地中海式食事パターンといえば、野菜や果物、魚、オリーブオイルを多く取り入れ、赤身肉や加工食品を控える食事スタイルとして知られ、これまで欧米の研究では抑うつ症状や不安症状、不眠との関連が報告されてきました。しかし、こうした関連が中国系の人々でも同様に見られるのか、また心理的ストレスや生活の質(クオリティ・オブ・ライフ)、日常生活での機能的な支障との関係はどうなのかは、十分に調べられていませんでした。今回、香港の成人を対象に、この食事パターンへの遵守度とメンタルヘルスに関わる複数の指標との関連を調べた横断研究が報告されました。

どのように調べたのか

研究チームは、香港の成人1,355人を対象に横断調査を実施しました。地中海式食事パターンへの遵守度を評価したうえで、抑うつ症状、不安症状、不眠症状、主観的なストレスの強さ、健康関連の生活の質、そして日常生活における機能的な支障の程度との関連を分析しています。分析では、遵守度が「低い」群と「中程度から高い」群を比較し、階層的線形回帰という手法を用いて、社会人口学的な要因や生活習慣に関わる要因の影響を統計的に調整したうえで関連を検討しました。さらに、地中海式食事を構成する個々の食品(野菜、甘味飲料、市販の菓子やパン、バター・マーガリン・クリームなど)についても、探索的な位置づけで関連が調べられています。

何がわかったのか

低遵守群と比べて中程度から高い遵守群では、抑うつ症状、不安症状、不眠症状、主観的ストレスがいずれも低く、健康関連の生活の質はより良好であるという関連が示されました。一方で、日常生活の機能的な支障については、遵守度による明確な差は見られませんでした。個々の食品に着目した探索的な分析では、野菜の摂取量が多いことが不安症状や不眠症状の低さ、生活の質の良好さと関連していた一方、甘味飲料の摂取が少ないことは不眠症状の低さと、市販の菓子やパン類の摂取が少ないことは主観的ストレスの低さと、バター・マーガリン・クリーム類の摂取が少ないことは機能的支障の少なさと、それぞれ関連していました。なお、抑うつ症状については、個々の食品との間に統計的に意味のある関連は見られなかったとされています。

この研究の位置づけと読むうえでの注意

この研究は特定の時点で食事パターンとメンタルヘルスの状態を同時に調べた横断研究であり、どちらが原因でどちらが結果かを明らかにするものではありません。研究チーム自身も、対象者が無作為抽出ではない非確率標本であることや横断デザインであることから、結果の一般化や因果関係の推定には限界があると述べています。今回の対象は香港の成人であり、著者らの所属機関には香港の大学(香港中文大学、香港理工大学)に加え、オーストラリアの大学の研究者も含まれています。あくまで一つの研究であり、この食事パターンが特定の症状を予防したり改善したりすると結論づけるものではない点に注意が必要です。

まとめ

今回の研究では、地中海式食事パターンへの遵守度が高い香港の成人ほど、抑うつ・不安・不眠の症状や主観的ストレスが低く、生活の質が良好であるという関連が報告されました。個々の食品では特に野菜の摂取量との関連が複数の指標で見られています。ただし横断研究という性質上、因果関係は明らかになっておらず、著者らはこうした知見が文化的背景を踏まえた食事介入研究の材料になりうるとしています。

※本記事は原著論文の翻訳ではなく、研究内容を独自に解説したものです。参考文献:Fiona Yan-Yee Ho, Vincent Wing-Hei Wong, Bryant P. H. Hui, et al. Adherence to the Mediterranean dietary pattern and mental health outcomes in Hong Kong adults: a cross-sectional study. BMCパブリックヘルス (2026). DOI: 10.1186/s12889-026-29206-y. 原著ライセンス: cc-by.