著者の所属・活動拠点の国は、ガーナです。
掲載誌:PLoS ONE
ライセンス: CC BY 対象: 公開論文 確認元: OpenAlex
なぜ「家庭の台所」に注目したのか
汚染された食品による病気は世界的な公衆衛生上の課題であり、論文で引用されている報告では、食中毒などの食品由来疾患の30〜40%は家庭で起きているとされています。特に免疫が未熟で体重の軽い子どもは、その影響を受けやすいとされます。
一方、これまでの食品安全研究の多くは、屋台や飲食店など商業的に食品を扱う人々を対象としてきました。飲食店は規制や監視を受けますが、家庭の台所は個人の知識や習慣、文化的な慣行に大きく左右され、外からはほとんど見えません。ガーナでも研究の中心は露店や学校給食の担当者などで、都市部の家庭について調べた研究は限られていました。
そこで研究チームは、ガーナ・ヴォルタ州ホー市で、家庭の食事づくりを主に担う女性を対象に調査を行いました。目的は、対象者の社会的な背景を把握すること、食品安全に関する知識・意識・実践の状況を評価すること、そして食品安全の知識が十分かどうかに関係する背景要因を明らかにすることでした。
どのように調べたか
調査は、ある一時点の状況をまとめて調べる「横断研究」として行われました。対象は、ホー市に住み、家庭で調理をしている18歳以上の女性です。市内の8つの地区を選び、各地区で無作為に決めた家から3軒おきに訪問し、その家で日々の食事づくりを主に担う女性に協力を依頼しました。最終的に386人が参加しました。
2021年8月から10月にかけて、調査員が対面で質問票に沿った聞き取りを行いました。質問は、年齢・学歴・収入などの背景、身だしなみや手洗いなどの衛生に関する意識と行動、食品安全に関する知識(5問)、調理中や保存時のふるまい、台所の管理や食品保存の方法などで構成されていました。知識の5問は1問正解ごとに1点とし、統計解析では学歴や年齢、収入などのうち、どの要因が知識の点数と独立して関係しているかを調べました。
主な結果――知識はあっても行動が伴わない
参加者は20代を中心とした若い世代が多く、約46%が大学などの高等教育を受けているなど、比較的学歴の高い集団でした。知識面では、88.6%が食品衛生の意味を正しく答え、89.4%が期限切れの食品は捨てるべきだと理解していました。81.9%が調理時に身の回りの衛生を心がけていると答え、86.5%が衛生の不備は食品汚染につながると考えていました。
しかし、具体的な行動となると状況は異なりました。調理前に食材を洗うと答えた人は22.5%、調理前に台所の作業台などの表面を掃除すると答えた人は8.0%にとどまりました。冷めた料理を十分な温度まで再加熱すると答えた人は7.0%、調理前に手を洗うと答えた人は42.2%でした。また、43.8%が手のひらに料理をのせて味見をし、31.1%が調理中ずっと同じお玉を使っていると答えました。
知識の面でも、特定の分野には空白がありました。冷凍食品の推奨保存温度がマイナス18度であることを知らなかった人は60.1%にのぼり、52.1%は解凍した肉を再冷凍してよいと考えていました。生の食品と加熱済みの食品に同じまな板を使うべきではないと正しく答えた人は36.8%でした。研究チームは、全体として、知識と実際の台所での行動の間に隔たりがあると報告しています。
背景要因との関係では、他の要因を考慮しても、知識の点数と統計的に有意な関係を示したのは学歴だけでした。初等教育のみの人と比べて、中等教育を受けた人では知識が良好である見込み(オッズ)が約3.0倍、高等教育を受けた人では約3.7倍高くなっていました。一方、正規教育を受けていない人でも約4.0倍と高い値が出ましたが、このグループは25人と少なく、推定の幅が広いため、著者らは慎重な解釈が必要だとしています。年齢、婚姻状況、収入については有意な関係は認められませんでした。
この研究が伝えること
この研究は、家庭で調理を担う女性たちが食品安全について一般的には良い知識や意識を持っている一方で、まな板や調理器具を介した汚染、味見の仕方、冷凍温度の理解など、具体的な場面では危険につながりうる行動や知識の空白があることを示しました。こうした傾向は、学歴の高い参加者の間でも見られました。
なお、結果は本人の回答に基づくもので、望ましい答えに偏った可能性があります。また、一時点の調査であるため、学歴が知識を高めたという因果関係までは示せません。著者らは、注意喚起だけでは行動は変わりにくく、家庭での日々の調理の実情に合わせた実践的な食品安全教育が、知識と行動の隔たりを埋める助けになりうると結論づけています。
原著論文の著者・所属:Edward Ken Essuman(School of Allied Health Sciences, Department of Nutrition and Dietetics, University of Health and Allied Sciences, Ho, Ghana)、Afia Sakyiwaa Amponsah(Department of Hospitality and Tourism, Sunyani Technical University, Sunyani, Ghana)、Vida Gyimah Boadu(Department of Hospitality and Tourism Education, University of Skills Training and Entrepreneurial Development, Kumasi, Ghana)、Evangeline Adu Okraku(School of Allied Health Sciences, Department of Nutrition and Dietetics, University of Health and Allied Sciences, Ho, Ghana)
※本記事は原著論文をもとに、日本語で要約・説明を加えた研究紹介です。 出典(原著論文):Edward Ken Essuman, Afia Sakyiwaa Amponsah, Vida Gyimah Boadu, et al. Beyond the market: Food safety knowledge and practices among female household food handlers in the domestic kitchen. PLoS ONE 2026-09-02. DOI: 10.1371/journal.pone.0356599. 原著ライセンス:CC BY.