この研究は、ルーマニアの研究機関の研究論文です。

掲載誌:Life

ライセンス: CC BY 対象: 公開論文 確認元: OpenAlex

研究の背景と目的

世界の水産養殖は食料供給で大きな役割を担っており、著者らによれば2024年には養殖された水生動物の生産量が1億トンを超えました。需要の高まりを受けて、この分野には生産量を増やすだけでなく、効率的で持続可能な仕組みを目指すことが求められています。

一方で、集約的な養殖が進むにつれて、低酸素状態、新たに現れる病気、抗生物質の不適切な使用といった問題が生じてきました。論文はこれらが魚の健康に影響するだけでなく、環境中で薬剤耐性(抗生物質が効かなくなる性質)が広がることにもつながると指摘しています。そのため、より持続可能で安全な代替手段への関心が高まり、プロバイオティクス(生きた有用微生物)とプレバイオティクス(有用微生物の働きを助ける成分)の研究が活発になってきました。

この総説の目的は、プロバイオティクスとプレバイオティクスの効果について最新の情報を整理することです。著者らは、両者を組み合わせた「シンバイオティクス」をあえて対象から外しました。それぞれを個別に投与したときの効果を区別して示すためです。

どのように文献を集めたか

著者らは、Web of Science、Scopus、PubMed、Google Scholarの各データベースを検索し、1900年から2026年までに公表された文献を分析しました。文献検索は2026年1月から8月にかけて行われています。古い研究はプロバイオティクスとプレバイオティクスという概念の成り立ちと変遷を示すために用い、養殖への応用については主に近年の研究や総説を参照しました。

検索には「プロバイオティクス」「プレバイオティクス」「魚」「養殖」といった語を用い、さらに微生物や化合物の名前(BacillusやLactobacillus、S. cerevisiae、イヌリン、FOS、MOS、β-グルカンなど)も検索語に加えています。魚や養殖に直接関係しない研究、陸上動物のみを対象とした研究、プロバイオティクスやプレバイオティクスの効果を他の添加物の効果から切り分けられない文献は除外されました。最終的に407件の文献が分析対象となり、そのうち約280件が実験論文、残りの127件が総説その他の資料です。

報告された主な内容

総説はまず、概念の歴史をたどっています。1899年にアンリ・ティシエが母乳で育った乳児の便から微生物を分離したこと、エリー・メチニコフが発酵食品を多く含む食事が腸内の菌の様子を変えうると論じたこと、第一次世界大戦中にアルフレッド・ニッスルが病原性のない大腸菌の株を分離したことなどが紹介されます。「プロバイオティクス」という語そのものは1953年にヴェルナー・コラートが用いたのが最初とされ、その後定義は繰り返し見直されました。2001年のFAO/WHO合同専門家会議による「適切な量を投与したときに宿主に健康上の利益をもたらす生きた微生物」という定義が現在も基準となっています。養殖では、魚が飼育環境の微生物と常に接している点を踏まえ、宿主だけでなく周囲の環境に関わる効果も含めた定義が提案されています。

プロバイオティクスとなりうる微生物は、淡水や海水、底の泥、土壌など幅広い場所から分離されます。魚の消化管や皮膚の粘液から得られる菌は、腸内に定着しやすく効果が長続きする可能性があるため、特に価値があると考えられています。南極の岩石や南極の魚から分離された菌が、養殖で問題となるAeromonasやVibrioに対して生育を抑える働きを示した例も挙げられています。

作用の仕組みとしては、抗菌性のある物質をつくること、栄養(とくに鉄)をめぐって病原菌と競い合うこと、腸内での定着場所をめぐる競合と腸内細菌のバランスへの影響、免疫の調節、そして細菌同士の情報伝達(クオラムセンシング)を妨げることなどが整理されています。ただし著者らは、これらの仕組みを支える証拠の水準は研究によって異なると明記しています。直接的な機能試験で示されたものもある一方、腸内細菌や免疫指標、遺伝子発現の変化といった付随的な観察にとどまるものもあります。

成長への影響については、多くの研究がプロバイオティクスの投与後に良好な結果を報告しています。Lactiplantibacillus plantarumはカクレクマノミ、コイ、ナイルティラピア、シベリアチョウザメなど複数の魚種で成長を促し、Bacillus subtilisもソウギョ、ニジマス、アフリカナマズなどで好ましい効果を示しました。しかし著者らは、使われた菌株、投与量、投与期間、魚種が研究ごとに大きく異なるため、報告された成長の結果を直接比べることには限界があると注意を促しています。

効果が一様ではないことは、他の場面でも繰り返し述べられています。ある研究では、Bacillus tequilensisを1×10⁸の量で与えたときに腸内細菌への良い効果が最もはっきり現れ、より多い1×10⁹では効果がそれほど明確でなかったと報告されています。また別の研究では、皮膚の免疫に関わるいくつかの指標が上がった菌株を与えた群でVibrio harveyiの感染後の死亡率が100%となり、一方でEnterococcus faecalisを与えた群では死亡率が有意に下がりました。著者らはこの対比を、免疫が過剰に刺激された結果である可能性として解釈していますが、実験で確認されたわけではないと述べています。

規制の面では、欧州連合では有用微生物の使用に厳しい枠組みがあり、対象となる動物種、環境、人に対する安全性を示さなければ販売も投与もできません。毒素や病原性因子がないこと、他の菌に受け渡される薬剤耐性遺伝子がないことを、遺伝的・表現型の両面から示す必要があります。総説の時点で欧州連合レベルで承認された養殖魚向けの市販製品は、Pediococcus acidilactici CNCM I-4622を含むBactocell®の1つだけです。

この総説が示すこと

この総説が伝えているのは、プロバイオティクスとプレバイオティクスが養殖における抗生物質依存を減らす有力な選択肢として研究されている一方で、その効果は菌株、投与量、魚種によって大きく変わるということです。免疫調節が作用の仕組みの一つとして認められていても、免疫の反応が病気への抵抗力とどうつながるのかは、まだ十分に解明されていません。著者らは、真菌や寄生虫の感染に対する個々の物質の効果に関する証拠が限られていることや、抗ウイルス作用の仕組みが完全には理解されていないことも課題として挙げています。魚の腸内や体表で働く「見えないバランス」は、一律の答えではなく、一つ一つ個別に確かめていく対象として描かれています。

著者:Horia Ioanid Stan(Faculty of Food and Animal Sciences, “Ion Ionescu de la Brad” University of Life Sciences, 3 Mihail Sadoveanu Alley, 700489 Iasi, Romania)、Cristian-Alin Barbacariu(Research and Development Station for Aquaculture and Aquatic Ecology, “Alexandru Ioan Cuza” University, Carol I, 20A, 700505 Iasi, Romania)、Cristina Simeanu(Faculty of Food and Animal Sciences, “Ion Ionescu de la Brad” University of Life Sciences, 3 Mihail Sadoveanu Alley, 700489 Iasi, Romania)、Cristina-Gabriela Radu-Rusu(Faculty of Food and Animal Sciences, “Ion Ionescu de la Brad” University of Life Sciences, 3 Mihail Sadoveanu Alley, 700489 Iasi, Romania)、Lazăr Mircea(Faculty of Food and Animal Sciences, “Ion Ionescu de la Brad” University of Life Sciences, 3 Mihail Sadoveanu Alley, 700489 Iasi, Romania)、Daniel Simeanu(Faculty of Food and Animal Sciences, “Ion Ionescu de la Brad” University of Life Sciences, 3 Mihail Sadoveanu Alley, 700489 Iasi, Romania)

※本記事は原著論文をもとに、日本語で要約・説明を加えた研究紹介です。 出典(原著論文):Horia Ioanid Stan, Cristian-Alin Barbacariu, Cristina Simeanu, et al. The Invisible Balance: How Prebiotics and Probiotics Can Support Fish Health and Development. Life 2026-09-04. DOI: 10.3390/life16091479. 原著ライセンス:CC BY.