著者の所属・活動拠点の国は、タンザニア、モザンビークです。
掲載誌:Insects
ライセンス: CC BY 対象: 公開論文 確認元: OpenAlex
研究の目的:農薬に頼りすぎない害虫対策を探す
トマトキバガ(学名 Tuta absoluta)は、南米ペルーを起源とし、ヨーロッパ、アジア、地中海沿岸、そして近年はアフリカへと広がった害虫です。幼虫が葉の内部に潜り込んで食べ進むため、トマトに大きな被害を与えます。ジャガイモ、ピーマン、ナスなど、ナス科の作物も被害を受けます。
論文によると、多くの農家は合成殺虫剤を繰り返し散布して対策しています。しかし葉の中にいる幼虫には薬剤が効きにくく、散布量が増えがちです。その結果、殺虫剤への抵抗性の発達や、環境への薬剤の残留が問題になっていると著者らは指摘しています。
そこで研究チームが注目したのが「コンパニオンプランツ」です。作物の近くに植えることで、香りなどを通じて害虫を遠ざけたり、天敵を呼び寄せたりすることが期待される植物を指します。著者らは、トマトキバガを対象にしたコンパニオンプランツの研究はまだ少ないとして、タンザニア南部高地のムベヤ地域で有望な植物を探し、その効果を段階的に調べました。
何を調べたか:香りの選別から網室での栽培試験まで
最初に、文献調査と農家への聞き取りをもとに、地元で入手しやすく経済的価値のある候補植物14種類を選びました。候補には、オレガノ、チャイブ、リーキ、マリーゴールドの一種、アフリカンキャットミント(学名 Aeollanthus fruticosus)などが含まれます。比較の基準には、先行研究でトマトキバガへの効果が確認されているローズマリーを用いました。
選別には「Y字管オルファクトメーター」という装置を使いました。Y字形のガラス管の二つの腕にそれぞれ別の植物の香りを含む空気を流し、成虫がどちらの腕へ進むかを観察して、香りへの好き嫌いを調べるものです。ここでは、候補植物の香りとトマトの香りのどちらを成虫が選ぶかを比べました。予備的な確認では、何もない空気とトマトの香りを比べた場合、93.75%の成虫がトマトの側を選びました。
次に、選ばれた2種類の植物について、大型のケージでトマトのそばに置き、ガの雌を放して産卵数と葉の被害を調べました。最後に、240平方メートルの網室(防虫網で囲った栽培施設)でトマトをこれらの植物で囲み、約1000匹の雌を放して試験しました。網室試験では、水だけを散布したトマトと、合成殺虫剤(クロルフェナピル)を散布したトマトも比較対象にしました。
主な結果:チャイブとアフリカンキャットミントに忌避効果
Y字管による選別では、オレガノ、アフリカンキャットミント、ローズマリー、チャイブ、リーキ、マリーゴールドの一種の6種類が、成虫を有意に遠ざけたと報告されています。研究チームはこのうちチャイブとアフリカンキャットミントを詳しい試験の対象に選びました。
トマトと植物を1鉢ずつ置いたケージ試験では、トマト1株あたりの平均卵数がトマト単独で73.3個だったのに対し、チャイブを添えると45.5個、アフリカンキャットミントを添えると50.3個に減りました。葉の被害割合も、トマト単独の約66%に対し、チャイブで約47%、アフリカンキャットミントで約34%と低くなりました。トマトを2鉢にしたケージ試験でも、これらの植物のすぐ近くに置いたトマトでは卵数と葉の被害が大きく減りました。
網室試験では、平均卵数が水散布のトマトで約31.6個だったのに対し、チャイブで囲んだトマトでは約7.3個、アフリカンキャットミントでは約12.1個でした。この試験ではチャイブの卵数がアフリカンキャットミントより有意に少なくなりました。葉の被害割合は、チャイブで囲んだトマトが約14%で、殺虫剤散布の約10%と統計的な差はありませんでした。一方、2種類を組み合わせた区画の被害割合は約39%で、アフリカンキャットミント単独と比べて有意な差は見られませんでした。
また、どの試験でも、産卵数が多いほど葉の被害割合も高いという正の相関が見られたと報告されています。
研究が示すこと
研究チームは、チャイブとアフリカンキャットミントがトマトキバガを遠ざける植物として有望であり、なかでもチャイブが最も効果的だったと結論づけています。産卵が減った理由について、著者らは植物の香りがガの宿主探しを妨げた可能性を挙げていますが、アフリカンキャットミントの香り成分は今回分析していません。また、試験は実験室、ケージ、網室で行われたもので、一般の畑での効果はまだ確かめられていません。
それでも、身近な植物をトマトのそばに置くだけで、殺虫剤に近い水準まで葉の被害が抑えられた例があったことは、農薬への依存を減らす害虫対策の手がかりになる成果といえます。
原著論文の著者・所属:Abubakar Mshora(Department of Crop Science and Horticulture, College of Agricultural Science and Technology, Mbeya University of Science and Technology (MUST), Mbeya P.O. Box 131, Tanzania; Department of Plant Protection, Faculty of Agronomy and Forestry Engineering, Eduardo Mondlane University (UEM), Maputo P.O. Box 257, Mozambique)、Marco Mng’ong’o(Department of Crop Science and Horticulture, College of Agricultural Science and Technology, Mbeya University of Science and Technology (MUST), Mbeya P.O. Box 131, Tanzania)、Luisa Santos(Department of Plant Protection, Faculty of Agronomy and Forestry Engineering, Eduardo Mondlane University (UEM), Maputo P.O. Box 257, Mozambique)、Tomás Chiconela(Department of Plant Protection, Faculty of Agronomy and Forestry Engineering, Eduardo Mondlane University (UEM), Maputo P.O. Box 257, Mozambique)
※本記事は原著論文をもとに、日本語で要約・説明を加えた研究紹介です。 出典(原著論文):Abubakar Mshora, Marco Mng’ong’o, Luisa Santos, et al. Multi-Plant Screening and Controlled Evaluation of Two Selected Plant Species Against Tuta absoluta (Meyrick). Insects 2026-09-21. DOI: 10.3390/insects17090977. 原著ライセンス:CC BY.