著者の所属・活動拠点の国は、シンガポールです。

掲載誌:Frontiers in Nutrition

ライセンス: CC BY 対象: 公開論文 確認元: OpenAlex

研究の目的:炭水化物量の見積もりをAIで支援できるか

1日に何度もインスリンを注射する糖尿病の人は、食事に含まれる炭水化物の量に合わせて食事時のインスリン量を決めます。そのため、炭水化物量を正確に見積もる「カーボカウント」が日々の自己管理の要になります。論文によると、見積もりの誤差がプラスマイナス10グラム以内なら血糖への影響は小さいとされる一方、20グラム前後ずれると食後の血糖に大きく影響し、低血糖や高血糖の危険が高まると報告されています。

研究チームが拠点を置くシンガポールでは、ホーカーセンター(屋台街)やフードコートなど外食の機会が多く、米や麺を中心とした炭水化物の多い料理が一般的です。盛り付けの量はまちまちで、栄養表示もほとんどありません。中華、マレー、インド、プラナカンなど多様な料理が混在していることも、見積もりを難しくしています。また、これまで評価されてきた写真による炭水化物推定アプリは、主に欧米や北欧の食事で検証されており、アジアの料理、特に複数の食材が混ざった料理での検証は限られていました。

そこで著者らは、アジアの多様な料理を想定して開発された写真解析システム「NutriDish」と、汎用の対話型AIである「ChatGPT-5」に食事写真から炭水化物量を推定させました。そして、それぞれの推定値を、栄養士が実際に食品を量って算出した値と比べ、どれだけ近いかを調べました。

何をどのように調べたか

研究チームは2025年7月から8月にかけて、シンガポール各地のホーカーセンター、フードコート、レストラン、家庭から料理を集めました。あわせて、スーパーやコンビニエンスストアなどで栄養表示のある包装食品も集めました。食品は、果物や卵、白ご飯のような単一の食品(単純な食品)と、複数の食材を組み合わせた料理(複合的な料理)に分類しました。スープ類、飲み物、ソースと混ざった料理は、見た目だけでは量を推定しにくいため対象から外しました。最終的な分析対象は150品で、内訳は単純な食品90品、複合的な料理60品でした。

NutriDishでは、大きさの目安となる「基準物」を料理と一緒に写します。基準物には決まった規格の皿、弁当箱や発泡スチロール容器、硬貨などが使われ、包装食品では栄養表示も基準物として扱われました。撮影は真上からと斜めからの2方向で行います。システムは写真から食品を見分け、基準物を手がかりに量を推定したうえで、200万件以上の食品データを持つ栄養データベースと照合して栄養価を計算します。ChatGPT-5には同じ写真を一般向けのウェブ画面からアップロードし、「炭水化物の量を推定してください」という決まった依頼文を1回だけ送って、その回答を記録しました。

比較の基準となる値は、登録栄養士が食品や料理の各食材をはかりで量り、栄養成分データベースを使って算出しました。包装食品については栄養表示の値を用いています。栄養士には二つのAIの推定値を知らせない形で作業してもらいました。精度の評価には、基準値とのずれの大きさを平均した「平均絶対誤差」、ずれを基準値に対する割合で表した「平均絶対パーセント誤差」、誤差がプラスマイナス10グラム以内に収まった割合などを用いました。さらに、推定値が全体として多めや少なめに偏る傾向があるかも分析しました。

主な結果:NutriDishの誤差がより小さかった

150品全体で見ると、平均絶対誤差はNutriDishが5.9グラム、ChatGPT-5が8.7グラムで、NutriDishのほうが統計的に有意に小さい結果でした。基準値に対する割合で見た誤差も、NutriDishが平均22.1%、ChatGPT-5が平均32.9%でした。誤差がプラスマイナス10グラム以内に収まった割合は、NutriDishが80.7%、ChatGPT-5が69.3%でした。

推定値の偏りについては、NutriDishでは全体として多めや少なめに偏る明確な傾向は認められませんでした。一方、ChatGPT-5では平均で約2.8グラム多めに見積もる傾向が統計的に確認されました。個々の食品ごとの推定のばらつきも、NutriDishのほうが小さいと報告されています。

NutriDishの結果をさらに詳しく見ると、単純な食品のほうが複合的な料理より正確でした。平均絶対誤差は単純な食品で4.1グラム、複合的な料理で8.6グラムで、プラスマイナス10グラム以内に収まった割合はそれぞれ91.1%と65.0%でした。著者らは、複数の食材が混ざった料理では、食材の見分けや量の把握が難しくなることを示す結果だと述べています。

基準物の種類によっても精度に差がありました。栄養表示が写っている場合が最も正確で、平均絶対誤差は2.7グラムでした。これに対し、硬貨を基準物にした場合は9.3グラムと最も大きな誤差になりました。皿や弁当箱・容器を使った場合はその中間でした。論文は、基準物の選び方が推定の精度に大きく影響すると結論づけています。

この研究が示すこと

著者らは、NutriDishの推定値が栄養士の算出値とよく一致したことから、インスリン治療を受けている人のカーボカウントを支援できる可能性があると結論づけています。また、食品データベース、量の推定の仕組み、決まった撮影方法を組み合わせた専用の設計は、汎用AIよりも安定した推定につながりうると考察しています。

ただし、この研究で調べたのは集めた食品そのものに対する推定の精度であり、患者が実際に使った場合の効果を検証したものではありません。それでも、アジアの多様な外食環境で、写真に基づくAIの炭水化物推定がどの程度の精度を持ち、どのような料理や撮影条件で誤差が大きくなりやすいのかを具体的に示した点に、この研究の意味があります。

原著論文の著者・所属:Xia Lian(Alice Lee Center for Nursing Studies, Yong Loo Lin School of Medicine, National University of Singapore; Department of Endocrinology, Tan Tock Seng Hospital; Department of Nursing, Tan Tock Seng Hospital)、Weixiang Lian(Department of Epidemiology & Preventive Medicine, Tan Tock Seng Hospital)、Hwee Pin Phua(Department of Epidemiology & Preventive Medicine, Tan Tock Seng Hospital)、Alvin Wai Kit Tan(Department of Endocrinology, Tan Tock Seng Hospital)、Huiling Liew(Department of Endocrinology, Tan Tock Seng Hospital)、Eunice Yu Wen Goh(Department of Nursing, Tan Tock Seng Hospital)、Christina Yang Hoon Goh(Department of Nursing, Tan Tock Seng Hospital)、Melissa Hui Li Ho(Department of Nutrition & Dietetics, Tan Tock Seng Hospital)、Puay Shi Ng(Department of Nutrition & Dietetics, Tan Tock Seng Hospital)、Isaac Jun Song Tan(Department of Nursing, Tan Tock Seng Hospital)、Helen Lim(Department of Nursing, Tan Tock Seng Hospital)、Sanchalika Acharyya(Clinical Research & Innovation Office, Tan Tock Seng Hospital)、Jocelyn Han Shi Chew(Alice Lee Center for Nursing Studies, Yong Loo Lin School of Medicine, National University of Singapore)、Wenru Wang(Alice Lee Center for Nursing Studies, Yong Loo Lin School of Medicine, National University of Singapore)、Rinkoo Dalan(Department of Endocrinology, Tan Tock Seng Hospital; KLARIS Precision Health Research Clinic, Department of Endocrinology, Tan Tock Seng Hospital; Lee Kong Chian School of Medicine, Nanyang Technological University)

※本記事は原著論文をもとに、日本語で要約・説明を加えた研究紹介です。 出典(原著論文):Xia Lian, Weixiang Lian, Hwee Pin Phua, et al. Comparative accuracy of automated carbohydrate estimation using NutriDish and ChatGPT-5 against dietitian-derived reference values. Frontiers in Nutrition 2026-09-29. DOI: 10.3389/fnut.2026.1927840. 原著ライセンス:CC BY.