この研究は、イラン、セルビアの研究機関の研究論文です。
掲載誌:Scientific Reports
ライセンス: CC BY 対象: 公開論文 確認元: OpenAlex
何を目的とした研究か
食用油は日常的な食事に欠かせない食品ですが、原料となる油糧種子は収穫前後や輸送・保管の過程でカビが生えることがあります。そうしたカビ(アスペルギルス属)がつくる毒素の一つがアフラトキシンB1(AFB1)で、国際がん研究機関(IARC)はこれをグループ1の発がん性物質に分類しています。
著者らは、イランでは食用植物油の消費量が多い一方、国内基準にAFB1の許容限度が定められていない点に着目しました。そこで本研究は、テヘランで流通するオリーブ油・コーン油・ヒマワリ油のAFB1濃度を測定し、そこから推定される食事由来の摂取量と発がんリスクを、国際的に確立された手法で評価することを目的としています。
どのように調べたか
2024年9月から12月にかけて、テヘラン市内5地区の小売店からオリーブ油・コーン油・ヒマワリ油を各30検体ずつ、計90検体が無作為に集められました。各油種とも3つの商業ブランドが含まれ、コーン油とヒマワリ油は精製品、オリーブ油はバージンオイルでした。
AFB1の定量には、蛍光検出器付き高速液体クロマトグラフィー(HPLC-FLD)が用いられました。これは油から目的の物質を取り出して成分ごとに分離し、その光の性質を手がかりに量を測る分析法です。著者らは検量線の直線性や回収率、再現性などの検証も行い、分析が妥当な範囲で機能していることを確認しています。
リスク評価には三つの指標が使われました。一日推定摂取量(EDI)は、油に含まれるAFB1の平均濃度と一日の油摂取量、体重から算出されます。曝露マージン(MOE)は、動物試験に基づく毒性の目安となる用量を推定摂取量で割った比で、欧州食品安全機関(EFSA)の考え方では10,000を下回ると懸念があるとされます。さらに、B型肝炎ウイルス感染の有無で発がん性の強さが異なることを踏まえ、イランの感染率(1.5%)で重み付けした係数を用いて、集団あたりのがん発生数が推計されました。なお一日の油摂取量は、イラン成人の全食用油の合計消費量40.2g/日を、油種ごとの国内消費シェア(オリーブ約1%、コーン約1.2%、ヒマワリ約23.3%)で按分して求められています。
報告された主な結果
著者らの報告によれば、AFB1は90検体すべてから検出されました。濃度の幅は2.22〜50.43µg/kgで、いずれの検体も未精製食用植物油に対する欧州連合(EU)の基準値2µg/kgを上回っていました。
油種別の平均濃度は、コーン油が31.09±9.33µg/kgと最も高く、次いでヒマワリ油が18.93±7.57µg/kg、オリーブ油が11.32±5.78µg/kgと最も低い値でした。この油種間の差は統計的に有意だったと報告されています。
一方、MOEは三つの油すべてで10,000を下回りました。推定されるがん発生数が最も大きかったのはヒマワリ油で、成人で10万人あたり年間1.43×10⁻¹件、子どもで6.69×10⁻¹件と算出されています。著者らは、これはヒマワリ油そのものの毒性が強いからではなく、食事に占める摂取量が他の油より格段に多いためだと明記しています。また、この値は個人の生涯リスクではなく集団レベルの年間発生数を表す指標である点にも注意が促されています。
著者らは研究の限界も挙げています。調査が単一の都市・単一の季節に限られること、年齢別や個人差を考慮しない平均消費量に依拠していること、体重や摂取量を一定と仮定した決定論的な計算であることなどです。そのため結果は、公衆衛生上の脅威が確定したというより、現在の消費パターンのもとで懸念されうるパターンを示すものだと位置づけられています。
この研究が示すこと
この研究は、テヘランで日常的に手に入る食用油の中に、国際的な参照値を超える濃度のAFB1が広く存在していたことを、実測値として示しました。同時に、どの油がリスク推計上の寄与が大きくなるかは、汚染濃度だけでなく、その油がどれだけ食べられているかによって決まることも浮かび上がっています。
著者らは、これらの結果が、油糧種子の流通過程全体を通じた監視の強化と、保管・取り扱いの改善の必要性を裏づけるものだとまとめています。食品の安全を考えるうえで、原料の質、保管環境、そして食習慣という複数の要素をあわせて見ていくことの意味を伝える研究といえます。
著者:Faraz Karimi(Faculty of Veterinary Medicine, Shab.C., Islamic Azad University, Shabestar, Iran)、Mohammadhosein Movassaghghazani(Department of Food Hygiene and Quality Control, Faculty of Veterinary Medicine, Shab.C., Islamic Azad University, Shabestar, Iran)、Milica Zeković(Centre of Research Excellence in Nutrition and Metabolism, Institute for Medical Research, National Institute of Republic of Serbia, University of Belgrade, Belgrade, Serbia)
※本記事は原著論文をもとに、日本語で要約・説明を加えた研究紹介です。 出典(原著論文):Faraz Karimi, Mohammadhosein Movassaghghazani, Milica Zeković. Exposure assessment and cancer risk of aflatoxin B1 in vegetable oils consumed in Tehran, Iran. Scientific Reports 2026-09-15. DOI: 10.1038/s41598-026-70863-1. 原著ライセンス:CC BY.