著者の所属・活動拠点の国は、ブラジルです。
掲載誌:Scientific Reports
ライセンス: CC BY 4.0 対象: 公開論文 確認元: 論文PDF
研究の目的
スイートオレンジ(Citrus sinensis)は、柑橘類の生産の大部分を占める作物です。何十年も収穫を続ける果樹園には長期の投資が必要なため、将来どの地域が栽培に適するかを知ることは重要です。著者らによれば、気候・土壌・地形をまとめて考慮し、スイートオレンジの栽培適地を世界規模で地図化した研究は限られていました。どの環境要因がどれほど重要かを数値で示した分析も不足していました。
そこで研究チームは三つのことに取り組みました。現在の世界的な栽培適地を地図にすること、適地を決める主な要因の寄与を数値で示すこと、そして第6期結合モデル相互比較計画(CMIP6)の気候シナリオの下で2100年までに適地がどう変化するかを予測することです。論文によると、実際の栽培は灌漑や接ぎ木の台木、市場の整備にも左右されます。この研究は、それらを除いた気候と土壌の条件だけを意図的にモデル化しており、適応策を計画するための控えめな評価として位置づけられています。
どのように調べたか
研究チームは、世界の作物分布データセット(CROPGRIDS)と生物多様性情報の国際データベース(GBIF)から、スイートオレンジの栽培地点を集めました。そのうえで、収穫面積の割合が一定の基準以上ある、集約的な商業生産地域だけを「存在地点」として残しました。
環境データには、気温や降水量に関する19の気候指標、粘土含量・pHなどの土壌特性、標高と傾斜を用いました。解析の空間解像度は約5キロメートルです。現在の気候は1970〜2000年を基準とし、将来は2021〜2040年から2081〜2100年まで、20年ずつ四つの期間を設定しました。
分析にはMaxEntという手法を使いました。MaxEntは、生物や作物が「ある場所」の記録だけから、生育に適した環境の分布を推定する手法です。人が管理する作物では「栽培できない場所」の信頼できるデータが得られないため、この手法を選んだと論文は説明しています。適地は適性の程度に応じて「低」「中」「高」に区分されました。著者らによると、モデルの判別性能を示すAUCは平均0.87で、適地と非適地をよく見分けられたと報告されています。
主な結果
適地を決める要因として最も影響が大きかったのは、最寒月の最低気温でした。モデルへの寄与率は47.6%で、論文はこれを、スイートオレンジがよく知られて霜に弱いことを反映したものと位置づけています。次いで土壌の粘土含量の寄与が大きく、年降水量も重要でした。土壌pHは、ほかの要因では代わりにならない独自の情報をもつ要因であることが示されました。
現在の気候では、低〜高の適性をもつ土地は約26億ヘクタールで、世界の陸地の約20%にあたると推定されました。そのうち中〜高の適性をもつ土地は約6%です。適地は亜熱帯の帯状地域や熱帯の高地に集中していました。
論文が主に分析したのは、温室効果ガスの排出が最も多いシナリオ(SSP5-8.5)での2081〜2100年の予測です。この条件では、世界の適地面積は約30.2%縮小し、中〜高の適性をもつ土地は48.6%減ると見積もられました。適地の減少が特に大きかったのは伝統的な生産国で、ブラジルでは61.5%、インドでは50.7%減少すると予測されました。
米国については、総適地面積はほぼ変わりませんでした(−1.11%)。一方で、現在実際に収穫が行われている地域に限ると、そこで適性が維持される割合は99.2%低下すると示されました。著者らは、これは国全体の崩壊ではなく、適地の地理的な移動を意味すると強調しています。
逆に、中国では適地が67.6%、ヨーロッパでは82.0%拡大すると予測されました。地中海沿岸などでは、中程度の適性をもつ土地がまとまって残るとされています。ただし論文は、減少分が分布の周辺部での増加によって十分に埋め合わされるわけではないと指摘しています。
この研究が示すこと
この研究は、冬の寒さがスイートオレンジの世界的な分布の境界を決める主な要因であることを示しました。そのうえで、高排出の気候シナリオでは、現在の主要産地から高緯度地域へと適地が移る可能性を描き出しています。
一方で著者らは、北方での適地拡大を慎重に解釈するよう求めています。寒さの制約が緩んでも、暑さや乾燥のストレスが利点を相殺しうるためです。また、このモデルは光合成やCO₂の施肥効果、栽培管理、カンキツグリーニング病(HLB)などの病害を扱っていないことも明記されています。この結果は収量の予測ではなく、長期的な果樹園への投資や適応策を考えるための、気候と土壌に基づく出発点となる地図として示されています。
原著論文の著者・所属:Pedro Antonio Lorençone(Department of Exact Sciences, School of Agricultural and Veterinary Sciences, São Paulo State University (UNESP), Jaboticabal, SP, 14884-900, Brazil)、João Antonio Lorençone(Department of Exact Sciences, School of Agricultural and Veterinary Sciences, São Paulo State University (UNESP), Jaboticabal, SP, 14884-900, Brazil)、Lucas Eduardo de Oliveira Aparecido(Federal Institute of Sul de Minas (IFSULDEMINAS), Muzambinho, MG, 37890-000, Brazil)、Guilherme Botega Torsoni(Federal Institute of Mato Grosso do Sul (IFMS), Naviraí, MS, 79950-000, Brazil)、Glauco de Souza Rolim(Department of Exact Sciences, School of Agricultural and Veterinary Sciences, São Paulo State University (UNESP), Jaboticabal, SP, 14884-900, Brazil)
※本記事は原著論文をもとに、日本語で要約・説明を加えた研究紹介です。 出典(原著論文):Pedro Antonio Lorençone, João Antonio Lorençone, Lucas Eduardo de Oliveira Aparecido, et al. Global agronomic suitability of Citrus sinensis for commercial production under CMIP6 climate scenarios. Scientific Reports 2026-08-07. DOI: 10.1038/s41598-026-62954-w. 原著ライセンス:CC BY.