この研究は、ブラジル、ウルグアイの研究機関の研究論文です。
掲載誌:European Journal of Nutrition
ライセンス: CC BY 対象: 公開論文 確認元: OpenAlex
研究の目的
食事のあと、血液中の糖や脂質の濃度は一時的に変化します。血糖値は食後すぐに上がりやすい一方、中性脂肪(トリグリセリド)は食後1時間ほどたってから上がり始めます。著者らは、食後の中性脂肪の高さが心血管リスクとより強く関連すると報告されていることを紹介し、食後の脂質代謝を調べる意義を示しています。
近年は、血液中の数百から数千種類の脂質分子を一度に測る「リピドミクス」と呼ばれる分析が可能になりました。しかし、食後に個々の脂質分子がどう変化するかは、まだ大部分が分かっていません。食後の変化を追うには何度も採血する必要があり、一般的な静脈採血は体への負担が大きく、訓練を受けた人員や設備も必要になります。
そこで研究チームは、指先から採った血液をろ紙に染み込ませて乾かす「乾燥血液スポット(DBS)」に注目しました。DBSは低コストで負担の少ない採血法です。この研究は、糖と脂肪を多く含む飲料を飲んだ若い女性から、同じ指先の血液を使ってDBSと毛細血管血漿(血液から細胞を除いた液体部分)を採取し、両者の脂質の変化を比べることを目的としています。
何を調べたか
参加者は、糖尿病や妊娠などの条件に当てはまらない若い女性10人(平均年齢26.1歳)です。10時間の絶食のあと、ブドウ糖75g、キャノーラ油60g、乳たんぱく質のカゼイン20gを水に溶かした200mLの飲料を飲みました。著者らは、この飲料は普段の食事を再現するものではなく、代謝の反応を見るための負荷試験として広く使われているものだと説明しています。
採血は飲む直前と、飲んでから60分、90分、120分、150分の時点で行いました。毎回、指先を穿刺して得た血液から、血漿とDBSの両方を用意しています。採取した試料は、高性能な液体クロマトグラフィーと質量分析を組み合わせた装置で分析され、脂質分子が種類ごとに同定・定量されました。
主な結果
分析の結果、18の主要な脂質のグループから、血漿で338種類、DBSで306種類の脂質分子が見つかりました。どちらでも中性脂肪、ホスファチジルコリン(細胞膜などを構成するリン脂質の一種)、遊離脂肪酸が種類数の多いグループで、全体のおよそ半分を占めました。量の面でも、両者の脂質の構成は似ていたと報告されています。
測定したすべての脂質をまとめて見ると、時間の経過による全体像の大きな変化は認められませんでした。一方で、採血時点の違いを最もよく区別していたのは中性脂肪と遊離脂肪酸でした。食後、中性脂肪は血漿で64%、DBSで34%増え、遊離脂肪酸は血漿で36%、DBSで14%減りました。全体として、食後の変化の幅は血漿のほうが大きかったとされています。
遊離脂肪酸のなかでは、パルミトレイン酸の反応が両方の試料で最も大きく、飲んでから90分の時点で74〜86%低下しました。遊離脂肪酸は90分で最も低くなり、遊離脂肪酸の合計値は血漿とDBSのあいだで正の相関を示しました(相関係数0.60)。ただし、アラキドン酸とEPAは血漿で約60%減ったのに対し、DBSでは統計的に意味のある減少が見られませんでした。中性脂肪についても、両方で測れた45種類の増え方のパターンは似ており、濃度は強く相関していました。
一方、DBSだけに目立った変化もありました。リン脂質の一種であるホスファチジルエタノールアミン(PE)と、その仲間であるプラスマローゲン型PEは、DBSで食後の変化をよく示す脂質でした。DBSでは最初の60分で約2倍に増え、その後120分までに約40%減るという動きを見せました。血漿では、こうした変化を示したPEは1種類だけでした。
研究が示すこと
著者らは、DBSが食後の中性脂肪の増加と遊離脂肪酸の減少を、毛細血管血漿と同じような形でとらえられたと結論づけています。両者で見つかる脂質の種類は多くが重なっており、両者の違いは、ある脂質が検出されるかどうかではなく、主に測定される量(シグナルの強さ)の差として現れたとしています。
ただし、DBSは細胞を含む全血から作られます。著者らは、DBSでアラキドン酸やEPAの変化が小さかったことには細胞膜に組み込まれた脂肪酸が、PEの変化には免疫細胞である白血球の増加が影響している可能性があると考察しています。そのうえで、DBSは血漿をそのまま置き換えるものではなく、補い合う情報源だと位置づけています。中性脂肪や遊離脂肪酸のような特定の脂質について、指先の少量の血液から食後の変化を追う方法の一つとして、DBSが使える可能性を示した研究といえます。
著者:Stephany Gonçalves Duarte(Department of Food Science and Experimental Nutrition, School of Pharmaceutical Sciences, University of São Paulo, São Paulo SP, Brazil)、Carlos Mario Donado-Pestana(Centro de Investigaciones Biomédicas (CEINBIO), Facultad de Medicina, Universidad de la República, Montevideo, Uruguay)、Larissa Rodrigues(Department of Food Science and Experimental Nutrition, School of Pharmaceutical Sciences, University of São Paulo, São Paulo SP, Brazil)、Marcos Yoshinaga(Cruzeiro do Sul University, São Paulo SP, Brazil)、Adriano B. Chaves-Filho(Department of Biochemistry, Institute of Chemistry, University of São Paulo, São Paulo SP, Brazil)、Sayuri Miyamoto(Center for Metabolism (CoMETA), University Hospital, University of São Paulo, São Paulo SP, Brazil)、Jarlei Fiamoncini(Brazilian National Institute of Science and Technology for Hepatology 360° (INCT-Hepatology), Belo Horizonte, MG, Brazil, Belo Horizonte MG, Brazil. [email protected])
※本記事は原著論文をもとに、日本語で要約・説明を加えた研究紹介です。 出典(原著論文):Stephany Gonçalves Duarte, Carlos Mario Donado-Pestana, Larissa Rodrigues, et al. Comparative analysis of postprandial changes in the lipidome of capillary plasma and dry blood spots of young women. European Journal of Nutrition 2026-10-07. DOI: 10.1007/s00394-026-04119-z. 原著ライセンス:CC BY.