この研究は、ブラジルの研究機関の研究論文です。
掲載誌:Frontiers in Food Science and Technology
ライセンス: CC BY 対象: 公開論文 確認元: OpenAlex
研究の目的
ブラジルでは近年、伝統的な南部の産地に加え、内陸の高原地帯セラードが新たなブドウ栽培地として広がっています。この地域は日射が強く標高が高く、乾季と雨季がはっきりしています。また、ブドウの枝を年に2回剪定して収穫時期を秋から冬にする「二回剪定」という栽培方法が用いられています。しかし、この地域で造られる白ワイン用品種ソーヴィニヨン・ブランの化学的な特徴は、まだ十分に調べられていませんでした。
そこで研究チームは、セラード地方の同じブドウから、酵母の使い方だけを変えて2種類のワインを造り、その化学的な特徴を探索的に調べました。一方(T1)は、ワインづくりで一般的な酵母サッカロミセス・セレビシエだけで発酵させました。もう一方(T2)は、この酵母に別の酵母ハンセニアスポラ・ヴィネアエを加えて発酵させました。ハンセニアスポラ・ヴィネアエは、香り成分の一種である酢酸エステル、とくに酢酸2-フェニルエチルの生成と関連づけられてきた酵母です。
何をどのように調べたか
研究チームは、2024年7月に収穫した同じ収穫ロットのブドウを使い、それぞれの条件で1回ずつ発酵を行いました。報告された3回ずつの測定値は、同じワインを繰り返し測ったものです。そのため、発酵ごとのばらつきは評価できていません。この点を踏まえ、著者らは統計的な有意差の検定を行わず、結果を記述的に示しています。また、発酵中に加えた酵母がどの程度生き残って働いたかは追跡していません。
分析した項目は大きく三つです。一つ目は、酸味や糖分、アルコールなどの基本的な成分です。二つ目は、抗酸化性に関係する指標です。具体的には、フェノール類などの還元性物質に反応する試験、フラボノイドの量、2種類の人工的なラジカル(不安定な分子)をどれだけ消すかを調べる試験、そして電気化学的な測定です。三つ目は香り成分で、ガスクロマトグラフィー質量分析(成分を分離し、その質量の情報から物質を推定する方法)を使いました。香り成分は、そのまま揮発する「遊離型」と、糖と結びついて香りを出さない状態にある「結合型」に分けて調べています。結合型は酵素で糖を切り離してから分析しました。
主な結果
基本成分では、2種のワインに違いが見られました。T2はT1に比べてpHが高く(3.46対3.12)、総酸度が低くなっていました(1リットルあたり6.00グラム対10.90グラム)。さらに、T2ではリンゴ酸が少なく乳酸が多くなっていました。著者らはこの結果を、リンゴ酸が乳酸に変わる「マロラクティック発酵」が、分析時点でT2のほうで自然に進んでいたことを示すものと解釈しています。つまり、2種のワインは発酵後の変化の段階がそろっていない状態で分析されています。
抗酸化に関係する指標では、測定方法によって傾向が異なりました。還元性物質に反応する試験では、T1のほうが高い値を示しました。一方、2種類のラジカル消去試験では、T2のほうが少ない量のワインでラジカルの半分を消すことができました。電気化学的な指標も、T2のほうがわずかに高い値でした。ただし著者らは、これらの差は発酵の繰り返しがないため、酵母の使い方による再現性のある効果とは解釈できないとしています。また、最初の試験はフェノール類だけに反応するわけではありません。さらに、ワイン中の二酸化硫黄の量を測っていないため、この差をフェノール類の違いだけで説明することはできないとも述べています。
香り成分では、2種のワインを合わせて57種類の遊離型の成分が推定され、その中心はエステル類とアルコール類でした。酢酸2-フェニルエチルは、T2で1リットルあたり28.57マイクログラムと推定され、T1の1.53マイクログラムを大きく上回りました。なお、これらの値は内部標準物質と比べて求めた半定量的な推定値で、絶対的な濃度ではありません。結合型からは19種類の成分が推定され、その中にはテルペン類、ノルイソプレノイド類、ベンゼン環を持つ化合物に関連するものが含まれていました。いずれの成分も標準物質で確認していないため、同定は「推定」と位置づけられています。
研究が示すこと
この研究は、まだ十分に特徴づけられていないセラード地方産ソーヴィニヨン・ブランについて、酵母の使い方が異なる2種のワインの化学的な特徴を記述したものです。各条件の発酵は1回ずつで、発酵後の変化の段階もそろっていません。そのため著者らはこの成果を、確かな結論ではなく、仮説を生み出すための初期的な化学的特徴づけと位置づけています。
著者:Luis Felipe Lima Guimarães(Institute of Chemistry, Federal University of Goiás)、Paolla Xavier de Amorim(Institute of Chemistry, Federal University of Goiás)、Izadora Viana Maia(Institute of Chemistry, Federal University of Goiás)、Inti Doraci Cavalcante Montano(Institute of Chemistry, Federal University of Goiás)、Ana Carolina Souza Parreira(Institute of Chemistry, Federal University of Goiás)、Narjara de Medeiros Ribeiro(Federal University of Mato Grosso)、Jerônimo Raimundo de Oliveira Neto(Faculty of Pharmacy, Federal University of Goiás)、Luiz Carlos da Cunha(Faculty of Pharmacy, Federal University of Goiás)、Júlio César Silva(Faculty of Pharmacy, Federal University of Goiás)、Eric de Souza Gil(Faculty of Pharmacy, Federal University of Goiás)、Lucília Kato(Institute of Chemistry, Federal University of Goiás)、Eduardo Santiago Dellacasa Beltrame(Faculty of Chemistry, University of the Republic)、Esther Pedroso Theisen(Federal University of Pampa)、Vanessa Gisele Pasqualotto Severino(Institute of Chemistry, Federal University of Goiás)
※本記事は原著論文をもとに、日本語で要約・説明を加えた研究紹介です。 出典(原著論文):Luis Felipe Lima Guimarães, Paolla Xavier de Amorim, Izadora Viana Maia, et al. Volatile profile and antioxidant-related measurements of two Sauvignon Blanc vinifications from the Brazilian Cerrado: an exploratory chemical characterization. Frontiers in Food Science and Technology 2026-10-07. DOI: 10.3389/frfst.2026.1914854. 原著ライセンス:CC BY.