著者の所属・活動拠点の国は、アメリカです。

掲載誌:International Journal of Arts Humanities & Social Science

ライセンス: CC BY 対象: 公開論文 確認元: OpenAlex

なぜ大陸ごとの比較なのか

食品を通じてかかる病気(食品由来疾患)は国境を越えて広がるため、一国だけでなく世界全体の視点で考える必要があります。著者はこうした問題意識から、世界の七つの大陸について、食品安全をどの組織が担い、どのような考え方で規制しているのかを整理して比べました。

論文はまず国際的な土台を紹介しています。国連食糧農業機関(FAO)と世界保健機関(WHO)が設けたコーデックス委員会は、国際的な食品規格や指針をまとめています。食品の生産から流通までの各段階で健康被害につながる危険(ハザード)を見つけて管理する「ハザード分析」が、その中心的な考え方です。ただし著者は、実際の規制や取り締まりは地域ごとの当局に委ねられており、そこに食品安全上のすき間が生じうると指摘しています。

論文によれば、食品由来疾患の負担は世界で均等ではありません。WHOの推計として、安全でない食品により年間8億6600万件の病気と150万人の死亡が生じるとされ、地域別ではアフリカと東南アジアがそれぞれ世界の死亡の約3割を占め、ヨーロッパは約5%とされています。

どのように調べたか

この研究は、新たにデータを集めた調査ではなく、既存の資料を読み比べる総説です。著者はGoogleと二つの文献データベース(PubMedとAcademic Search Complete)で「食品安全」「国際的な規制」といった語を検索し、学術論文や報告書を集めました。それらを読み込み、大陸ごとの規制の性格と広がりを、各大陸の代表的な国の例を交えてまとめています。

見えてきた共通点と違い

著者らの整理によると、大陸全体を監督する専門機関を持つのはヨーロッパとアフリカです。ヨーロッパでは欧州食品安全機関(EFSA)がEU全体のリスク評価を担い、アフリカではアフリカ連合が大陸規模の機関としてアフリカ食品安全機関(AfFSA)を設けています。一方、北米、南米、アジア、オセアニア、南極には大陸全体を統括する単一の機関はなく、各国の当局が個別に規制し、地域ネットワークなどが調整役を果たしています。南極では、各国の科学研究プログラムや国際的な運営組織がそれぞれの安全基準に沿って管理しています。

ただし論文は、大陸規模の機関の有無と食品由来の死亡の多さは対応していないと報告しています。死亡が多いのはアフリカと東南アジアです。

規制の考え方にも違いがあります。北米では、米国の食品安全強化法(2011年)が汚染が起きてから対応するやり方から予防重視へと転換し、カナダも同様に事業者に予防管理計画と追跡の仕組みを求めています。ヨーロッパは「予防原則」をより積極的に用い、安全性に科学的な不確かさがある段階でも、一時的で釣り合いの取れた範囲で製品の制限や撤去を認めます。その例として論文は、米国で広く使われている二酸化チタンなどの添加物をEUが制限していることを挙げています。オーストラリアは、地理的に孤立していることから特に厳しい検疫・防疫の対策をとっていると紹介されています。

一方、アジアは日本、シンガポール、韓国のように高度な仕組みを持つ国から、検査体制の不足や非公式な市場、取り締まりのばらつきといった課題を抱える国まで差が大きいとされます。アフリカでは法制度が分野ごとに分かれていることや、検査機関や人材、資金の不足、非公式な市場の多さが課題として挙げられ、南米では輸出向けの管理は厳しい反面、都市と農村で取り締まりに差があることが指摘されています。

共通点としては、公衆衛生の保護を第一の目的とすること、リスク評価とハザード管理を重視する方向にあること、回収や原因調査のための追跡の仕組みが広がっていること、コーデックスの国際規格が各国の規制に影響していること、そして食品事業者に安全確保の責任があるとされていることが挙げられています。

この研究が示すこと

著者は、食品安全の法規制は世界中で消費者を守るという目的を共有しながらも、仕組みや取り締まりの力、規制の考え方は地域によって大きく異なると結論づけています。そして、この違いは、食品の危険をどれだけ防ぎ、見つけ、対応できるかに関わるため、公衆衛生に直結すると論じています。

食品のサプライチェーンが世界規模でつながる今、国際協力や規制のすり合わせ、各地域の体制づくりが欠かせない――。この総説は、各大陸の規制の姿を並べて見せることで、そうした課題を浮かび上がらせています。

原著論文の著者・所属:Matthew Robinson(Department of Government and Justice Studies , Appalachian State University)

※本記事は原著論文をもとに、日本語で要約・説明を加えた研究紹介です。 出典(原著論文):Matthew Robinson. A Comparative Analysis Of Food Safety Laws And Regulations Across Continents. International Journal of Arts Humanities & Social Science 2026-08-17. DOI: 10.56734/ijahss.v7n8a2. 原著ライセンス:CC BY.