この研究は、中国の研究機関の研究論文です。

掲載誌:Frontiers in Nutrition

ライセンス: CC BY 対象: 公開論文 確認元: OpenAlex

肺の健康というと喫煙や大気汚染がまず思い浮かびますが、近年は食事や代謝の状態との関係にも関心が集まっています。今回紹介するのは、閉経後の女性を対象に、食事の質とインスリン抵抗性(体がインスリンの働きに反応しにくくなっている状態)が、ある特徴的な肺機能パターンと関連しているかを調べた研究です。

注目されたのは「PRISm(正常比率障害型スパイロメトリー)」と呼ばれる状態です。これは、肺活量の検査で1秒間に吐き出せる息の量(FEV1)が予測値の80%未満でありながら、FEV1とFVC(努力性肺活量)の比率は0.70以上に保たれているという、やや専門的なパターンを指します。閉塞性の病気とは異なる特徴を持ち、代謝の状態とも関係しうる肺機能の型として近年注目されているそうです。研究チームは、食事の質を測るいくつかの指標が、このPRISmとどう関連するのか、そしてインスリン抵抗性がその関係にどう関わっているのかを探ろうとしました。

研究でわかったこと

この研究は、2024年6月から2025年12月にかけて、中国・泰安の1つの病院で健康診断を受けた閉経後女性678人を対象にした横断研究です。横断研究とは、ある時点での状態を一度に調べる方法で、原因と結果の順序までは確定できない点に注意が必要です。

食事の質は、健康的な食事の指標である「HEI(Healthy Eating Index)」、食事が体内の炎症とどの程度関連するかを示す「DII(Dietary Inflammatory Index)」、食事由来の抗酸化力を示す「CDAI(Composite Dietary Antioxidant Index)」、腸内細菌叢との関連を意識した「DI-GM(Diet Index for Gut Microbiota)」という4つの指標で評価されました。インスリン抵抗性については、「HOMA-IR」と「METS-IR」という2つの指標が使われています。

解析の結果、678人のうち67人(9.88%)がPRISmに該当しました。そして、HEI・DI-GM・CDAIの値が高い(=食事の質が良いとされる)人ほどPRISmのオッズ(起こりやすさ)が低く、逆にDII(炎症性が高いとされる食事パターン)の値が高い人ほどオッズが高いという関連がみられたと報告されています。またHOMA-IRの値も、連続的な数値としても、カテゴリー分けした場合でも、PRISmと関連していたとのことです。

さらに研究チームは、インスリン抵抗性が食事とPRISmの関連の一部を「媒介」している可能性、つまり食事の質の影響の一部がインスリン抵抗性を経由して肺機能パターンに及んでいる可能性を探索的に調べました。その結果、HOMA-IRが食事とPRISmの関連の7.92〜10.69%程度を統計的に説明しうることが示されましたが、この媒介分析の結果は多重比較を考慮した補正(偽発見率補正)を行うと統計的な有意性を維持できず、あくまで仮説を提示する段階の結果と位置づけられています。

なお、食事とPRISmの関連自体は、複数の調整モデルや、喫煙歴のない人だけに限定した解析、HOMA-IRを追加で調整したモデルなど、さまざまな角度からの検証でも比較的一貫してみられたとされています。HEI・DII・DI-GMについては、指標を四分位(4つのグループ)に分けた解析でも段階的な関連が支持された一方、CDAIについてはカテゴリー間の傾向がやや不明瞭だったと報告されています。

この研究の位置づけ・読むうえでの注意

この研究は中国の1つの病院に通院した閉経後女性678人を対象にした横断研究であり、得られた関連は特定の時点での統計的な関係を示すものです。食事の質が肺機能パターンの原因になっている、あるいは食事を改善すればPRISmを予防・改善できるといったことを直接証明するものではありません。インスリン抵抗性が関連を媒介するという分析結果についても、論文中で明確に「探索的」であり、多重比較補正後には有意性が失われたと述べられている点は重要です。著者らも、今後は複数施設でのより長期にわたる追跡調査による検証が必要だとしています。

また対象は中国の一施設に通う閉経後女性に限られているため、異なる背景を持つ集団にそのまま当てはまるかどうかも今後の検討課題といえるでしょう。

まとめ

今回紹介した研究では、閉経後女性において、健康的とされる食事パターンがPRISmという肺機能パターンのオッズの低さと関連し、炎症性が高いとされる食事パターンはオッズの高さと関連していたことが報告されました。インスリン抵抗性がこの関連の一部を担っている可能性も示唆されていますが、統計的な補正後にはその媒介効果は有意ではなくなっており、あくまで仮説を提示する段階の知見です。一つの横断研究の結果であり、結論が確定したわけではない点を踏まえたうえで、今後の追跡研究の動向に注目したいテーマといえます。

※本記事は下記の原著論文を紹介するものです。出典(原著論文):閉経後女性における食事の質、インスリン抵抗性、および正常比率障害型スパイロメトリー:探索的媒介分析を伴う横断研究(フロンティアーズ・イン・ニュートリション・2026年07月)

著者:Ziqian Song(Department of Epidemiology and Health Statistics, School of Public Health, Cheeloo College of Medicine, Shandong University, Jinan, Shandong, China)、Yuan Liu(Shandong Cancer Hospital and Institute, Shandong First Medical University and Shandong Academy of Medical Sciences, Jinan, China)