この研究は、スペインの研究機関の研究論文です。

掲載誌:Frontiers in Endocrinology

ライセンス: CC BY 対象: 公開論文 確認元: OpenAlex

何を明らかにしようとしたのか

わたしたちが食べる量は、消化管と脳のあいだでやりとりされるホルモンによって細かく調整されています。腸の壁にある「腸内分泌細胞」は、食べ物の成分を感じ取ってGLP-1(グルカゴン様ペプチド-1)、PYY(ペプチドYY)、CCK(コレシストキニン)といったホルモンを出します。これらは胃の中身が送り出される速さやインスリンの分泌、脳の食欲の回路にはたらきかけ、満腹感をもたらして食べる量を抑える方向に働きます。論文は、肥満ではこうしたホルモンの分泌や信号のやりとりがうまくいかなくなることが多く、食欲の調節の乱れにつながると説明しています。

近年注目されているのが、腸内にすむ膨大な細菌のはたらきです。細菌は食物繊維などを発酵させて「短鎖脂肪酸」と呼ばれる物質(酢酸、プロピオン酸、酪酸)をつくります。研究チームは、短鎖脂肪酸が腸内分泌細胞や免疫細胞の受容体に作用し、細菌と宿主をつなぐ仲介役になっていることが報告されていると述べています。そこで著者らは、乳酸菌の一種であるラクチプランチバチルス・ペントサスCECT 8039株(論文ではL. pentosus BBと略記)を取り上げ、この菌が腸内での発酵、満腹に関わるホルモンの応答、そして高脂肪食による肥満の初期段階にみられる代謝・免疫の指標を変化させるかどうかを調べました。

どのように調べたか

研究チームは三つの段階を組み合わせました。まず、人の大腸を模した培養装置を使いました。胃、小腸、そして上行結腸・横行結腸・下行結腸にあたる五つの反応槽をつなぎ、温度やpH、通過時間を体内に近い条件に保つ装置です。健康な成人二人の便を混ぜたものを菌のもと(接種材料)として入れ、9日間かけて細菌の集まりを安定させたあと、14日間にわたって凍結乾燥したこの乳酸菌を毎日投与しました。培養液中の代表的な細菌グループの数を培養法で数え、短鎖脂肪酸の濃度をガスクロマトグラフィーで測定しています。

次に、この発酵液から得た試料を細胞に加えました。ホルモンを出す性質をもつマウス由来のSTC-1細胞ではGLP-1の放出量と、PyyおよびCck遺伝子の発現を調べています。また、腸の上皮細胞(Caco-2)とマクロファージ様の細胞(THP-1)を重ねて培養する系を使い、炎症に関わる遺伝子の発現を見ました。

最後に動物実験です。雄のC57BL/6Jマウスを、通常食、高脂肪食、通常食+菌、高脂肪食+菌の四群(各群6匹)に分け、28日間にわたって毎日1×10⁹個の菌を経口投与しました。体重を週ごとに記録し、血中のレプチン、レジスチン、アディポネクチンといった脂肪組織由来のホルモン(アディポカイン)を測定しています。なお論文は、大腸を模した装置の三つの反応槽は解剖学的に異なる部位を表しており独立した反復ではないため、細菌数と短鎖脂肪酸については統計的な検定を行わず記述的に示したと明記しています。

報告された主な結果

培養装置では、菌の投与によって乳酸菌が三つの結腸区画すべてで増え、クロストリジウム属は減少しました。全嫌気性菌の数は保たれるか増加しており、著者らはこの変化が培養可能な嫌気性菌全体の減少を伴うものではなかったとしています。ビフィズス菌はいずれの区画でも1 log CFU/mL未満のわずかな減少を示し、腸内細菌科は上行結腸で増加、横行結腸でほぼ横ばい、下行結腸で減少と、部位によって方向が異なりました。

短鎖脂肪酸は三つの区画すべてで安定化期の終わりより高くなりました。上行結腸では、酢酸が2.53倍、プロピオン酸が7.34倍、酪酸が5.08倍に増えたと報告されています。

発酵液を加えたSTC-1細胞では、GLP-1の放出はすべての区画由来の試料で増えたものの、統計的に有意になったのは横行結腸由来の条件だけでした。Pyyの発現は上行結腸と下行結腸の条件で有意に増え、Cckの発現は三つの区画すべての条件で有意に増加しています。

マウスでは、高脂肪食のみの群が28日間で体重を34.9±5.5%増やし、肥満モデルが成立したことが確認されました。これに対し、高脂肪食に菌を加えた群は、高脂肪食のみの群より相対的な体重増加が13.2±4.7%低くなりました。通常食に菌を加えただけの群では、体重にもアディポカインにも有意な変化はみられていません。高脂肪食を与えたマウスでは、菌の投与により血中レジスチンが25.8±9.4%、レプチンが85.5±20.1%低下しました。アディポネクチンは15.9±8.9%の低下がみられましたが、統計的に有意ではありませんでした。免疫に関する反応は一様ではなく、実験の条件によって異なったと報告されています。

この研究が示すもの

著者らは、L. pentosus BBの投与が、結腸内の短鎖脂肪酸濃度の上昇、腸内分泌細胞の応答の強まり、そして高脂肪食に伴う代謝の変化の部分的な緩和と関連していたとまとめています。同時に、短鎖脂肪酸がこれらの変化を直接引き起こしているという因果関係については、まだ確かめられていないと明記しています。

つまりこの研究は、腸内細菌の発酵活動と、満腹に関わるホルモンや代謝の指標とのあいだに機能的なつながりがあることを、試験管内の培養系と動物実験を組み合わせて示したものです。食べる量の調節を、脳や消化管だけでなく、そこにすむ細菌がつくる物質まで含めた一連の流れとして捉える見方を裏づける報告といえます。

著者:Carmen Veciana-Galindo(Biopartner SL)、Eva Núñez-Delegido(Health Sciences PhD Program, Universidad Católica de Murcia (UCAM))、Jorge González-Santos(Research and Development Department, Bioithas SL)、Juan Agüera-Santos(Human Microbiota Research Group, Universidad Católica de Murcia (UCAM))、Vicente Navarro-López(Human Microbiota Research Group, Universidad Católica de Murcia (UCAM))、Ignacio Alberola-Jordá(Biopartner SL)

※本記事は原著論文をもとに、日本語で要約・説明を加えた研究紹介です。 出典(原著論文):Carmen Veciana-Galindo, Eva Núñez-Delegido, Jorge González-Santos, et al. Microbial metabolite–mediated modulation of enteroendocrine and immune pathways by Lactiplantibacillus pentosus CECT 8039 in early diet-induced obesity. Frontiers in Endocrinology 2026-09-03. DOI: 10.3389/fendo.2026.1882392. 原著ライセンス:CC BY.