この研究は、中国の研究機関の研究論文です。

掲載誌:Humanities and Social Sciences Communications

ライセンス: CC BY-NC-ND 対象: 公開論文 確認元: OpenAlex

私たちが日々口にする食事は、健康だけでなく、経済や環境ともつながっています。肉食が増えれば健康リスクが変わるだけでなく、生産や流通にかかるコスト、そして環境への負荷も変化します。こうした『食の持続可能性』を正しく評価する仕組みは、持続可能な開発目標(SDGs)を進めるうえでも重要とされています。今回紹介する研究は、中国の食生活を対象に、健康・経済・環境という三つの側面から持続可能性を評価する枠組みをつくり、1987年から2023年までの37年間にわたるデータを使って分析したものです。

研究の背景と方法

研究チームによると、食生活は植物性中心から動物性中心へと変化してきており、これが健康リスクを高め、環境への負荷を強めているといいます。しかし、これまでの食の持続可能性に関する研究の多くは国レベルの分析にとどまっており、地域や省ごとの、時間の推移も踏まえた研究は少なかったとされています。

そこで研究チームは、健康・経済・環境の指標を組み合わせた三部構成(トリパータイト)の評価枠組みを開発しました。この枠組みを、1987〜2023年の37年間分のデータに適用し、中国全体、9つの農業地域、そして省単位という3つの空間スケールで、食生活の持続可能性がどう変化してきたかを調べています。

研究でわかったこと

まず中国全体で見ると、食生活の総合的な持続可能性は、いったん上昇した後に低下したことが示されました。健康指標と経済指標はいずれも改善が見られた一方で、環境の悪化が続いたことが、持続可能性を制約する主な要因として浮かび上がったといいます。

9つの農業地域すべてで見ると、健康面・経済面の改善に支えられて総合的な持続可能性は上昇していました。ただし、こちらもすべての地域で環境の持続可能性は低下していたとされています。

省単位の分析では、総合的な持続可能性の空間パターンが、『中程度の水準が中心で、一部に高い水準の地域がある』という状態から、『高い水準が中心で、中程度の地域が点在する』という状態へと移り変わったことが示されました。そのなかで、チベットだけが唯一、持続可能性が低下した省だったと報告されています。

次元ごとに見ると、健康の持続可能性は、当初は地域ごとに強い所と弱い所が混在する中程度のパターンでしたが、後には東部で高く西部で低いという東西の勾配(グラデーション)を示すパターンに変わりました。経済の持続可能性はすべての省で改善し、『弱い〜中程度』の水準から『非常に強い』水準へと上昇したとされています。一方、環境の持続可能性は、甘粛省・貴州省・寧夏回族自治区・山西省を除くすべての省で低下傾向にあり、なかでも中国東部で悪化が顕著だったといいます。この結果、環境の持続可能性の空間パターンは、当初は強い地域と弱い地域が混在する中程度の水準を基本としていたのが、後には東部の水準が西部を下回るという構図へと変化しました。

この研究の位置づけと読むうえでの注意

研究チームは、これらの結果について、健康・経済・環境という各次元の間で相乗効果が不均衡になっている『構造的な矛盾』を反映していると論じています。そのうえで、環境と他の次元とのバランスの取れた発展を調整し、食のシステム全体をより多次元的にバランスよく発展させる道筋を描き直すことが必要だとしています。

この研究は中国国内のデータに基づく分析であり、対象地域や指標の設定によって結果の見え方が変わりうる点には留意が必要です。また、研究チームが指摘するように、食の持続可能性に関するこれまでの研究は国レベルの分析が中心で、地域・省単位の時系列研究は限られていたとされており、今回の枠組みは中国という一つの国を対象とした一つの研究として位置づけられるものです。結論が最終的に確定したというより、今後さらに検証や応用が重ねられていく研究の一歩と捉えるのが妥当でしょう。

まとめ

この研究では、健康・経済・環境の三つの指標を組み合わせた枠組みを用いて、中国の食生活の持続可能性を37年間にわたり、全国・地域・省という複数のスケールで分析しました。その結果、健康と経済の面では改善が見られる一方、環境面での悪化が持続可能性の重要な制約要因となっていることが示されています。食を『おいしさ』や『健康』だけでなく、環境や経済とあわせて総合的に捉える視点の重要性を示す研究といえそうです。

※本記事は下記の原著論文を紹介するものです。出典(原著論文):中国の食生活における持続可能な評価システムの緊急な確立の必要性:重要課題への対応(ヒューマニティーズ・アンド・ソーシャル・サイエンシズ・コミュニケーションズ・2026年08月)

著者:Yuanyuan Zhu(Key Laboratory for Geographical Process Analysis and Simulation of Hubei Province, Central China Normal University, Wuhan, China)、Rujing Zhao(Key Laboratory for Geographical Process Analysis and Simulation of Hubei Province, Central China Normal University, Wuhan, China)、Xiaohua Zhu(Institute of Geographic Sciences and Natural Resources Research, Chinese Academy of Sciences, Beijing, China)、Lanfa Liu(Key Laboratory for Geographical Process Analysis and Simulation of Hubei Province, Central China Normal University, Wuhan, China)