著者の所属・活動拠点の国は、中国です。
掲載誌:Ultrasonics sonochemistry
ライセンス: CC BY 対象: 公開論文 確認元: Europe PMC
研究のねらい:種皮を残したまま発酵させたい
テンペは、ゆでた豆にクモノスカビの一種(Rhizopus oligosporus)を生やして固めた発酵食品です。この研究チームは、黒いインゲン豆(ブラックキドニービーン)を皮付きのまま丸ごと使うテンペづくりに取り組みました。
抄録によると、黒いインゲン豆の種皮は緻密で硬く、カビが豆の内部へ広がるのを妨げ、栄養成分が消化の過程で取り出されにくくなる要因になります。従来は皮をむく「脱皮」で対処してきましたが、それでは栄養を多く含む外側の層が失われてしまいます。そこで著者らは、発酵の前に豆へ超音波を当てて種皮の構造を変え、皮を残したままこの壁を乗り越えられるかを調べました。
何を調べたか
研究チームは、豆に10〜30分の超音波処理を施してからカビで発酵させ、処理をしていない皮付きテンペや、皮をむいた豆でつくったテンペと比べました。
比較したのは、種皮のすき間の多さ(多孔度)や硬さ、水の吸いやすさといった豆の物理的な性質に加え、カビの増え方、タンパク質やデンプンの分解の程度、消化を模した条件で成分がどれだけ取り出せるかなどです。分子の大きさで成分を分ける分析法(SEC)や、組織を立体的に観察できる顕微鏡(共焦点レーザー顕微鏡、CLSM)による観察も行われました。
主な結果
論文の報告では、超音波処理によって種皮の多孔度は0.9%から4.5%に高まり、硬さは365.7ニュートンから73.5〜116.8ニュートンに下がり、豆が水を吸いやすくなりました。これによりカビが育ちやすくなり、酵素の働きも高まったとされています。カビの量の目安となる成分エルゴステロールは、未処理の皮付きテンペの9.0倍に増えました。分析と顕微鏡観察でも、超音波処理した豆ではタンパク質とデンプンの分解や細胞壁の崩れが進んでいることが確認されました。
未処理の皮付きテンペと比べると、超音波処理したものではタンパク質が分解されてできるペプチドが1.4〜2.5倍多く含まれていました。一方でデンプンの利用は中程度にとどまり、皮をむいたテンペで見られた過度な分解とは異なる傾向でした。
消化の過程で取り出せるタンパク質の割合(バイオアクセシビリティ)は約55%に達し、皮付きテンペと皮むきテンペの間にあった差のおよそ37%を埋めた計算になります。それでいて、食後の血糖値の上がりやすさを示す指標を推定した値(推定グリセミック指数)は47.3〜49.7で、皮むきテンペの67.2より大幅に低いままでした。処理時間の中では、20分の処理が総合的に最もよい結果を示したと報告されています。
この研究が示すこと
著者らは、超音波の当て方を調整することで、種皮を取り除かずに発酵を進めやすくし、タンパク質の取り出しやすさとデンプン分解の穏やかさの釣り合いがとれた皮付きテンペをつくれると結論づけています。皮をむくか、皮を残して発酵しにくさを受け入れるかという従来の二択に対し、種皮の性質そのものを変えるという別の道を示した研究といえます。
原著論文の著者・所属:Qin Y(College of Food Science and Technology, Nanjing Agricultural University, Jiangsu Province 211800, PR China.)、Qiang X(College of Food Science and Technology, Nanjing Agricultural University, Jiangsu Province 211800, PR China.)、Wang K(College of Food Science, Heilongjiang Bayi Agricultural University, Heilongjiang Province 163319, PR China.)、He J(Agro-products Quality Safety and Testing Technology Research Institute, Guangxi Academy of Agricultural Sciences, Guangxi Province 530007, PR China.)、Wang H(Agro-products Quality Safety and Testing Technology Research Institute, Guangxi Academy of Agricultural Sciences, Guangxi Province 530007, PR China.)、Li W(College of Food Science and Technology, Nanjing Agricultural University, Jiangsu Province 211800, PR China.)、Rui X(College of Food Science and Technology, Nanjing Agricultural University, Jiangsu Province 211800, PR China. Electronic address: [email protected].)
※本記事は原著論文をもとに、日本語で要約・説明を加えた研究紹介です。 出典(原著論文):Qin Y, Qiang X, Wang K, et al. Ultrasound cracks the seed coat barrier: a strategy for whole-bean tempeh fermentation from black kidney bean with balanced protein-starch digestibility. Ultrasonics sonochemistry 2026-10-13. DOI: 10.1016/j.ultsonch.2026.108113. 原著ライセンス:CC BY.