この研究は、中国の研究機関の研究論文です。
掲載誌:Foods
ライセンス: CC BY 対象: 公開論文 確認元: OpenAlex
研究の目的
牛乳由来の乳清タンパク質分離物(WPI)と、大豆由来の大豆タンパク質分離物(SPI)を組み合わせた「デュアルプロテイン(二種タンパク質)」の食品素材は、互いの栄養面の長所を補い合える点が利点とされています。一方で、どちらの原料にも主要なアレルゲン(アレルギー反応の原因となるタンパク質)が含まれており、それが利用上の制約になっていると研究チームは述べています。
そこで著者らは、発酵に用いられる乳酸菌(LAB)の働きに着目しました。乳酸菌による発酵はタンパク質を分解する作用をもつため、この制約を和らげる有望な方法になりうると位置づけ、実際にアレルギー性を低減できる菌株を選び出し、その性質をゲノムのレベルで調べることを目的としています。
何を調べ、何が報告されたか
研究チームはまず13株の乳酸菌を対象に、性質(表現型)にもとづくスクリーニングを行い、Lacticaseibacillus paracasei JM053という菌株を選び出しました。この菌株を用いた発酵により、二種タンパク質系の試験管内(in vitro)でのアレルギー性が有意に低下し、IgE結合阻害率は48.75%に達したと報告されています。IgEはアレルギー反応に関わる抗体で、アレルゲンへの結合が妨げられる割合が高いほど、アレルギー性が抑えられていることを示す指標として使われます。
次に著者らは、JM053の全ゲノム配列を解読し、その特徴を調べました。その結果、この菌株がタンパク質分解にかかわる一連の仕組み(プロテアーゼ系)を幅広く備えていることが示され、その中にはプロリンという特定のアミノ酸に作用するペプチダーゼの遺伝子pepXとpepQが含まれていました。研究チームは、これらがアレルゲンとなるペプチド配列の分解に寄与している可能性があると述べています。
さらに、コンピューター上での情報解析(in silico解析)を組み合わせ、見つかったプロテアーゼが基質をどこで切るかという特性にもとづいて、二種タンパク質系の直鎖状エピトープ(抗体が認識するアレルゲン上の部位)の中にある切断されうる箇所を予測しました。著者らはこれを、菌株の作用メカニズムについて今後検証可能な仮説を提示したものと位置づけており、確定した機構としてではなく予測として報告しています。あわせて、試験管内での安全性評価とゲノム解析により、JM053の安全性の可能性、ストレス耐性、プロバイオティクスとしての特徴が裏づけられたとしています。
この報告が示す意味
この研究は、アレルギー性を抑えた二種タンパク質製品の開発に向けて有力な候補となる菌株を示すとともに、乳酸菌によるアレルギー性低減について予備的なゲノムレベルの手がかりを与えるものだと研究チームはまとめています。報告された結果は試験管内の実験と配列解析にもとづくものであり、作用の仕組みについては検証を要する仮説として提示されている点が、この報告の位置づけを理解するうえで重要です。
著者:Yunlei Chai(Key Laboratory of Dairy Science, Ministry of Education, College of Food Science, Northeast Agricultural University, Harbin 150030, China)、Qinggang Xie(Heilongjiang Feihe Dairy Co., Ltd., Qiqihar 164800, China)、Qingfeng Zhang(Key Laboratory of Dairy Science, Ministry of Education, College of Food Science, Northeast Agricultural University, Harbin 150030, China)、Guisong Bai(Key Laboratory of Dairy Science, Ministry of Education, College of Food Science, Northeast Agricultural University, Harbin 150030, China)、Yujun Jiang(Key Laboratory of Dairy Science, Ministry of Education, College of Food Science, Northeast Agricultural University, Harbin 150030, China)、Ling Guo(Key Laboratory of Dairy Science, Ministry of Education, College of Food Science, Northeast Agricultural University, Harbin 150030, China)、Yu Zhang(Key Laboratory of Dairy Science, Ministry of Education, College of Food Science, Northeast Agricultural University, Harbin 150030, China)、Jianguo Sun(Heilongjiang Feihe Dairy Co., Ltd., Qiqihar 164800, China)、Junqing Zhang(Heilongjiang Feihe Dairy Co., Ltd., Qiqihar 164800, China)
※本記事は原著論文をもとに、日本語で要約・説明を加えた研究紹介です。 出典(原著論文):Yunlei Chai, Qinggang Xie, Qingfeng Zhang, et al. Screening of Fermentative Strains for Reducing the Allergenicity of a Whey Protein–Soy Protein System and Genomic Characterization of the Selected Strain. Foods 2026-08-22. DOI: 10.3390/foods15172947. 原著ライセンス:CC BY.