもとでの実験結果であり、他の調理条件や保存条件、あるいは他の食品への応用可能性についてまで結論づけるものではない点に留意が必要です。
まとめ
植物ステロールをリポソームに包み込むという工夫は、マヨネーズの保存を想定した比較的穏やかな加熱条件では、ステロールの分解を大きく抑える効果が確認されました。しかし揚げ物のような高温・長時間の加熱には対応しきれないことも同時に示されました。今後、食品への機能性成分の添加技術を考えるうえで、どのような加熱・保存条件を想定するかによって最適な工夫が異なりうることを示す一つの研究といえます。
※本記事は原著論文の翻訳ではなく、研究内容を独自に解説したものです。参考文献:Magdalena Rudzińska, Joanna Igielska‐Kalwat, Anna Grygier, et al. Phytosteryl Esters Encapsulated in Liposomes as Bioactive Additives in Mayonnaise. モレキュールズ (2026). DOI: 10.3390/molecules31152687. 原著ライセンス: cc-by.