日本主導:この研究は、筆頭著者・責任著者、または著者の主要所属が日本の研究機関である研究です。

掲載誌:Agriculture

ライセンス: CC BY 対象: 公開論文 確認元: OpenAlex

なぜ泥炭地の農業利用が問われているのか

泥炭地とは、枯れた植物が分解されきらずに厚く積み重なってできた、水を多く含む土地のことです。この論文は、そうした泥炭地を農地として使うために水を抜くこと(排水)が、地盤沈下、温室効果ガスの排出、そして農地の周りに残る湿地の劣化を進めてしまう、という問題を出発点にしています。

著者らは、泥炭地の農業を持続可能なものにするには、作物がよく育つかどうかだけでなく、地球環境への影響も含めて土地を管理する必要がある、と述べています。日本では泥炭地は国土面積のおよそ1%を占め、そのうち約61%が北海道にあると報告されています。この総説は、日本における泥炭地の農地利用の歴史と、地盤沈下・温室効果ガス・周辺湿地の劣化への対応の取り組みを、主に北海道の事例に focus を当ててまとめたものです。

整理された内容と主な報告

この論文は新たな実験ではなく、これまでの知見を整理した総説(レビュー)です。著者らによれば、泥炭地を農地として使えるようにするために行われてきたのは、排水と、鉱質土壌による客土(泥炭の上に別の土をかぶせること)でした。排水によって泥炭が乾き、縮み、締め固まり、さらに分解が進むことが、地盤沈下の原因になると説明されています。

地盤沈下を抑えることと食料生産とを両立させる土地管理の方法として、著者らは水稲の栽培と循環灌漑を挙げています。また、農地からの排水は周りの湿地の植生を劣化させるため、牧草を収穫する農地では、農地と周辺湿地の間に緩衝帯(バッファーゾーン)を設けて劣化を和らげる取り組みが行われていると紹介されています。

温室効果ガスについては、地下水位を下げると二酸化炭素(CO2)と一酸化二窒素(N2O)の排出が増え、逆に地下水位を上げるとメタン(CH4)の排出が増える、という関係が示されています。世界規模のメタアナリシス(多数の研究結果を統合して解析する手法)では、地下水位をマイナス20cmからマイナス40cmの範囲に保つと温室効果ガスの排出量の合計が最も少なくなると報告されている、と著者らは記しています。

残された課題と、この整理が示すもの

同時に著者らは、分かっていないことも明示しています。日本において、鉱質土壌で覆われた状態で農業に使われている泥炭地からの温室効果ガス排出量や、その削減に関するデータは限られている、という点です。

また、北海道では近年、地下水位を制御するシステムの導入が進んできていますが、水田以外のほ場で地下水灌漑によって地盤沈下や泥炭の分解をどれだけ抑えられるのかを検証することは、依然として課題として残されていると述べられています。

泥炭地の農地利用は、水をどこまで抜き、どこで止めるかという一点に、収穫と地盤の維持と大気への影響が同時にぶら下がっている、という構図をこの総説は描き出しています。地下水位という一つのつまみが、沈下にも、CO2にも、メタンにも、隣の湿地にも同時に効いてしまう――だからこそ、その最適な位置を地域の条件のもとで確かめていく作業が要る、というのが、北海道の事例を通して著者らが整理した現在地です。

著者:Arata Nagatake(Rural Resources Conservation Research Team, Civil Engineering Research Institute for Cold Region, Hiragishi 1-3-1-34, Toyohira-ku, Sapporo 062-8602, Japan)、Mariko Shimizu(Rural Resources Conservation Research Team, Civil Engineering Research Institute for Cold Region, Hiragishi 1-3-1-34, Toyohira-ku, Sapporo 062-8602, Japan)、Ryusuke Hatano(Soil Science Laboratory, Research Faculty of Agriculture, Hokkaido University, Kita 9 Nishi 9, Kita-ku, Sapporo 060-8589, Japan)

※本記事は原著論文をもとに、日本語で要約・説明を加えた研究紹介です。 出典(原著論文):Arata Nagatake, Mariko Shimizu, Ryusuke Hatano. Agricultural Use of Cultivated Peatlands in Hokkaido, Northern Japan: Development History, Land Subsidence, Greenhouse Gas Emissions, and Sustainable Management. Agriculture 2026-08-29. DOI: 10.3390/agriculture16171874. 原著ライセンス:CC BY.