お茶は害虫や病気の被害を受けやすく、栽培には農薬の使用が欠かせません。そのため輸出先の国が定める「農薬最大残留基準値(MRL)」との適合が、貿易の大きなハードルになりえます。中国は世界有数のお茶輸出国で、130の国と地域に茶を輸出していますが、欧州連合(EU)をはじめとする主要な輸出先で、農薬残留を理由に荷物が拒否される事例が起きてきたといいます。今回紹介する研究は、この「基準値の違い」が中国のお茶輸出にどう影響しているのかを、経済学の手法で定量的に検証したものです。

何をどう調べたのか

研究チームは、中国と主要な茶輸入国・地域16か国(オーストラリア、ブルネイ、カンボジア、日本、インドネシア、韓国、ラオス、マレーシア、ニュージーランド、シンガポール、フィリピン、タイ、ベトナム、EU、米国、香港)を対象に、2010年から2023年までの茶に関する農薬残留基準の規定と、二国間の貿易データを収集しました。これら16の国・地域は、期間中を通じて中国の茶輸出額全体のおよそ24〜44%を占めるとされています。

分析の軸となるのが、中国と各輸入国が共通して基準値を定めている農薬について、両者の基準値の差を数値化した「基準値の非類似度(dissimilarity)」という指標です。値がプラスであれば輸入国の基準の方が中国より厳しく、マイナスであれば逆に中国側の基準の方が厳しいことを示します。

さらに研究では、輸出の伸びを二つの側面に分けて捉えています。一つは「外延的マージン」で、これは輸出する茶の品目(銘柄・種類)の幅がどれだけ世界の中でシェアを占めているかを表します。もう一つは「内包的マージン」で、既に輸出している品目についてどれだけの規模で取引されているかを示す指標です。この二つの指標を、国・年ごとの固定効果を考慮した回帰モデル(統計的に地域差や時期特有の要因を取り除く分析手法)で、基準値の非類似度との関係を検証しました。

研究でわかったこと

まず基準値の差の推移を見ると、中国と多くの貿易相手国との間で、時間とともに基準値が近づいていく傾向が確認されたといいます。特にEUでは、非類似度の指標が2010年の0.596から2023年には0.301まで縮小しました。一方でフィリピンやベトナムのような国では、中国側がより厳しい基準を維持し続けており、その差はむしろ広がったとされています。また日本については、2013〜2019年は中国よりやや緩い状態(指数がマイナス)でしたが、2020年以降は上昇に転じ、2023年にはプラスに転じたと報告されています。これは日本の「ポジティブリスト制度」のもとで基準の見直しや厳格化が進んだことが関係している可能性がある、と論文は述べています。タイでも2017年に一律基準(デフォルトで0.01mg/kgとする方式)が導入されて以降、同様の傾向がみられたとされています。

こうした基準値の収れん傾向がある一方で、分析の結果、基準値の差が大きいほど中国の茶輸出は外延的・内包的マージンの両方で有意に押し下げられることがわかりました。具体的な回帰係数としては、内包的マージンへの影響(-0.120)が外延的マージン(-0.038)よりも大きく、基準値の差は「新しい市場・品目への参入」よりも「既存の取引規模の縮小」という形でより強く効いていることが示されています。

その仕組みについても検証されており、基準値の差が大きいほど二国間の貿易コストが有意に増加し、そのコスト増加を通じて輸出実績が抑制される、という経路(コスト増幅メカニズム)が確認されたとしています。研究では、こうした費用を検査や品質管理といった「輸出のたびにかかる変動費用」と、市場参入時に一度だけ発生する「固定費用」に分けて考察しており、継続的にかかる変動費用の性質が、内包的マージンへの影響がより大きいことの背景にあると論じています。

また、影響の大きさは状況によって異なることも示されました。輸出先の基準が中国よりもともと厳しい市場では、基準値の差が広がることによる悪影響はやや和らぐ傾向がみられ、これは既にそうした高水準の市場に対応してきた事業者は規制順応の能力を備えているためではないか、と考察されています。加えて、農薬の種類によっても影響は異なり、毒性の高い(highly hazardous)農薬における基準値の差の方が、外延的・内包的マージンの両方でより強い悪影響を持つことが確認されたとしています。

この研究を読むうえで

この研究は、中国と16の主要輸出先との二国間データを対象とした計量経済分析であり、茶という特定の品目・特定期間(2010〜2023年)の貿易パターンから得られた知見です。対象国以外への一般化や、他の農産品への当てはめには注意が必要です。また、基準値の非類似度は両国が共通して基準を持つ農薬のみを対象に算出されているため、比較可能な農薬の数は国や年によって異なる点も踏まえておく必要があります。研究者らは、規制の国際的な収れんを進め、制度の違いによる貿易摩擦を減らすことが、発展途上国が高水準の市場に参加していくうえで重要だとしています。一つの研究であり、これによって結論が確定したわけではありません。

※本記事は原著論文の翻訳ではなく、研究内容を独自に解説したものです。参考文献:Huijie Yu, Zenghui Huo. The impact of pesticide maximum residue limit differences on the extensive and intensive margins of China's tea exports. フロンティアーズ・イン・サステイナブル・フード・システムズ (2026). DOI: 10.3389/fsufs.2026.1844183. 原著ライセンス: cc-by.