この研究は、エジプトの研究機関の研究論文です。
掲載誌:Egyptian Liver Journal
ライセンス: CC BY 対象: 公開論文 確認元: OpenAlex
肝硬変というと、進行して黄疸や腹水が出るような重い状態を思い浮かべる方が多いかもしれません。しかし、比較的病状が安定しているとされる早期段階(Child-Pugh分類A)の患者でも、栄養状態の問題が見過ごされている可能性があります。今回紹介するのは、エジプト・カイロのアハメド・マーヘル教育病院の外来肝臓内科クリニックに通う高齢患者を対象に、低栄養(栄養不足)がどの程度みられるかを調べた横断研究です。
研究チームは、栄養・食品科学を専門とするメノウフィーヤ大学の研究者と、同病院および国立栄養研究所(いずれもエジプト保健人口省所属)の研究者から構成されています。
どのように調べたか
対象となったのは、2024年7月から2025年6月にかけて同クリニックを受診した60〜75歳の患者のうち、Child-Pugh分類Aの肝硬変と1年以上前に診断され、書面での同意が得られた人たちです。人工透析を要する末期腎不全や重い心血管疾患がある人、肝移植を受けた人、肝細胞がんの既往がある人などは除外されました。当初168人がスクリーニングを受けましたが、年齢条件から外れた1人、死亡した3人、参加を辞退した7人、身体計測データが不完全だった12人、診断からの期間が短かった13人が除外され、最終的に132人(男性93人、女性39人、年齢60〜72歳)が解析対象となりました。なお、対象者全員が慢性C型肝炎ウイルス(HCV)感染を原因とする肝硬変でした。
栄養状態の評価には「簡易栄養状態評価表(MNA)」という、高齢者向けに国際的に使われているツールが用いられました。これは食事摂取量、体重減少、歩行能力、心理的ストレス、神経心理的な問題、BMI(体格指数)などをスコア化するもので、24〜30点は「栄養状態良好」、17〜23.5点は「低栄養のおそれあり」、17点未満は「低栄養」と判定されます。あわせて、体重・身長・BMI・ウエスト周囲径・上腕周囲径・上腕三頭筋皮下脂肪厚・上腕筋囲・ふくらはぎ周囲径といった身体計測や、3日分の24時間思い出し法(連続しない日を選定)、食物摂取頻度調査によって食事内容も調べられました。
研究でわかったこと
MNAによる評価の結果、56.8%が「栄養状態良好」、38.6%が「低栄養のおそれあり」、4.6%が「低栄養」と分類されました。平均BMIは28.4±3.5 kg/m²で、やせている人はほとんどおらず、むしろ過体重・肥満の割合が高いことが示されました。一方で、乳製品・卵や豆類・肉魚鶏肉といったたんぱく質源の摂取が乏しい人が40.9%にのぼりました。
性別による差も明らかになりました。MNAの合計スコアは男性が平均25.01±2.13点だったのに対し、女性は20.27±3.30点と有意に低い値でした(p<0.01)。身体計測でも、女性は男性よりBMIやウエスト周囲径が高い一方、上腕三頭筋皮下脂肪厚は男性の方が高く、上腕筋囲は女性の方が大きいという、通常の性差パターンとは逆転した結果がみられたと報告されています。研究チームは、これは慢性HCV関連肝硬変に特有の代謝・体組成の変化を反映している可能性があると述べています。また、女性は男性より平均年齢が高く(67±3.3歳 対 65.1±2.3歳)、心理的ストレスや神経心理的な問題を抱える割合も高い傾向がみられました。
栄養状態に影響していたと考えられる具体的な項目としては、推奨とされる1日5杯以上の水分摂取ができていない人が97.7%、たんぱく質摂取の指標が不十分な人が78.4%、1日3食を摂れていない人が50%、野菜・果物を1日2皿分未満しか摂れていない人が47.7%などが挙げられています。自分の栄養状態について「わからない」「問題があると思う」と答えた人も63.7%にのぼりました。
この研究の位置づけと注意点
著者らは、この結果をエジプトの他の研究と比較しています。国立肝臓研究所で行われた別の研究では、修正BMIを使った場合は10.7%、体組成計(生体電気インピーダンス法)による位相角を使った場合は64.6%というように、評価方法によって低栄養の割合が大きく異なったことが報告されているとのことです。また、末期肝疾患患者を対象とした別の研究では、BMIでは7%、主観的包括的評価(SGA)では100%という開きがあったとも紹介されています。このように、どの指標を使うかによって「低栄養」と判定される割合は大きく変わり得る点には注意が必要です。
著者ら自身が挙げている限界もあります。MNAは自己申告による体重変化や食欲の評価に頼る部分があるため、記憶違いや申告のばらつきが結果に影響する可能性があります。また肝硬変では体液貯留(むくみや腹水)によって体重やBMIが実際の栄養状態を覆い隠してしまう可能性も指摘されています。さらに、この研究の対象者は全員がC型肝炎ウイルスによる肝硬変患者であり、代謝機能障害関連脂肪性肝疾患(MASLD)やアルコール性肝疾患など、他の原因による肝硬変患者にはそのまま当てはまらない可能性があるとされています。
まとめ
この研究では、病状が比較的安定した早期の肝硬変患者であっても、4割近くが低栄養のおそれがあると判定され、特に高齢の女性でその傾向が強いことが示唆されました。過体重・肥満の人が多い一方でたんぱく質摂取が乏しい人も一定数いるなど、体重だけでは見えにくい栄養面の課題があることがうかがえます。著者らは、早期段階の肝硬変であっても、性差や心理面・認知面の状態も考慮した定期的な栄養スクリーニングが重要だとしています。ただし、これは一つの医療機関で行われた横断研究であり、対象もC型肝炎由来の肝硬変患者に限られるため、結論として確定したものではない点に留意が必要です。
※本記事は下記の原著論文を紹介するものです。出典(原著論文):非入院高齢肝硬変患者(Child-Pugh A)における低栄養有病率:横断研究(エジプシャン・リバー・ジャーナル・2026年08月)
著者:Mohamed Saleh Ismail(Department of Nutrition and Food Sciences, Faculty of Home Economics, Menoufia University, Shebin El-Kom, Egypt)、Hala Mahfouz Khalil(Ahmed Maher Teaching Hospital, Ministry of Health and Population, Cairo, Egypt)、Asmaa Mohamed El Gamal(Ahmed Maher Teaching Hospital, Ministry of Health and Population, Cairo, Egypt)、Taghreed Kamal Elhady(Department of Clinical Nutrition, National Nutrition Institute, Ministry of Health and Population, Cairo, Egypt)