著者の所属・活動拠点の国は、インドです。
掲載誌:Discover Environment
ライセンス: CC BY 対象: 公開論文 確認元: OpenAlex
研究の目的
気候変動は、干ばつや洪水、不規則な雨季などを通じて作物の収量や農家の収入に影響し、食料安全保障を脅かすと指摘されています。食料安全保障とは、人々が十分な食料を安定して得られる状態を指します。著者らによると、この分野の議論は近年高まっていますが、研究がどう推移し、どこに空白があるのかを論文データから体系的に調べた研究は限られていました。
そこで研究チームは「計量書誌学」という手法を使いました。これは、論文の数、引用のされ方、著者や国、キーワードのつながりなどを数量的に分析し、研究分野全体の姿を描き出す方法です。目的は三つありました。主な出版の傾向、有力な学術誌、引用の傾向、多くの論文を出している著者とその所属国を明らかにすること。研究分野の知的な構造と歴史的な流れ、最近の進展を分析すること。そして今後の研究の方向を見いだすことです。
何をどのように調べたか
著者らは、2024年11月12日に論文データベース「Scopus」で、題名・要旨・キーワードに「climate change(気候変動)」と「food security(食料安全保障)」の両方を含む文献を検索しました。2002〜2024年の文献が当初1万4188件見つかりました。そのうえで、対象を経済学・計量経済学・金融と社会科学の分野に絞りました。さらに2人の著者がそれぞれ独立して、重複、不完全な記録、テーマとの関連が薄い文献などを除外しました。最終的に2366件が分析の対象になりました。
分析は大きく二つの柱からなります。一つは、国・著者・学術誌ごとの論文数や引用数を比べる「業績分析」です。もう一つは、文献同士のつながりから研究テーマのまとまりを描く「サイエンスマッピング」です。その一つの手法である「書誌結合」では、共通の文献を引用している論文同士を近い関係とみなし、グループ(クラスター)に分けます。
主な結果
この分野の論文は、2002〜2008年にはごく少数でしたが、2008年以降に急増しました。対象2366件の半数を超える1337件(56.5%)が2020〜2024年に発表されています。2024年の論文数は2011年の7倍に達しました。一方、論文1本あたりの平均引用数は2011年以降に下がっています。著者らはその理由として、気候変動研究の重要性が高まり、多くの国から論文が出るようになったことを挙げています。
国別では、米国が1117件・総引用数9284で最も多く、英国、オーストラリア、中国が続きました。インドは518件で、アジアでは中国に次ぐ貢献でした。論文には7649人の著者が関わっていました。論文数の多い上位の著者は、主に先進国に所属していました。論文は749の学術誌・書籍に掲載され、上位20誌がおよそ4割を占めていました。
研究テーマの分析では、まず引用数が100回以上の49件を書誌結合で分類しました。その結果、生計の脆弱性(暮らしが環境の変化に左右されやすい度合い)や、農家による気候変動への適応などのまとまりが見つかりました。全体としては、気候変動が農業生産に与える影響を評価する研究から、脆弱性・適応・レジリエンス(回復力)・ガバナンス(統治や制度の仕組み)・持続可能な食料システムへと、関心が広がっていました。また、リモートセンシング、機械学習、気候スマート農業といった技術やデータを使う研究テーマも現れていました。
一方で著者らは、課題も指摘しています。気候変動の影響を強く受ける途上国は、深刻な食料安全保障のリスクに直面しているにもかかわらず、影響力の大きい研究の中では十分に代表されていません。また、社会的不平等、政治経済、制度上の障壁といった論点は、比較的注目が少ないとしています。
この研究が示すこと
著者らは、気候変動下の食料安全保障が、技術だけでは解決できない社会と生態系にまたがる課題として扱われるようになってきたと述べています。同時に、研究の担い手が一部の国に偏っていることを、気候正義(気候変動の負担と責任の公平さ)の観点から問題として提起しています。
ただし、この分析はScopusに収録された英語文献と、経済・社会科学系の分野に限られています。著者ら自身も、結果は社会経済・政策の観点から見た研究の流れと構造を示すものだと述べています。特定の政策や対策の効果を直接示す証拠ではないという位置づけです。この研究は、この分野の研究がどこへ向かい、何がまだ手薄なのかを見渡す地図として読むことができます。
原著論文の著者・所属:Biplab Kumar Guru(Economics Department, Rama Devi Women’s University, Bhubaneswar, 751022, India)、Pruthiranjan Dwibedi(Birla School of Commerce, Birla Global University, Bhubaneswar, 751029, India)
※本記事は原著論文をもとに、日本語で要約・説明を加えた研究紹介です。 出典(原著論文):Biplab Kumar Guru, Pruthiranjan Dwibedi. A bibliometric analysis of climate change and food security research. Discover Environment 2026-10-31. DOI: 10.1007/s44274-026-01125-0. 原著ライセンス:CC BY.