肉類の生産が温室効果ガス排出の大きな要因になっていることはよく知られていますが、その中でも豚肉産業について、原料の調達から加工、輸送、そして消費までを一貫して定量化した研究は多くありませんでした。特に、どの国のどんな食習慣がどれだけの排出につながっているのかを国別に詳しく調べた例は限られています。今回紹介する研究は、スペインの豚肉産業を対象に、飼料の生産地から家庭への輸送までを含めた『フィールドから食卓まで』のカーボンフットプリント(炭素排出の総量)を明らかにしたものです。
何を、どのように調べたのか
この研究は、Alimentta(食の転換を研究するシンクタンク)に所属する研究者らが中心となり、スペイン国内で消費される豚肉について、家畜の飼育(畜産活動)、輸入を含む飼料の生産、食肉処理・加工、国内外の輸送、そして各地域への流通までを対象に、排出量を積み上げて算出しました。特徴的なのは、輸入飼料に由来する排出や、飼料・枝肉・製品それぞれの輸送段階を切り分けて評価している点です。また、生鮮肉、脂肪、塩漬け・加熱加工品、内臓、調理済み食品といった豚肉製品ごとにも炭素排出量を算出しています。
研究でわかったこと
算出の結果、スペイン国内での豚肉消費に伴う温室効果ガス排出量は年間15.8テラグラムCO2換算(1テラグラムは100万トン)にのぼると報告されています。この排出は地理的に偏りがあり、スペイン全50県のうちわずか5県で全体の49%を占めるとされています。
排出源の内訳を見ると、飼料の生産に伴う排出が61%と最も大きく、次いで家畜の飼育活動が27%、加工が9%を占めています。注目すべき点として、飼料関連の排出のうち65%は輸入原料に関連しており、その主な輸入元はラテンアメリカとされています。つまり、豚肉産業全体の排出量のおよそ半分は、スペイン国内ではなく海外で発生している計算になるといいます。
輸送に伴う排出は全体の16%を占め、そのうち79%は飼料の輸送によるもので、残りは枝肉や製品の輸送によるものとされています。豚肉製品ごとの炭素排出量は、枝肉換算1キログラムあたり6.0〜8.0キログラムCO2換算の範囲にあり、平均は7キログラムCO2換算と報告されています。
これらの結果を踏まえ、研究者らは排出削減の方向性として、地域の資源に見合った地中海式の食習慣を見直すこと、スペイン国内および世界的な肉の消費量を減らすこと、そして輸入飼料への依存が少ない別の農業生態学的な生産モデルを進めることを挙げています。
この研究を読むうえで気をつけたいこと
この研究はスペイン一国の豚肉産業を対象にした分析であり、示された数値や内訳の割合はスペイン特有の飼料調達構造や畜産の仕組みを反映したものです。日本を含む他国の豚肉産業にそのまま当てはめられる結果ではない点には注意が必要です。また、この研究の要旨には日本の研究機関や日本の食習慣についての言及は含まれていません。一つの国を対象にした一つの研究であり、これによって豚肉のカーボンフットプリントに関する結論が確定したわけではない、という位置づけで読むのが適切です。
まとめ
この研究は、スペインの豚肉が食卓に届くまでの温室効果ガス排出を、飼料・飼育・加工・輸送という段階ごとに定量的に示したものです。特に、排出の多くが輸入飼料や海外での生産に由来しているという点は、一国の畜産業の環境負荷が国境を越えて広がっていることを示す事例として読むことができます。豚肉の環境影響について考える際の一つの手がかりとなる研究といえるでしょう。
※本記事は原著論文の翻訳ではなく、研究内容を独自に解説したものです。参考文献:Pablo Saralegui-Díez, Gloria I. Guzmán, Manuel González de Molina, et al. A field to table carbon footprint profile of the Spanish pork industry and its future outlook. クリーナー・エンバイロメンタル・システムズ (2026). DOI: 10.1016/j.cesys.2026.100481. 原著ライセンス: cc-by-nc-nd.