心疾患や脳血管疾患など、いわゆる生活習慣病の背景には「酸化ストレス」の持続的な高まりが関わっているとされます。酸化ストレスとは、体内で発生する活性酸素種によって細胞が傷つけられやすくなった状態を指し、これを防ぐには細胞が自ら備えている抗酸化の仕組みを働かせることが重要と考えられています。今回紹介する研究は、機能性食品素材や食品添加物製剤として市販されている「赤シソエキス」(日農化学工業株式会社)が、細胞の酸化ストレス関連遺伝子の働きにどのような影響を与えるかを調べたものです。
研究チームには日本の研究機関に所属する著者が含まれています。
どのように調べたのか
実験では、赤シソエキスをそのまま使うだけでなく、エタノールで抽出した「エタノール画分」と、水で抽出した「水画分」にも分け、それぞれの働きを比較しています。これは、赤シソエキスの中のどの成分が効果に関わっているのかを絞り込むための工夫です。
使用されたのはヒトの子宮頸がん由来細胞であるHeLa細胞です。この細胞を24時間培養したあと、赤シソエキス・エタノール画分・水画分のいずれかを含む培地に交換し、さらに24時間培養しました。その後、細胞からRNAを取り出してcDNAを合成し、リアルタイムPCR法という手法で、酸化ストレスに関連する遺伝子のmRNA量(遺伝子がどれだけ「読まれて」働こうとしているかを示す指標)を測定しています。
何がわかったのか
着目された遺伝子は、抗酸化に関わる仕組みの中心的な役割を持つNRF2(NF-E2-related factor 2)、その働きを抑える側にあるKEAP1(kelch like ECH associated protein 1)、そしてNRF2の働きによって誘導されるHMOX1(heme oxygenase-1)の3つです。細胞内では通常、KEAP1がNRF2の働きを抑えていますが、酸化ストレスなどの刺激があるとこの抑制が外れ、NRF2が核内に移動してHMOX1をはじめとする抗酸化関連遺伝子のスイッチを入れる、という経路(KEAP1-NRF2経路)が知られています。
実験の結果、赤シソエキスまたはエタノール画分を加えた細胞では、NRF2とHMOX1の発現量がともに上昇しました。一方でKEAP1の発現量には変化が見られませんでした。このことから研究チームは、赤シソエキスがKEAP1-NRF2経路を活性化させ、HMOX1の発現を高めることでHeLa細胞の酸化ストレスへの耐性を高めている可能性を指摘しています。またKEAP1自体の量が変わらなかったことから、HMOX1の発現上昇はNRF2の発現量そのものの増加、あるいはNRF2が核内へ移動する働きが促進されたことによるものと考察されています。さらに、水画分ではこうした変化が見られなかったことから、効果に関わる成分はエタノールに溶けやすい脂溶性の成分であることが示唆されました。
この研究を読むうえでの注意
今回の実験は、ヒトの体そのものではなく、培養したHeLa細胞という一つの細胞株を使って行われたものです。ヒトが赤シソエキスを摂取した場合に同じ変化が体内で起こるかどうかや、健康への影響については、この研究だけでは分かりません。あくまで細胞レベルで遺伝子の発現量に変化が見られたという基礎的な知見であり、一つの研究として今後さらなる検証が必要な段階だといえます。
まとめ
この研究では、赤シソエキスやそのエタノール画分をHeLa細胞に加えると、抗酸化に関わるNRF2とHMOX1の発現量が上昇することが示されました。効果に関与する成分はエタノールに溶けやすい脂溶性のものである可能性が示唆されていますが、これは細胞を用いた基礎研究の段階の知見であり、健康効果を断定するものではありません。
※本記事は原著論文の翻訳ではなく、研究内容を独自に解説したものです。参考文献:Taro Honma, Yuki Sugaya, Sarina Ogawa, et al. 赤シソエキスが細胞の酸化ストレス関連遺伝子発現変化に与える影響. 日本食品科学工学会大会講演要旨集 (2026). DOI: 10.3136/aamjsfst.72.0_80.