赤ワインについては、適度な飲用が心血管疾患のリスクと逆相関するという疫学研究が知られており、これは主に赤ワインに豊富なフェノール化合物によるものとされてきました。一方、白ワインの生理活性についてはこれまであまり注目されてこなかったといいます。今回紹介する研究は、イスラエルとチリで作られた白ワインに含まれるポリフェノール(フェノール化合物)が、血液中を流れるタンパク質とどのように結びつくのかを、試験管内(in vitro)の実験と計算機シミュレーションの両面から調べたものです。
研究チームには、イスラエル・ヘブライ大学薬学部のDinorah Baraschさんらのほか、シンガポール国立大学、タイ・カセサート大学、メキシコの国立工科大学、チリのビオビオ大学、ポーランドのヤギェウォ大学の研究者が加わっています。今回提供された情報の範囲では、日本の研究機関や日本の食品・食習慣への直接的な言及は見当たりませんでした。
どんなワインを、どう調べたのか
対象となったのは、イスラエル産のシャルドネ(ICR、アルコール度数14.0%)とソーヴィニヨン・ブラン(ISB、12.5%)、チリ産のシャルドネ(CCR、13.8%)とソーヴィニヨン・ブラン(CSB、13.0%)の4種類で、いずれも2023年ヴィンテージの市販ワインです。各銘柄につき異なる販売店から5本ずつ購入し、ボトルごとに独立したサンプルとして分析しています。著者らは、この設計はあくまで統制された比較のためのケーススタディであり、各国のワイン全体を代表するものではないと断っています。
まず高速液体クロマトグラフィー(HPLC)で、没食子酸、カフェイン酸、カフタル酸、タンニン酸、カテキン、エピカテキンなど個々のフェノール化合物の濃度を測定しました。あわせて、フーリエ変換赤外分光法(FTIR)でワイン抽出物の分子構造の特徴(水酸基やカルボニル基などの吸収パターン)を確認し、DPPH法とCUPRAC法という2種類の手法で抗酸化力を評価しています。
タンパク質との結合については、人の血清アルブミン(HALB)、ガンマグロブリン(HGLO)、フィブリノーゲン(HFB)という3種の主要な血清タンパク質を用意し、ワイン由来のポリフェノールを加えたときに、これらタンパク質に内在するトリプトファンやチロシンという蛍光を発するアミノ酸残基の発光がどれだけ弱まるか(蛍光クエンチング)を、二次元・三次元の蛍光分光法で測定しました。さらに、AutoDock Vinaという計算ソフトを使い、代表的なワインのフェノール化合物がアルブミンの立体構造のどこに、どのように結合しうるかをシミュレーションする分子ドッキング解析も行っています。ドッキングでは、アルブミンの結晶構造データ(PDB ID: 1H9Z)を用い、薬物結合部位として知られる「サドロウ部位I」という領域を中心に解析しました。
わかったこと——シャルドネは結合力、ソーヴィニヨン・ブランは効率
HPLC分析の結果、イスラエル産シャルドネ(ICR)は没食子酸(7.21 mg/L)とカテキン(19.80 mg/L)が他のワインより多く含まれていました。一方、チリ産シャルドネ(CCR)はカフタル酸の濃度が42.82 mg/Lと最も高く、産地や品種によってフェノール化合物の組成パターンが異なることが示されています。総フェノール含量やタンニン含量、抗酸化力(DPPH・CUPRAC)はいずれもICRが最も高い値を示しました(総フェノール含量440.5 mg GAE/L、タンニン360.7 mg/L、DPPH 1.66 mmol TE/L、CUPRAC 2.91 mmol TE/L)。
タンパク質との結合実験では、4種のワインすべてで、エタノール単体を加えた対照群よりも明確に強いタンパク質結合反応が確認されました。総結合能はICR(46.4%)が最も高く、次いでCCR(35.7%)、ISB(34.8%)、CSB(24.9%)、そしてエタノール対照は8.5%にとどまりました。この結果は、観察された生理活性が主にエタノールではなくポリフェノールの働きによるものであることを示唆しています。3種のタンパク質のうち、いずれのワインもアルブミン(HALB)への結合が最も強く、次いでグロブリン、フィブリノーゲンの順でした。ICRのアルブミンへの結合定数(Kb)は8.44×10⁴ M⁻¹、結合のギブス自由エネルギー変化(ΔG)は−35.03 kJ/molで、この負の値は結合が自発的に起こりやすい状態であることを意味します。
興味深いのは、シャルドネとソーヴィニヨン・ブランで異なる「得意分野」が見えたことです。シャルドネはタンパク質との結合力が相対的に強く、特にカテキンやエピカテキンといったフラバン-3-オール類が多いことがその一因とみられています。実際、純粋なカテキン(Kb=8.12×10⁴ M⁻¹)やエピカテキン(8.91×10⁴ M⁻¹)の結合定数は、シャルドネワインの値と統計的に近いグループに分類されました。一方でソーヴィニヨン・ブランは、フェノール含量に対する抗酸化効率という点で相対的に高い値を示しました。著者らは、結合力と抗酸化効率の関係を比べる指標も算出し、同程度の抗酸化効率であってもシャルドネの方がタンパク質への「積み込み効率」がおよそ28%高かったと報告しています。
この研究の読み方——結合が確認されても、体内での働きが証明されたわけではない
著者ら自身がいくつかの重要な限界を挙げています。まず、この実験は単離したタンパク質とワイン抽出物を用いた試験管内モデルであり、消化管での分解・吸収、肝臓などでの代謝、血中での他の物質との競合、実際に体内で到達しうるポリフェノール濃度の低さなどは再現されていません。そのため、今回得られた「タンパク質と結合する」という結果は、体内での吸収性の向上、循環時間の延長、薬物との臨床的に意味のある相互作用、あるいはヒトでの抗酸化作用の保護効果を直接証明するものではないと述べられています。
また、蛍光クエンチングの実験だけでは、結合が起きている正確な部位や、静的・動的な結合様式の違いを完全に区別することはできないとも指摘されています。加えて、今回の比較対象は各国1社の生産者・1つのヴィンテージに限られているため、観察されたイスラエル産とチリ産の違いは、必ずしも「国」による違いではなく、生産者ごとの栽培・醸造条件の違いを反映している可能性がある点にも注意が必要です。ワイン由来のポリフェノールがアルブミンの薬物結合部位と重なる領域に結合しうるという結果についても、著者らは実際の医薬品との競合実験は行っておらず、あくまで今後の検証が必要な仮説であるとしています。
これらを踏まえると、本研究は白ワインのポリフェノールと血清タンパク質の物理的な相互作用を、実験室レベルで丁寧に描き出した基礎研究といえます。一つの研究であり、健康効果や体内での機能を確定づけるものではない点に留意して読む必要があります。
※本記事は原著論文の翻訳ではなく、研究内容を独自に解説したものです。参考文献:Dinorah Barasch, Alina Nemirovski, Emmanuelle Merquiol, et al. Molecular Interactions and Antioxidant Properties of White Wine Phytochemicals: A Mechanistic Study of Serum Protein Binding. バイオモレキュールズ (2026). DOI: 10.3390/biom16081153. 原著ライセンス: cc-by.