掲載誌:Plant Perspectives

ライセンス: CC BY 対象: 公開論文 確認元: OpenAlex

一本のヤシから食文化と音楽をたどる

チョンタヤシは、実が食用になるだけでなく、木材が伝統楽器の材料にもなる植物です。著者は、パナマ、コロンビア、エクアドルにまたがる太平洋沿岸のアフリカ系住民の暮らしに注目し、このヤシが食、音楽、土地への帰属意識をどのように結びつけてきたかを検討しました。さらに、人種や階級に関する偏見が、その文化や知識の評価に与えてきた影響を論じています。

論文は、植物の栽培化や利用に関する先行研究、植民地時代の記録、地域の暮らしを扱った文献に加え、歌や詩、個人から寄せられた語りを参照しています。これらを通じて、食材や楽器としての用途だけでは捉えきれない、チョンタヤシの文化的な意味を読み解いています。

食を支える実と、記憶を響かせる木材

著者が整理した文献によると、チョンタヤシはヨーロッパ人の到来以前から先住民に利用されてきました。実は調理や発酵飲料に、硬い木材は道具や建材に使われるなど、暮らしの幅広い場面に関わっていました。論文は、栽培や利用の知識が、文字による記録だけでなく、神話や祭りなどにも受け継がれていると説明しています。

奴隷状態から逃れたり自由を得たりして太平洋沿岸に暮らすようになったアフリカ系の人々にとって、実のチョンタドゥロは、自分たちの食を自分たちで支える基盤になったと著者は述べています。また、故郷のアフリカで親しまれたアブラヤシとの類似が、この植物を身近なものとして受け入れる一因になった可能性を提示しています。ただし、これは著者の解釈であり、確定した経緯としては示されていません。

木材の利用では、アフリカ由来の打楽器マリンバを、チョンタヤシの木で作り直したことを重視しています。著者によると、チョンタ・マリンバは祝いの場から葬送まで暮らしに寄り添い、多様な出自を持つ人々の結びつきと、新しい文化的な帰属意識を支えてきました。木材を扱う技術には先住民との知識の交流があった可能性を指摘する一方、マリンバの製作と演奏はアフリカ系住民が育んだ知識として位置づけています。

偏見の陰で受け継がれてきた知識

論文が指摘するのは、チョンタドゥロの地域での重要性と、社会的な評価との隔たりです。古い記録には市場で広く扱われていた様子が残る一方、コロンビアでは人種や貧困に結びつけて低く見られ、地域や全国の料理本には長くほとんど登場しなかったといいます。著者は、近年の伝統料理を文化遺産として捉え直す動きが、実やその料理の再評価につながったと論じています。

著者が結論で強調するのは、植物についての深い知識は、文字資料や遺物だけでなく、料理、音楽、口承にも蓄えられているという点です。チョンタヤシは単なる食料や材料ではなく、人々が土地に根づき、記憶と尊厳を受け継いできた営みを映す植物として描かれています。

原著論文の著者・所属:Vanessa Villegas Solórzano(Comestible)

※本記事は原著論文をもとに、日本語で要約・説明を加えた研究紹介です。 出典(原著論文):Vanessa Villegas Solórzano. Cooking and Playing with the Chonta Palm. Plant Perspectives 2026-09-16. DOI: 10.3197/whppp.63876246815931. 原著ライセンス:CC BY.