この研究は、中国の研究機関の研究論文です。

掲載誌:Engineering Microbiology

ライセンス: CC BY 対象: 公開論文 確認元: OpenAlex

何を整理した論文か

メナキノン(ビタミンK2)は、脂溶性ビタミンの一種で、ナフトキノンという環状の構造に、イソプレノイドと呼ばれる単位がつながった側鎖がついた分子です。側鎖の単位数をnとして「MK-n」と表記されます。著者らは、このメナキノンをチーズなどの発酵に広く使われる乳酸菌ラクトコッカス・ラクティス(Lactococcus lactis)で作らせる研究の到達点を、総説としてまとめています。

著者らによれば、側鎖の短いメナキノン(n≦4)はヒトや動物の組織でも作られ、肉・卵・乳製品にも多く含まれますが、側鎖の長いメナキノン(n=5〜13)は細菌だけが作ります。長鎖型は疎水性が高く、短鎖型より体内での半減期が長く生物学的利用能も高いと考えられており、そのため微生物による長鎖メナキノン生産が食品微生物学や合成生物学の分野で注目されている、というのが本総説の出発点です。ラクトコッカス・ラクティスはMK-8、MK-9、MK-10を作る天然の長鎖メナキノン生産菌であり、有力な候補として取り上げられています。

菌の中でメナキノンはどう作られ、何をしているか

総説は、この菌でのメナキノン合成が三つの部分からなると説明しています。一つ目は、頭部となる環構造の元になるDHNA(1,4-ジヒドロキシナフトエ酸)を作る経路で、解糖系などの中間代謝物から出発し、シキミ酸、コリスミ酸を経て、MenF、MenD、MenXなど七つの酵素が順に働きます。二つ目は、側鎖となるイソプレノイド鎖の合成で、アセチルCoAからメバロン酸経路を通って作られます。三つ目は、この二つをつなぐ反応と、その後のメチル化です。側鎖の長さが、できるメナキノンの種類を決めます。

著者らは、この菌でのメナキノンの働きが側鎖の長さと環境によって異なると整理しています。ヘム(鉄を含む補因子)を外から与えると、この菌は好気呼吸を始めます。このときメナキノンは電子伝達鎖の運び手として働き、なかでも長鎖のMK-8やMK-9が中心的な役割を担い、菌体量の増加や酸素消費速度の上昇、生存期間の延長につながると報告されています。一方、MK-1やMK-3のような短鎖型は、嫌気条件での細胞外への電子の受け渡しで効率が高いとされます。疎水性の高い長鎖型は膜の脂質層に埋め込まれて好気呼吸に関わり、疎水性の低い短鎖型は膜の外での電子の受け渡しに向く、という説明が紹介されています。

生産量を高めるために報告されてきた方法

総説によれば、培養条件の調整は生産量と種類の両方を変える基本的な手段です。Liuらの報告として、MG1363という株では30℃と33.5℃で総ビタミンK2生産量が最も高く、37℃の約2倍になったこと、温度を20℃から37℃へ上げるとMK-9の相対的な割合が80%から50%へ下がったことが紹介されています。炭素源による違いもあり、マンニトールを使った場合の総生産量はグルコースの2.4倍に達したとされます。また、通気は長鎖型を増やして総生産量を大きく押し上げ、静置培養では比較的短い鎖のものが溜まりやすいと報告されています。

菌株の改良についても複数の報告が挙げられています。遺伝子操作では、menFとmenAを強く働かせるとMK-3が増え、mvkとllmg_0196を強く働かせるとMK-9が増えたこと、menFとmenDの発現比を調整してDHNA生産を精密に制御し、細胞毒性を避けつつ安定生産を保った例が紹介されています。遺伝子組換え生物の食品利用にはまだ制約があることから、実験室進化という別の道も取り上げられています。Liuらは好気条件で100回の継代と選抜を重ねた進化株を得ており、長鎖メナキノン生産が元の株より50〜110%増加した一方で、種類の構成には目立った変化がなかったと報告されています。

同時に著者らは、残された壁も整理しています。前駆体の供給が主な制約であること、単一遺伝子を一律に強発現させるだけでは効果が限られること、DHNAが溜まりすぎると上流酵素MenDを阻害するフィードバックが働くこと、メナキノンは脂溶性で膜に溜まる一方この菌では専用の排出機構が実験的に見つかっていないため膜への蓄積量に限りがあること、そして合成に必要なNADPHがこの菌では不足しがちであることが挙げられています。また、大腸菌や枯草菌で確立された改変方法は、乳環境への適応で遺伝子を減らしてきたこの菌にはそのまま移植できない、とも述べられています。

この整理が示すこと

著者らの整理が示しているのは、ラクトコッカス・ラクティスが長鎖メナキノンを自ら作れる数少ない食品用の菌である一方、その生産量は枯草菌に及ばず、温度や通気といった培養条件と、遺伝子操作や実験室進化による菌株改良の両面から改善が試みられてきた、という現状です。同時に、前駆体の供給、膜への蓄積の限界、還元力の不足という壁がどこにあるのかが、経路の各段階に結びつけて具体的に示されています。他の菌で蓄積された知見を参照しつつも、この菌自身の代謝の特徴に合わせた設計が必要だという点が、本総説の中心にある見取り図といえます。

著者:Yu Lou(State Key Laboratory of Microbial Technology, Shandong University, No. 72 Binhai Road, Qingdao 266237, China)、Jingjing Shuang(State Key Laboratory of Microbial Technology, Shandong University, No. 72 Binhai Road, Qingdao 266237, China)、Jian Kong(State Key Laboratory of Microbial Technology, Shandong University, No. 72 Binhai Road, Qingdao 266237, China)、Tingting Guo(State Key Laboratory of Microbial Technology, Shandong University, No. 72 Binhai Road, Qingdao 266237, China)

※本記事は原著論文をもとに、日本語で要約・説明を加えた研究紹介です。 出典(原著論文):Yu Lou, Jingjing Shuang, Jian Kong, et al. Menaquinone biosynthesis in Lactococcus lactis: Recent advances and future prospects. Engineering Microbiology 2026-09-02. DOI: 10.1016/j.engmic.2026.100304. 原著ライセンス:CC BY.