この研究は、エクアドルの研究機関の研究論文です。

掲載誌:Microorganisms

ライセンス: CC BY 対象: 公開論文 確認元: Europe PMC

何を明らかにしようとしたのか

牛乳から作られるフレッシュチーズ(熟成させない「白チーズ」とも呼ばれる種類)は、水分が多くやわらかく、モッツァレラやブッラータ、ブラジルのミナス・フレスカル、中南米の伝統的なチーズなどが含まれます。水分やpH、塩分といった性質が微生物の増殖に適しているため、冷蔵していても品質が落ちやすく、賞味期間が短いことが知られています。腐敗が進むと色・味・におい・食感が変わり、商品として廃棄されることにつながります。

著者らは、個々のチーズを対象にした研究は蓄積されているものの、どの細菌がどのチーズでどのように報告されてきたのか、またそれらをどう調べてきたのかという情報が研究ごとに散在していると指摘しています。そこで本研究は、フレッシュチーズの腐敗に関連する細菌の多様性、腐敗に伴う理化学的・官能的な変化、そして細菌を同定・定量するために使われてきた方法を整理することを目的としました。

どのように調べたか

この研究は「スコーピングレビュー」と呼ばれる手法をとっています。これは、あるテーマについて既に公表されている研究を幅広く集め、どんな証拠がどれだけ存在するかを地図のように描き出す方法です。個々の研究の質を採点したり優劣をつけたりすることは目的としないため、著者らも意図的に研究の質の評価は行っていないと述べています。

複数の文献データベースを検索した結果、7379件の記録が集まり、重複を除いたうえで題名・要旨の確認と全文の精査を経て、最終的に30件の研究がまとめの対象となりました。対象研究の発表年は1992年から2025年にわたり、ヨーロッパと中南米の国々で行われたものが含まれます。扱われていたチーズはモッツァレラ(10件)と、ソフト・白・フレッシュタイプのチーズ(9件)が最も多く、続いてフィオル・ディ・ラッテ、ミナスチーズなどでした。

報告された主な結果

最も多く報告された腐敗関連細菌は、シュードモナス属(Pseudomonas spp.)で、30件中23件(76.67%)の研究に登場しました。これは低温でも増殖できる「好冷性」の性質をもち、タンパク質や脂質を分解する酵素を菌体の外に出すグループです。次いで、微生物の総数の目安である生菌数の測定が13件、乳酸菌が10件で報告されました。芽胞をつくる細菌(バチルス属やクロストリジウム属)は2件と少数でしたが、ガスの発生やチーズの膨張といった特定の欠陥と結びつけて報告されていました。全体として、シュードモナス属と腸内細菌科という、いずれもグラム陰性で低温に強い細菌群が優勢だったと著者らはまとめています。

腐敗に伴う変化としては、保存中のpH低下が7件で報告されました。たとえばストラッチャテッラでは、保存の初期に5.8〜6.0だったpHが、終わりには4.8〜5.2まで下がったという報告が紹介されています。官能面では、においや味の変化、食感の崩れ、表面の劣化、受容性の低下などが10件で、変色は6件で報告されました。変色には濃い青、灰色、黄色、橙褐色といった色調が含まれます。保存期間終了時の生菌数はチーズによって幅があり、6.37〜9.33 log CFU/gの範囲で、モッツァレラが最も高い水準(7.70〜9.33 log CFU/g)でした。

調べ方については、培養によって菌を数え分離する従来型の手法が30件中28件(93.33%)と圧倒的に多く用いられていました。一方、PCRや16S rRNA遺伝子の解読といった分子生物学的手法は6件、次世代シーケンサーを使った網羅的な解析は3件にとどまりました。著者らは、培養法は生きた菌を数えて性質を確かめられる点で今も欠かせないが、培養しにくい菌を見落とす可能性があり、分子的手法や網羅的な解析はより細かい分類ができる反面それぞれ制約があるとして、単独の方法では腐敗微生物の全体像はつかめず、組み合わせて使うことが望ましいと述べています。

この整理が示すこと

著者らは、今回示された傾向は微生物の多い少ないの順位づけではなく、あくまで「これまでにどんな証拠が集まっているか」の見取り図として読むべきだと注意を促しています。研究ごとにチーズの種類、包装、保存温度、培地、指標が大きく異なるうえ、保存期間を通じて細菌群の入れ替わりを追跡した研究がなかったことも、現在の文献の限界として挙げられています。

それでも、低温に強いグラム陰性菌が繰り返し報告されているという事実は、搾乳から製造、塩水漬け、スライス、包装、冷蔵保存に至る各工程での衛生管理が品質保持の要になることを示しています。腐敗に関与する菌とそれが引き起こす具体的な欠陥を対応づけて整理したことは、フレッシュチーズの品質管理や日持ちの検討を進めるうえでの出発点になる、というのが本レビューの伝えるところです。

著者:Anchundia M(Food Engineering Program, Universidad Politécnica Estatal del Carchi, Tulcán 040102, Ecuador.)、Santacruz S(School of Agroindustrial Engineering, Universidad Laica Eloy Alfaro de Manabí, Manta 130222, Ecuador.)

※本記事は原著論文をもとに、日本語で要約・説明を加えた研究紹介です。 出典(原著論文):Anchundia M, Santacruz S. Spoilage-Associated Bacteria in Fresh Cow Cheeses: Diversity, Spoilage-Related Changes, Quantification and Identification Approaches-A Scoping Review. Microorganisms 2026-09-02. DOI: 10.3390/microorganisms14091936. 原著ライセンス:CC BY.