著者の所属・活動拠点の国は、香港です。
掲載誌:Frontiers in Nutrition
ライセンス: CC BY 対象: 公開論文 確認元: OpenAlex
カロリー計算だけでは見えない「加工の度合い」
食事の健康度を測るアプリの多くは、カロリーやたんぱく質・脂質・炭水化物の量を計算します。一方で、食品が工業的にどの程度加工されているかという観点は、こうしたアプリではほとんど扱われてきませんでした。食品の加工度を分類する代表的な枠組みに「NOVA分類」があります。これは食品を、未加工または最小限の加工の食品(グループ1)、調理用の素材(グループ2)、一般的な加工食品(グループ3)、超加工食品(グループ4)の4段階に分けるものです。論文は、超加工食品を多く食べることと、代謝や消化器の病気、がんなどとの関連を報告した先行研究を背景として紹介しています。
著者らによると、栄養量を計算するアプリとNOVA分類を判定するアプリはこれまで別々に存在し、両者を結びつける仕組みはありませんでした。そのため、家庭で作った料理と、添加物を多く含む工業製品とが、カロリー計算の上では同じように見えてしまうことがあります。また、写真から料理の量や体積を推定する従来の手法は、1枚の画像から立体の大きさを割り出す必要があり、数値が不安定になりやすいと著者らは指摘しています。研究チームはこの課題に対し、食事写真から栄養と加工度の両方を評価する仕組みの構築を目指しました。
4段階で写真を読み解く仕組み
研究チームが提案したのは、画像と文章の両方を扱える大規模言語モデル(マルチモーダルLLM)と、食品データベースを組み合わせた仕組みです。IoT機器との連携も想定されています。この仕組みは1皿ずつの料理写真を対象とし、処理を4つの段階に分けています。
第1段階では、写真の中から料理の部分を切り出し、モデルが料理名を推定します。推定した名前は食品安全センター(CFS)のデータベースと照合し、完全に一致しない場合は言語モデルが名前を整えたうえで、あいまい検索によって近い項目を探します。第2段階では、データベースから100グラムあたりの栄養成分を取り出します。登録されていない料理については、外部の栄養データベースを参照しながら言語モデルが値をまとめます。
第3段階では、食品情報を共有するオープンデータベース「Open Food Facts」からNOVA分類を探します。分類が見つからない場合は、言語モデルが原材料の構成を読み取り、超加工食品に特有の特徴を判定します。最後の第4段階では、栄養価の高低と超加工食品かどうかの2つの軸を組み合わせた表に料理を当てはめます。結果は、栄養豊富な自然に近い食品を示す「緑」、中間的な位置づけの「黄」、エネルギーが多く栄養の乏しい超加工食品を示す「赤」の3色で示されます。
この仕組みでは、料理の量を推定する工程を意図的に省いています。代わりに100グラムあたりという共通の基準で評価することで、量の推定に伴う不安定な数値を避けることをねらっています。
評価用データの構築と主な結果
性能を確かめるため、研究チームは「Nutrition-NOVA」という評価用データセットを新たに作りました。CFSデータベースの栄養成分の情報と、Open Food FactsのNOVA分類を、意味の近さに基づいて自動的に対応づけたものです。著者らは、既存のデータベースではNOVAに関する情報の75.0%が欠けていたと報告しており、このデータセットはその欠落を補うために構築されました。
このデータセットを使った実験では、基本構成として用いたモデル「Qwen-VL-Max」が、論文で採用された「隣接精度(adjacent accuracy)」という指標で77.7%を記録しました。さらに、各段階の出力形式を厳密に統一した結果、モデルを作り直すことなく、商用のクラウドサービスのモデルと、手元のサーバーで動かす公開モデルとを自由に差し替えられることも示されました。
この研究が示すもの
著者らは、この仕組みを「安全性を重視したスクリーニング(ふるい分け)の道具」と位置づけています。見た目の印象から料理を判断する段階と、言語モデルによる加工度の判断とを切り離し、データベースの情報不足を補う工夫を組み込んだ点が特徴です。これによって、食事写真という身近な情報から、栄養と加工度の両面に基づく食事のリスク分類へとつなげる道筋を示したと論文はまとめています。カロリー計算だけでは捉えにくかった「どれだけ加工された食品か」という視点を、自動的な食事評価に組み込もうとする試みといえます。
原著論文の著者・所属:Zebang He(Department of Science and Environmental Studies, The Education University of Hong Kong, Hong Kong)、Steve W. Y. Mung(Department of Science and Environmental Studies, The Education University of Hong Kong, Hong Kong)、Peggy Pui Lai Or(Department of Health and Physical Education, The Education University of Hong Kong, Hong Kong)、Chetwyn C. H. Chan(Department of Psychology, The Education University of Hong Kong, Hong Kong)
※本記事は原著論文をもとに、日本語で要約・説明を加えた研究紹介です。 出典(原著論文):Zebang He, Steve W. Y. Mung, Peggy Pui Lai Or, et al. IoT-enabled multimodal large language model-based framework for compositional food recognition, nutrient profiling, NOVA classification, and cancer risk mitigation. Frontiers in Nutrition 2026-10-26. DOI: 10.3389/fnut.2026.1970182. 原著ライセンス:CC BY.