著者の所属・活動拠点の国は、オランダです。
掲載誌:Journal of Insects as Food and Feed
ライセンス: CC BY 対象: 公開論文 確認元: OpenAlex
なぜ昆虫を食べることに抵抗を感じるのか
この論文は、食用昆虫の栄養や持続可能性、安全性を支持する科学的根拠がある一方で、なぜ欧米では食べることへの抵抗が根強いのかを考察しています。著者らは、栄養や環境面の評価だけでは説明できない要因として、文化の中で形づくられる嫌悪感や、食べ慣れないものを避ける心理に目を向けています。
食文化の違いと、歴史がつくった序列
著者らは歴史研究や社会研究を踏まえ、昆虫食への態度を、植民地支配の歴史や文化間の序列と結びつけて論じています。論文によれば、昆虫を食べる営みには進化の歴史にさかのぼる深い根があり、現在も多くの先住民社会や熱帯地域の食体系で、価値ある頼れる食料として位置づけられています。
一方、温帯地域では利用できる昆虫が限られていたことが、欧米の食生活で昆虫食が周辺的な位置に置かれる一因になったと説明しています。その傾向を後に強めたのが、ヨーロッパの食習慣を上位に置き、ほかの地域の食文化を低く評価する植民地主義的な考え方だった、というのが著者らの議論です。
科学的な説明だけでは変わらない態度
論文は、昆虫が栄養や環境負荷の面で従来の食肉と比べて有利に評価されても、その根拠を示すだけでは欧米の態度は変わっていないと指摘します。文化に根ざした嫌悪感が、昆虫食を健康や文化への脅威とみなす語りを支えていると論じています。また、グローバル・サウスと呼ばれる地域でも、近代化や植民地支配に由来する価値観の受容によって昆虫食が衰えた場所がある一方、都市の市場を通じて再び広がる場所もあると紹介しています。
著者らは、研究、事業化、制度運営、情報発信において、植民地支配から受け継がれた価値の序列を見直すための提言を示しています。結論として重視しているのは、技術革新だけでなく、先住民の知識と、人々が自らの食のあり方を決める権利を尊重することです。昆虫食への抵抗を理解するには、食品の性質だけでなく、何を食べ物として認めるかを形づくってきた文化と歴史にも目を向ける必要がある、というのが論文の主旨です。
原著論文の著者・所属:Arnold van Huis(Laboratory of Entomology, https://dx.doi.org/4296Wageningen University and Research, Droevendaalsesteeg 1, 6708 PB Wageningen, The Netherlands)
※本記事は原著論文をもとに、日本語で要約・説明を加えた研究紹介です。 出典(原著論文):Arnold van Huis. Disgust, culture and colonial legacies in attitudes toward edible insects. Journal of Insects as Food and Feed 2026-08-13. DOI: 10.1163/23524588-bja10457. 原著ライセンス:CC BY.