この研究は、イタリア、ベルギー、チリ、スウェーデンの研究機関の研究論文です。

掲載誌:Nutrients

ライセンス: CC BY 対象: 公開論文 確認元: OpenAlex

何を目的とした研究か

食後の強い膨満感、少量で満腹になる早期飽満感、上腹部の痛みや焼ける感じが続き、日常生活に支障が出ることがあります。検査で説明できる器質的な病気が見つからず、診断基準を満たす場合、この状態は機能性ディスペプシア(FD)と呼ばれます。著者らは、FDの世界的な有病率をローマIV基準で約6.8%と報告された数値として紹介し、女性に多いとしています。

著者らによれば、治療の流れの中で食事指導は早い段階で検討されるものの、それを支える根拠は限られており、患者には少量頻回の食事や、辛いもの・脂っこいもの・コーヒー・炭酸飲料・アルコールといった引き金になりうる食品を避けるよう助言されるのが一般的です。しかし著者らは、FDと食事の関係はそれよりはるかに複雑だと指摘します。FDそのものが食事のとり方や食行動を不適応な形に変え、栄養摂取に影響したり過度の食事制限を招く可能性があるためです。この総説は、FDの病態生理、食行動と食事パターン、栄養摂取、根拠に基づく食事介入、患者がよく挙げる引き金食品、そして食事戦略に伴いうるリスクを、包括的に見渡すことを目的としています。

どのように資料を集めたか

本論文はナラティブレビュー(叙述的総説)、すなわち文献を物語的に整理して解説する形式の総説です。著者らはPubMed/MEDLINE、Embase、Cochrane Libraryを対象に、データベース収載開始から2026年5月31日までを構造化して検索しました。機能性ディスペプシアや上腹部痛症候群などの用語を、食事パターン、食事回数、脂質、タンパク質、グルテン、小麦、FODMAP、食物繊維、地中海食、超加工食品、食物不耐、栄養状態などの用語と組み合わせています。対象は成人を扱った英語文献で、原著研究、系統的レビュー、メタ解析、ガイドラインが適格とされ、生理学的な対照実験、ランダム化試験、大規模な集団コホートが優先されました。

著者らは自らこの方法の限界を明示しています。系統的レビューではないため、バイアスリスクの正式な評価も量的統合も行っておらず、選択バイアスは除外できません。また文献の地理的な偏りがあること、参照定義としてローマV基準を用いるが過去の研究を後から再分類することはできないため、各研究が実際に用いた基準を本文中で示すことも述べられています。

食事が症状を引き起こす仕組みとして報告されたこと

著者らは、FDの発症機序は多因子的だと整理します。胃の運動と感覚の機能不全、内臓の過敏性、十二指腸粘膜の軽度な免疫活性化、上皮のバリア機能の障害、小腸の細菌構成の変化、脳と腸の連絡の乱れが、患者ごとに異なる組み合わせで関与するという枠組みです。多くの患者では食事が症状の主要な引き金になるため、総説はそれぞれの仕組みと食事との接点に沿って構成されています。

報告された数値としては、食事に伴って胃の上部がふくらむ適応(胃適応)の障害がFD患者の40%、別のコホートで37%に認められ、固形物の胃排出の遅れは大規模コホートで23〜34%に存在するとされています。胃を広げる刺激に対する過敏性は約3分の1(34〜37%)ですが、管内の栄養素に対する化学的な過敏性はより多く、最大60〜70%に及び、食事関連の症状の強さと相関すると紹介されています。

脂質の役割はとくに詳しく調べられていると著者らは述べます。十二指腸への脂質の注入は、同じカロリーのブドウ糖では起こらない形で胃の機械的な過敏性を高め、胃を広げていない状態でも膨満感、吐き気、上腹部の不快感を引き起こしました。症状はコレシストキニン(CCK)というホルモンのA受容体を遮断する薬で軽くなり、脂質量、血中CCK濃度、症状の強さの間に用量反応関係が示されています。ただしCCKの上昇幅はFD患者と健康な人で同程度であるため、著者らが紹介する有力な解釈は、ホルモンが過剰に出ているのではなく、生理的に正常なCCKの信号に対して過敏になっているということです。同じカロリーで比べた食事試験でも、高脂肪ヨーグルトは高炭水化物ヨーグルトより吐き気と痛みを強く引き起こしたと報告されています。

脳と腸のつながりに関しては、期待や学習された食の思い込みが症状の出方に組み込まれているという報告が紹介されます。あるランダム化クロスオーバー研究では、低脂肪ヨーグルトを「高脂肪である」と誤って伝えられた場合、参加者は高脂肪ヨーグルトと同程度の膨満感を訴えました。著者らは、こうした期待に由来する反応(ノセボ効果)を認識することが、食品と症状の関連を解釈し、合理的な食事管理を設計するうえで不可欠だとしています。

食べ方と栄養素について報告されたこと

食事の回数、規則性、食べる速さ、量といった食べ方は、食品の選択とは別に修正できる側面として扱われています。11の観察研究(参加者21,220人)をまとめた系統的レビューとメタ解析では、食事回数が多いことがFDのリスク低下と最も再現性よく関連する食習慣として挙げられました。イランの4,700人超の横断研究では1日の食事回数とFD有病率が逆に関連し、日本の大学生8,913人の横断解析では朝食や昼食を抜くことがFDと正の関連を示したと報告されています。一方で、ローマIV基準の食後異常症候群の患者53人を対象としたランダム化試験では、従来型の食事助言を追加しても4週間で上乗せの効果はみられませんでした(十分な症状緩和39%対33%)。

著者らは、これらの多くが横断研究であるため時間的な前後関係は推定できず、食べ方の乱れがFDに先行するのか、すでにある症状への適応なのかは未解決だと明記しています。そのうえで、規則的な時間帯、1日3回の均衡のとれた食事、朝食や昼食を抜かないこと、適度な量、急がない食べ方といった食事の組み立ては、リスクが低く、これまでに分かっている仕組みと整合する管理の一部だと位置づけています。

栄養素では、脂質が最も一貫して症状に関与すると報告されています。ただし著者らは、根拠が十二指腸への脂質注入実験、単回の食事比較、横断調査に由来し、持続的な脂質制限をFDの治療として評価したランダム化比較試験は存在しないことを強調します。したがって適度な脂質の削減は、確立した治療ではなく、個々に試して見直せる、仕組みの上でもっともらしくリスクの低い方法として扱うべきだとしています。小麦由来のタンパク質については、自己申告の小麦感受性がFDと独立して関連したという集団研究や、グルテン負荷が膨満感、早期飽満感、上腹部痛の重症度を有意に高めたという5つのランダム化試験のメタ解析が紹介されますが、そのエビデンスの確実性は非常に低いと評価されています。著者らは、FD全体に対してグルテン除去食を支持する根拠はないとし、セリアック病と小麦アレルギーを除外した後の一部の患者に限って試す対象だと述べています。総炭水化物の摂取量については、報告が乏しく一致しないため、具体的な推奨はできないとしています。

食事パターン全体としては、地中海食への高い遵守が低い遵守と比べてFDの可能性の低下と関連したという観察研究の結果が、GRADEで中等度の質と分類される根拠として紹介されています。著者らは、個々の栄養素や食品ではなく食事パターン全体を評価する方が、許可・禁止食品の硬直的な一覧よりも臨床的に有用な枠組みになりうると述べています。

この総説が示す意味

著者らの整理が伝えるのは、機能性ディスペプシアにおいて食事は単なる引き金の一覧ではなく、消化管の運動と感覚、粘膜の免疫、腸内の細菌、そして脳と腸の連絡が絡み合った仕組みに、生理的な経路と認知的な経路の両方から作用するものだということです。だからこそ、期待によって症状の感じ方が変わることも、食事による症状の訴えを読み解くうえで無視できません。

同時にこの総説は、何が分かっていて何が分かっていないかの線引きを明確にしています。食べ方を整えることのようにリスクが低く仕組みと整合する助言と、確立した治療としての裏づけがまだない除去食とは、別に扱う必要があります。FD自体が食事の制限を招きうることを踏まえれば、食事への介入は栄養の充足を保ちながら個別に検討されるべきだという著者らの姿勢が、この総説の中心にあります。

著者:Luisa Bertin(Department of Surgery, Oncology and Gastroenterology (DiSCOG), University of Padua, Via Giustiniani 2, 35128 Padua, Italy)、Cedric Van de Bruaene(Translational Research Center for Gastrointestinal Disorders (TARGID), Department of Chronic Diseases and Metabolism (CHROMETA), KU Leuven, Herestraat 49, 3000 Leuven, Belgium)、Elena Formisano(IRCCS Azienda Ospedaliera Metropolitana (AOM), Ospedale Policlinico San Martino, Largo Rosanna Benzi 10, 16132 Genoa, Italy)、Marcella Pesce(Department of Clinical Medicine and Surgery, University of Naples Federico II, Via S. Pansini 5, 80131 Naples, Italy)、Stefania Piccirelli(Digestive Endoscopy and Gastroenterology, Fondazione Poliambulanza Istituto Ospedaliero, Via Bissolati 57, 25124 Brescia, Italy)、Daniele Salvi(Digestive Endoscopy and Gastroenterology, Fondazione Poliambulanza Istituto Ospedaliero, Via Bissolati 57, 25124 Brescia, Italy)、Karen Routhiaux(Translational Research Center for Gastrointestinal Disorders (TARGID), Department of Chronic Diseases and Metabolism (CHROMETA), KU Leuven, Herestraat 49, 3000 Leuven, Belgium)、Andrea Pasta(Gastroenterology Unit, Department of Internal Medicine, University of Genoa, Viale Benedetto XV 6, 16132 Genoa, Italy)、Francesco Calabrese(Gastroenterology Unit, Department of Internal Medicine, University of Genoa, Viale Benedetto XV 6, 16132 Genoa, Italy)、Federico Caldart(Gastroenterology Unit, Department of Medicine, Pancreas Institute, University of Verona, Piazzale L.A. Scuro 10, 37134 Verona, Italy)、Salvatore Crucillà(Gastroenterology Unit, Department of Medicine, Pancreas Institute, University of Verona, Piazzale L.A. Scuro 10, 37134 Verona, Italy)、Giovanni Sarnelli(Department of Clinical Medicine and Surgery, University of Naples Federico II, Via S. Pansini 5, 80131 Naples, Italy)、Elisa Marabotto(Gastroenterology Unit, Department of Internal Medicine, University of Genoa, Viale Benedetto XV 6, 16132 Genoa, Italy)、Javier Chahuán(Departamento de Gastroenterología, Facultad de Medicina, Pontificia Universidad Católica de Chile, Santiago 8330077, Chile)、Tom V. Gils(Department of Molecular and Clinical Medicine, Institute of Medicine, Sahlgrenska Academy, University of Gothenburg, 40530 Gothenburg, Sweden)、Edoardo Vincenzo Savarino(Department of Surgery, Oncology and Gastroenterology (DiSCOG), University of Padua, Via Giustiniani 2, 35128 Padua, Italy)

※本記事は原著論文をもとに、日本語で要約・説明を加えた研究紹介です。 出典(原著論文):Luisa Bertin, Cedric Van de Bruaene, Elena Formisano, et al. The Role of Diet in Functional Dyspepsia. Nutrients 2026-09-19. DOI: 10.3390/nu18183064. 原著ライセンス:CC BY.